2-2 分野別目標
2-2-1 タイの運輸分野
タイでは経済成長を支援するためのインフラ整備が未だ不十分な分野が多々ある。この点において、運輸分野は明らかに支障となっている。特にバンコク首都圏地域(Bangkok Metropolitan Region: (BMR))はタイで最も人口が集中した地域であり、道路整備、大量輸送手段の確保、更にバンコクと地方の主要都市を繋ぐモーダルシフトのような大都市間輸送等の実質的で効果的な輸送インフラ整備のための早急な投資が必要である。
上記の問題解決のために、輸送改善計画が5ヵ年国家経済社会開発計画に盛り込まれており、諸計画実施のガイドラインとして及び重要な運輸プロジェクトの総括として開始されている。この結果、鍵となる幾つかのプロジェクトが地方の人的資源の資質改善と併せて21世紀のタイ国への準備のため、近々開始される予定である。
急速な産業活動の展開は特に道路インフラにおいて、インフラの十分な整備が追いつかない状況、またはいわゆる“Infrastructure Bottleneck: 経済発展の障害”となっている。大都市間及び都市内の輸送インフラ双方とも輸送需要に見合っておらず、結果としてバンコクの交通事情は危機的な状況を迎えるに至った。
タイでは道路輸送は長い間最も重要な輸送モードであり、貨物輸送の役割において寡占状態といっても良い。これはタイのように長い海岸線を持つ国では稀であると言える。次表に示すタイ国運輸省からのデータでは総貨物輸送量(トンベース)の約90%が現在道路により輸送されている。鉄道輸送は極めて少ない2.0%、沿岸海運及び内陸水運はそれぞれ約5.54%と5.12%となっている。航空輸送のシェアはトンベースでは極めて僅かである。
表2-4: 輸送モード別貨物及び旅客輸送量(2000年)
輸送モード |
道路 |
鉄道 |
内陸水運 |
沿岸海運 |
航空輸送 |
合計 |
貨物 |
貨物量 |
千トン |
397,976 |
9,171 |
25,235 |
23,347 |
57 |
455,786 |
% |
87.32 |
2.01 |
5.54 |
5.12 |
0.01 |
100.00 |
輸送実績 |
百万トン/キロ |
91,756 |
2,904 |
2,847 |
3,933 |
35 |
101,475 |
% |
90.42 |
2.86 |
2.81 |
3.88 |
0.03 |
100.00 |
旅客 |
旅客数 |
千人 |
N.A. |
53,973 |
N.A. |
N.A. |
7,014 |
- |
輸送実績 |
百万人/キロ |
N.A. |
10,098 |
N.A. |
N.A. |
3,856 |
- |
|
出典:タイ国運輸省 注:貨物輸送の上記数値データは次頁に図示する。
図2-3: 輸送モード別貨物シェア(トンベース)
図2-4: 輸送モード別貨物シェア(トン−キロベース)
2-2-2 陸上輸送分野
(1)道路輸送
タイ国内貨物輸送における道路輸送の優位性は車両登録の統計にも反映されている。1991年から2000年の間のタイ国トラックの登録台数は100%以上増加しており、1991年に300,000台以下であったものが2000年には600,000台強に跳ね上がっている。アジアにおける経済危機がこの急成長を一旦停止させたが、これは一過性の現象とみなされている(図2-5参照)。
図2-5: トラックの登録台数(1991〜2000)
この車両登録台数の増加傾向は平均トラックサイズの緩やかな増加とともに見られる。図2-6は1991年から2000年の間の高速道等におけるトラックの種類とサイズ別の分布を比較したものである。図から大型トラックに比べ小型トラックがやや増加傾向にあり、1997年のタイ経済危機に伴って減少傾向となっている。しかしデータは2000年の上昇傾向を示している。
図2-6: トラックのサイズ毎の分布比較
これらの僅かな傾向の変化より重要な事は指定車両積載重量制限の厳守の問題である。公式には10輪トラックの積載重量は上限13トン、5車軸セミトレーラーは21トン以下まで積載可能となっている。しかし一般的に知られている事実として組織的な過積載は日常的であり、これらの主張は臨時の調査でも補足された。広く行われている過積載の経済に対する影響はトラック自体及び他の道路利用者への影響の他、道路の維持にかかる莫大な費用等、多くの資料で指摘されている。車軸に掛かる荷重が設計荷重を超えた場合、道路へのダメージは車軸荷重の約4倍に比例して増加する。このためトラックの過積載は貨物運賃に反映されない多額の外部費用がかかり、これは輸送モード毎の比率を大きくゆがめる可能性がある。
(2)道路の延長量及び利用状況
高速道路局(DOH)の管轄下にある特別及び国立高速道路網は長距離道路輸送利用者にとって道路輸送システムの中心となっている。1991年から2000年の間本道路網の総延長は約29%、44,600kmから57,400kmに増加した(表2-5)。同時期において本道路網を利用した車両は4,160万台-kmから1億580万台-kmに増加したが、後者の数値はアジア経済危機による自動車利用低下の影響を反映したものであり、経済危機前年の1997年の総数は1億1,000万台-km強であった。
表2-5: 高速道路局管理下の道路網の長さ
会計年度 |
特別及び国立高速道路 (km) |
その他 (km) |
|
総合計 (km) |
舗装路 |
未舗装路 |
合計 |
1991 |
39,581 |
5,047 |
44,628 |
5,333 |
49,961 |
1992 |
43,170 |
3,542 |
46,712 |
3,745 |
50,457 |
1993 |
42,636 |
4,127 |
46,763 |
3,714 |
50,477 |
1994 |
45,675 |
4,186 |
49,861 |
2,359 |
52,220 |
1995 |
46,331 |
2,574 |
48,905 |
4,806 |
53,711 |
1996 |
46,600 |
2,206 |
48,806 |
4,962 |
53,768 |
1997 |
50,233 |
1,933 |
52,166 |
3,155 |
55,321 |
1998 |
51,374 |
1,710 |
53,084 |
3,110 |
56,194 |
1999 |
54,451 |
1,190 |
55,641 |
3,665 |
59,306 |
2000 |
56,559 |
844 |
57,403 |
3,385 |
60,788 |
|
図2-7は車両別の輸送動向を示したものである。内訳の推定には2000年の数値を利用した。中型及び大型トラックを合わせると全交通量の約16%という非常に大きな割合を占めている。この割合をトラックは道路の占有面積が乗用車による占有面積と比較して遥かに大きいという事実を考慮に入れて換算すると、結果は30%近くになる。即ち、大型貨物車両はタイ全土の特別及び国立高速道路総需要の約30%を占めているということである。
図2-7: 車両別輸送動向(台−km/2000年)
注:自家用車・タクシー:セダン
小型バス:4輪バス
大型バス:6輪バス
小型トラック:4輪トラックまたはピックアップ
中型トラック:6輪トラック
大型トラック:10輪トラックまたはトレーラー、セミトレーラー
|
道路占有面積の増加と供給量の増加の比較は有効である。特別及び国立高速道の総交通量の伸びは道路網の総延長に関係している。道路需要の強度(混雑度)を1989年のレベルに維持するためには全ての国立高速道網を現状の倍にする必要があったが、これは実行されなかった。そして道路スペース利用の需要増加の明らかな結果が交通渋滞の増加である。
(3)バンコク陸上輸送の現状と問題点
《バンコク陸上交通の現状》
タイ国で最も都市化されたバンコク首都圏(BMR)は、その信じがたいほどの交通渋滞の街として最も知られている。毎日何百万人の人々が道路交通網で移動しているが、この急速な需要の伸びに見合った交通網が提供されたことはない。人物資の移動の90%が道路にて輸送される今日、数多くの産業活動が非効率的な輸送システムにより妨げられ、また我慢を強いられている。
この状況はバンコク首都圏の交通事情にとって重要な指標である。これらは渋滞の深刻さばかりでなく、大気汚染、騒音、健康への影響等環境への重大なる悪影響も反映している。渋滞の主要因は2つの局面に分類される。即ち物理的な側面と予算的な側面である。
《長期的土地活用計画の欠如》
最初のバンコク土地活用全体計画は1992年に公布されたが、その頃には幹線道路に沿った区画の乱開発、支線網へ繋がる路線の所有権の欠落、均衡の取れていない土地活用等の問題が都市周辺を蝕んでいた。このような無計画な開発は制御不能な都市部の膨張に繋がり道路網を埋め尽くすに十分な交通量を生み出した。さらにこのような土地開発は不動産価格及び道路計画の土地収用コストの高騰を招いた。
《代替輸送モードの欠如》
現在バンコクにおいて最も多い交通手段は乗用車、バス及び二輪車(バイク)である。これら全ての車両は道路を共通して使用している。バスの運行経路は数百あり、バンコク首都圏の80%を網羅しているが、バス運行会社は大きな2つの問題に直面している。第1にバス車両の整備状況が悪く乗り心地が悪い事、第2にバス運行に如何なる優先度が与えられていないことである。
加えて、スカイトレイン(BTS)がスクンヴィット線とシーロム線の総延長22kmで運行を開始したが、一日の乗降客数は残念ながら計画の60万人/日に比較し約30万人/日に留まっている。
水上交通は何隻かのタクシー船のサービスがチャオプラヤ川及び幾つかの運河に沿ってある。しかし、水上輸送はその利便性の悪さ、少ない運航経路及び安全性の問題から輸送モード全体の僅か1%を運んでいるに過ぎない。
《都市間交通インフラの未整備》
都市間交通インフラの整備は都市部への一極集中を他の地域に拡散させるために最も重要な要素の一つである。タイ国の場合輸送需要の急速な拡大に比較しこの都市間交通インフラは十分整備されていない。この結果多くの産業、企業はバンコク首都圏から遠く離れた地域で活動する事を望んでいない。
今日貨物及び旅客輸送の大部分が道路インフラ輸送に依存しているが、現高速道路網も効率的に計画されたものではなく、多くの路線はアクセスの利便性を考慮せずにその地域を通過している。このため一部の交通事情が全体の交通の流れに遅れを生じるなど影響を及ぼしている。
《財務の問題》
運輸分野への不十分な予算措置は幾つかの運輸整備事業の遅れを招いている。過去20年間における道路網の平均増加率はたった年1.5%である。地方政府及び関係省庁は道路網拡充のための十分な予算措置を受ける事は滅多になく、その間都市部は無計画に拡大していった。
現在政府の道路等の大量輸送関連事業の費用の殆どは国家予算、即ち全国の諸税及び諸公課による収入から充当されている。しかし近年の政府の国家年度予算政策により道路網拡張のための予算措置は非常に期待しにくい状況である。“道路使用者による費用負担”計画の実施は未だ考慮されてはいない。
|