日本財団 図書館


2. 財源と事業化支援
2-1. 連邦政府の制度
2-1-1. SBIR(Small Business Innovation Research)
 SBIR(Small Business Innovation Research)プログラムは、1982年の中小企業技術革新開発法(SBIDA; Small Business Innovation Development Act)に基づいて確立された。同法に沿ったSBIRプログラムの目的は、連邦資金による調査及び研究開発(R/R&D)における中小企業(SBC; Small Business Concern)の役割を強化することである。
 
 SBIRプログラムは、その発足以降、連邦政府のプログラムのなかでも特に大きな成果をあげてきた。会計検査院とSmall Business Administrationによる調査でも、このプログラムは経済成長を促すような技術革新の動機付けとして効果的であると同時に、連邦政府の研究開発ニーズも満たしていることが明らかとなっている。SBIRプログラムに参加している10省庁の政府機関すべてがこのプログラムはそれぞれの機関の研究プログラムに有益な影響をもたらしていると報告している。
 
 SBIRプログラムは、提案を公募し、政府機関のニーズや任務を満たすようなR/R&Bに段階的に助成金契約を与えるプロセスで、これは連邦政府全体に共通している。連邦R/R&Dの事業化促進を含め、科学技術の発展を刺激し育成するため、同プログラムを提供する場合は必ずフェーズI、フェーズII、フェーズIIIという3段階の共通した競争プロセスを採るように定められている。
 
(SBIRとOffice of Naval Research(ONR))
 米国海軍は、Office of Naval Research(ONR)のSBIR(Small Business Innovation Research)プログラムを通じて、科学技術プログラムを支援している。米海軍では、技術開発の裾野を広げ、且つ、民間の能力を活用して機器の軍民両用(Dual use)を進めることにより、その調達コストや運用コストの低減を図るべく、
(1)米海軍が実際に必要としている技術開発課題を産業界に対して提示し、民間の提案を募る
(2)米海軍の開発担当者と関心を有する企業とのネットワーキングを図る
(3)特に、特定の大規模軍需企業を除いては米価軍の要望に1社では対応できない事例も多いことから、関連する要素技術(Seeds)を有する企業のコラボレーションを図る
(4)有望な技術を有するベンチャー企業の技術の商業化を促進し、これを米海軍が利用できるようにするために準備した各種支援スキームの周知を図り、その利用を促す
(5)ONRがこれまで助成を行い開発した各種技術の民生利用を促進し、市場拡大を通じてトータルでのコスト削減を図る
等の対策を進めている。
 
 SBIRも、その一環であり、次の選択基準に基づき、資格があると判断された中小企業が競争により契約を獲得できる。
・アプローチの健全性
・技術的メリット/技術革新性
・投資者/企業の資格
・事業化の可能性
 このプログラムの目標は、研究を将来の海軍の能力(FNC; Future Naval Capability)に役立つものや海軍SYSCOM(Systems Command)取得プログラムに直結するものへと変えることである。
 
 1999年以降、海軍及び海運関連企業が短期的に適用した科学技術の取り組みの多くは、FNCを達成する手段の提供に重点が置かれてきた。FNCの承認と優先順位付けを行っているのは海軍省のScience and Technology Corporate Boardである。各FNCは統合製品チーム(IPT; Integrated Product Team)の監督下にあり、IPTは要求、取得、科学技術、資源スポンサー、運用に関連するすべての関係者の考え方が反映されるように調整している。
 
 2001年5月、Science and Technology Corporate Boardは次に示す12個のFNCを承認した。
・自律運営有能な人的資源
・改良型電気システム
・艦隊/部隊の保護
・高度な知識と保証
・沿海における対潜水艦戦闘
・沿海戦闘及び海上からの戦力投入
・ミサイル防衛
・有機的地雷対抗策
・厳密な時間管理に基づく攻撃
・艦船等の総所有コストの削減
・戦闘員の保護
 
(参加者)
 海軍のSBIRプログラムはONRの管理下にある。海軍のSBIRプログラムには次の参加者が関与している。
・米海軍水上戦闘センター(Naval Sea Systems Command; Warfare Centers)プログラムマネージャー
・米海軍航空戦闘センター(Naval Air Systems; Warfare Centers)プログラムマネージャー
・米海軍海事技術本部科学技術部及び船舶技術研究所(Office of Naval Research; Science&Technology Directorates及びNaval Research Laboratory)
・米海軍宇宙戦闘センター(Space&Warface Systems Command; Warfare Centers)プログラムマネージャー
・海軍海兵隊システム部隊(Marine Corps Systems Command)副プログラムマネージャー
・海軍補給システム部隊(Naval Supply Systems Command)
・海軍施設システム部隊(NAVFAC; Naval Facilities Systems Command)
 
(プログラムの対象分野)
 海軍は、プログラムの支援対象分野として、海軍の任務の達成に不可欠な14の科学分野と19の技術分野を定めている。これらの33分野は以下のとおりである。
 
科学分野
大気・宇宙科学
生物学・医学
化学
認知・神経科学
コンピュータ科学
電子
環境科学
製造科学
材料
数学
力学
海洋科学
物理学
地球科学
 
技術分野
航空宇宙推力・電力
航空宇宙ヴィークル
戦闘空間環境
化学・生物学防衛
衣服、繊維、食品
指揮、制御、通信
コンピュータ及びソフトウェア
通常兵器
電子機器
電子戦
環境品質・工学
ヒューマンシステムインターフェイス
労働力、人員、教育訓練
製造技術
材料及び構造
医療
モデリング及びシミュレーション
センサー
水上/水中/地上車両 
 
フェーズI − このフェーズの目的は、提案された取り組みの科学的なメリットと技術的な実現可能性及びその中小企業団体の実績の質を判断することである。フェーズIでは、ONRは最大70,000万ドルの固定価格契約を付与する。フェーズI契約の実施期間は通常6か月である。
フェーズII − フェーズIIは、調査または研究開発の主な作業段階である。フェーズIIに進むことができるのは、フェーズIを完了し、成果をあげた企業だけである。フェーズIIの契約獲得者は、フェーズIの結果と、フェーズIIの提案の科学技術的メリット、及び商業的可能性に基づいて選抜される。
 フェーズIIでは、研究のコスト及び固定価格契約として、ONRから最大450,000ドルの資金が提供される。入札者は、6〜12か月の2年目オプション2つと6か月の「橋渡し」オプション(最大各100,000ドル)を申し込むように奨励されており、これによってONRは、各取り組みを合計750,000ドルまで拡張したり、フェーズ間の資金不足による悪影響を最小限に抑えることができる。
 フェーズII助成金は、場合に応じて750,000ドルの上限を超えることもある。特に、その取り組みをよく理解している科学技術(S&T)プログラムオフィサー(PO)、政府のプログラムマネージャー、そして民間部門の第三者が、SBIR以外の財源から共同または単独で研究課題に見合い額(matching amount)を提供するような場合は、この上限を超えることができる。
フェーズIII − このフェーズの目的は、フェーズIIの結果の商用開発と応用である。ただし、SBIR助成金として確保されている資金は、フェーズIIIには利用できない。政府機関はフェーズIIIに他の財源から資金を提供してもかまわないが、開発者は通常、SBIR資金による調査または研究開発の商用化に、連邦資金以外の財源を見つけなければならない。
 
海軍のSBIR助成実績
  1999 2000 2001 2002 2003
助成金額 (単位:百万$) 112 125 129 158 171
トピック数 114 126 192 207  
フェーズI提案数 2,169 1,311 1,798 3,072  
フェーズI採択数 406 213 241 573  
フェーズII採択数 108 186 136 170  
出典:Dept of Defense
 
2001年の海軍SBlR資金の技術別の内訳(1億2,900万ドル)
出典:Dept of Defense
 
(助成の受給資格)
 フェーズI、フェーズII、フェーズIIIの契約助成金の各段階における海軍SBIR資金の受給資格は、次のとおりである。
 
・所有も運営も独立している。
・提案の事業分野のシェアを独占していない。
・本拠地が米国内にある。
・営利企業である。
・少なくとも51%(公営企業の場合は議決権株式の少なくとも51%)は米国市民または法的に永住権を取得した外国人が所有している。
・関連会社も含めて、従業員数が500人以下(米国の定義でいう「中小企業」)であること。2社がジョイントベンチャーとして正式に1つの提案を提出する場合は、フェーズI、フェーズII、フェーズIIIの契約締結時点において、両社の合計従業員数が500人を超えてはならない。
 
2-1-2. CRADA(Cooperative Research and Development Agreement)
 CRADA(Cooperative Research and Development Agreement)の根拠法は、1980年スティーブンソン・ワイドラー技術革新法(Stevenson-Wydler Technology Innovation Act of 1980)である。その後、この法律は修正されて1986年連邦技術移転法(Federal Technology Transfer Act of 1986)が成立した。
 CRADAは、連邦が開発した技術の事業化促進を目的として、連邦の研究所が米国産業界、学界、及びその他の組織と研究開発プロジェクトで協力できるようにする提携プログラムである。CRADAでは、プロジェクトの分担構成、知的所有権、機密情報やCRADA研究結果の保護に関して柔軟な運用が可能である。
 CRADAについては、セクション3及び4で詳述する。
 
 なお、ONR(NAVSEA等の研究組織を含む)がSBIR等の助成を行っていることは前に述べたが、ONRはSBIR以外にも委託研究等を通じて様々な技術開発を行っている。この委託研究等によって獲得した知見(知的所有権)については、これを海軍の艦船や機器、航空機等への使用に限定したのでは、市場が非常に狭いためその調達コストは高くなる。そこで、舶用関連技術の軍用・民生用のDual use化をめざす米海軍では、ONRの商業技術移転推進官(CTTO; Commercial Technology Transition Officer)が中心となって、軍事技術の民生利用を勧め、これにより技術のDual-Use化を図っている。
 具体的には、毎年夏にワシントンD.C.においてNaval Industry R&D Partnership Conferenceを開催し、その際に舶用関連技術Marketplaceという軍と関心を有する事業者との1対1の相談会を開催している。このスキームでは、既に公示してある民間事業者が利用可能な知的所有権について、民生利用に係る事業化計画の提出を受けて、事業家の可能性が高いものに対して非排他的な使用権(一部については排他的な使用権もある)を認めるというもの。制度の目的が技術のDual-Use化であることから、その使用料もかなり低率に設定する旨公表している。
 
2-1-3. 連邦助成金とスカラーシップ
 ONR(Office of Naval Research)は、海洋音響分野への海軍独自の関わりと国家責任に対応するため、2004会計年度に以下の3つの特別助成金制度を設け、提案を受け付けることとした。
 
(Graduate Traineeship Awards 大学卒業生向け)
 この助成金は、博士号につながる調査研究を対象とし、海洋音響、または海中信号処理、海洋構造音響、トランスデューサー(圧力変換器)材料科学といった、関連分野の高度な学習に対して特別な資質と希望を示した個人に与えられる。
 申請者は、申請年以前3年以内に学士号または修士号を取得し、海洋科学または関連分野の博士号取得プログラムを持つ教育機関への入学を計画していなければならない。助成金の授与期間は36ヶ月で、学生の授業料、給与、諸費用すべてが助成金でまかなわれる。
 ONRは毎年5〜8件の新たな教育訓練助成金の交付を予定している。
 
(Postdoctoral Fellowship Awards 大学院卒業生向け)
 この助成金は、海洋音響、または海中信号処理、海洋構造音響、トランスデューサー材料科学といった関連分野の研究の継続を希望する優秀なPh.D.に与えられる。申請者は、所属する高等教育機関または海軍研究所において、海洋科学者または音響技師として認められていなければならない。この博士課程終了後助成金の期間は24か月である。給与と手当ての全額がこの助成金でまかなわれる。
 ONRは毎年このような助成金を3〜5件交付する予定である。
 
(Entry-Level Faculty Awards 大学教員向け)
 この助成金の目的は、若く優秀な大学教員の研究を支援することによって、海洋音響、または海中信号処理、海洋構造音響、トランスデューサー材料科学といった関連分野における研究キャリアを奨励することである。申請者は、米国市民でなければならない。また、tenure-trackの地位を最初に獲得してから4年以内に申請する必要がある。助成金受給者は、今までの実績と提案の質に基づいて選抜される。選抜された若い大学教員の科学者には、36か月間にわたり、毎年100,000ドルの助成金が支給される。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION