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1. 舶用ベンチャーを巡る周辺事情
 米国では、中小企業が開発した新技術の事業化促進を目的として様々な機関、支援センター、協会、ビジネスインキュベーターが設立されている。それは、新事業の創設や技術革新に中小企業が大きく貢献している事実が公的にも、また民間レベルでも認められているからである。船舶・海運関連の新技術開発を主な事業とする小規模ベンチャー企業にも、同様の支援メカニズムが適用されている。
 
 このような米国の中小企業支援メカニズムに関し、その主要関係者、官民の財源、技術支援、技術移転、研究開発協力に重点をおいて調査し、包括的な情報を提供することがこの調査報告書の目的である。また、この報告書では、船舶・海運関連の新技術の事業化支援に関連した様々な中小企業の成功事例もケーススタディとして紹介する。
 
1-1. 船舶・海運関連技術の関係者
 海軍や船舶・海運業界の新技術開発に取り組む中小企業の事業化支援には、様々な組織が関与している。主な関係者は以下のとおりである。
 
(MARAD)
 米国運輸省海事局(MARAD; Maritime Administration)の任務は、米国の経済及び防衛上のニーズを満たすために、米国の海上輸送システム(インフラ、産業、労働力)を強化することである。MARADは、米国海運産業が米国の国内海上貿易とかなりの部分の国際海上貿易を支え、かつ戦時や国家非常時には海軍や陸軍の補助的役割も果たすことができるようにするため、適切かつバランスの良い海運産業の発展維持に努めている。また、米国が適切な造船・修理サービス、効率的な港湾、水陸運輸の効果的な連携、国家非常時用の予備の船積み能力を維持できるようにすることもMARADの任務である。
 
(ONR)
 米海軍海事技術本部(ONR; Office of Naval Research)は、学校、大学、政府の研究所、非営利組織及び営利組織を通じて、米国海軍及び海運関連企業の科学技術プログラムを調整し、実施し、推進している。また、海軍作戦部長(Chief of Naval Operations)と海軍長官(Secretary of the Navy)に対し、技術的な問題について助言を行うとともに、産業界と協力して技術製造プロセスの改善に取り組んでいる。
 
(NSWCCD)
 米海軍水上戦闘研究センターのカルデロック部門(NSWCCD; Naval Surface Warfare Center Carderock Division)は、船舶及び舶用システムに関する米国海軍の中核的研究拠点である。同部門の技術面での成功は、広範かつ深い専門知識と能力を有する科学者やエンジニアの存在によるところが大きい。NSWCCDは、100年以上にわたり、海軍及び海運業界の成功に欠かせない重要技術の先頭に立ってきたが、現在では日本の独立行政法人と同様、予算的には米国海軍から独立しており、各組織からの研究開発委託により運営されている。
 なお、NSWCCDの中心拠点は、メリーランド州West Bethesdaの本部とペンシルバニア州PhiladelphiaのShip Systems Engineering Stationである。
 
(SNAME)
 米国造船・海事技術学会(SNAME; Society of Naval Architects and Marine Engineers)は、海運産業に従事する個人メンバーとサプライヤーで構成された非営利の専門技術協会として世界的に知られている。SNAMEは、造船や海洋工学に関連した技術・科学・実践方法の進展、情報交換や情報記録の奨励、応用研究資金の援助、キャリアガイダンスや支援教育の提供、専門家の地位及び専門家集団の一貫性の強化に取り組んできた。
 
(SBA)
 米国中小企業庁(SBA; Small Business Administration)は、1953年7月30日発効の中小企業法(Small Business Act)に基づいて創設され、中小企業の利益のためにできる限りの補助、助言、支援を提供している。また、政府の契約や余剰品販売において中小企業も公平に契約を獲得できるようにする作業も行っている。現在SBAのプログラムには、財務及び連邦調達契約支援、経営管理支援、特定分野のアウトリーチプログラム等がある。具体的な主要プログラムは、SBIR(Small Business Innovation Research)プログラム、FAST(Federal and State Technology Partnership)プログラム、ROP(Rural Outreach Program)等である。これらについては、セクション2で詳細に説明する。
 
 この報告書では、上述の関係機関のほか、民間企業やビジネスインキュベーターについても詳述する。
 
1-2. 主要な応用技術
 米国で高水準の事業化支援を受けている海運・舶用技術は、ソナーセンサー、レーザー及び光技術、動力推進システム、通信、燃料電池、水素の製造及び貯蔵、バラストクリーニング、自律型水中ロボット、新材料、電子工学、ソフトウェア及び情報通信等である。
 
 以下のリストは、2004年のONR(Office of Naval Research)SBIR(Small Business Innovation Research)プログラムに提出された主な提案である。ONRSBIRについては、セクション2-1-1でさらに詳しく説明する。
 
プログラム番号  
内容
N04-102
海底ケーブル配電スキーム
N04-103
高性能アンテナインテグレーション技術
N04-104
アクティブセンサーの高度な波形合成
N04-105
自律型インテリジェントネットワークシステムの拡張性解析
N04-106
複数標的同時レーザー照射のための広範囲ビームステアリング
N04-107
マルチセンサーによる地上標的のリアルタイム追跡及び相関分析
N04-108
高度携帯電話ネットワークのLPI/LPD/AJ通信用MIMO技術
N04-109
自律型高度携帯電話ネットワーク向けのMIMO-OFDMベースの通信
N04-110
強化高密度反応物質用高密度ポリマー
N04-111
BAMO及びNMMOまたはPGNの含有量及び構造が様々な高エネルギープレポリマーの合成
N04-112
サブピクセル方式の高解像度ATR
N04-113
高性能バキューム電子機器の最適化技術
N04-114
熱管理リード
N04-115
安全侵害ノイズ検知、近接危険識別、境界保護のための調整可能なインテリジェント音響認識/警告システム
N04-116
連合軍事行動における異文化間の戦術決定方法
N04-117
海洋哺乳類ワクチン
N04-118
船舶の人的資源の行動に関するエージェントベースのシミュレーション
N04-119
双方向状況認識評価の自律的通信解析
N04-120
携帯型で軽量なアマルガム化薄膜太陽光発電/電池の組み合わせ
N04-121
高エネルギー及び高出力密度の再充電可能リチウム及びリチウムイオン電池
N04-122
マイクロバブルインジェクタ及び測定システム
N04-123
効率的な無音高出力密度内蔵モニタ/プロパルサー(IMP)及びコントローラ
N04-124
チタン合金接合手法
N04-125
パワーエレクトロニクス用高出力密度耐熱性コンデンサ
N04-126
熱パルス燃焼器の動的制御
N04-127
USV (Unmanned Surface Vehicle) から自動的に起動・回収できる無ケーブル式小型水中ヴィークル
N04-128
USV (Unmanned Surface Vehicle) の自律型海路ナビゲーション
N04-129
壁面乱流及び表面摩擦の計測
N04-130
高性能携帯型マルチレーザー処理システム
N04-131
レーダー断面積 (RCS) の小さい標的に対する海での検出能
N04-132
エネルギー有限要素解析システム
N04-133
海での小型標的に対する赤外線/電子光検出能
N04-134
船舶耐性のための復元アルゴリズム
N04-135
小型高推力重力比推進システム用ナノ触媒燃焼
N04-136
高速スーパーキャビテーティングボディの適応制御
N04-137
モデルベース予測における確率論的誤差推定
N04-138
環境調査データ用のリアルタイムデータフュージョン及び視覚化インターフェイス
N04-139
航空機用多波長大気吸収測定装置
N04-140
高性能作動油粘度測定技術
N04-141
自律型海洋ネットワークシステム用のセンサー及び手法
N04-142
造船の経済妥当性のための技術
N04-143
UCAV用近距離イメージングセンサー
N04-144
遮蔽意図の検出識別用サーマルイメージングヘッド
 
 
出典:
 
1-3. 事業化の問題と動向
 米国では、軍需産業は規模の拡大は望めないものの儲かるビジネスであり、艦船の造船所を例に採るまでも無く、その寡占化が進んでいる(1997−1999年の6大艦船造船所の利益率は毎年8%を超え、その他造船所の4〜7%という利益率に比して高い)。しかしながら、調達先が限られるということは、技術Seedsの確保や既存の利益に反する新技術の導入にとって障害ともなり得る。このため、米海軍では利用可能な技術(Idea)を有するベンチャー企業の育成を積極的に進めつつある。
 
 中小企業(従業員数500名以下)が新技術開発の担い手として米国経済に貢献していることは、広く認められている。ベンチャー企業(中小企業)は、米国経済の基盤であり、その活力の象徴でもあるが、一方、これらの企業の多くは、有望なIdeaや技術を持ちながら、これを市場化するために必要なノウハウ、資金、マーケティング、知的所有権の保護能力等の何れかまたは全てが欠けていることが多く、そのIdeaや技術が埋もれてしまうことが多い。また、米国の大企業では、商品のライフサイクルが短期化し、迅速な技術開発が求められるという状況の下、自社によるR&Dを補完するものとして、A&D(Acquisition+Development)、或いはC&D(Connection+Development)という形での自社外の基礎技術をベースとした開発手法を進めているが、基本部分の技術を有する中小企業の将来性が乏しいため、長期的に多くを望みにくい。
 
 今回調査した支援プログラムの多くは、民間セクターが連邦の研究開発から生まれた新技術を事業化できるように支援し、それによって技術革新を促すことを目的としている。







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