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第2節 国際社会の動き
1 国連海洋法条約
 1994年, 国連海洋法条約がついに発効し, 沿岸域から深海底にいたる地球上の海洋全域を総合管理の対象とする世界各国共通の法的基盤が史上初めて成立した。新海洋秩序の成立である。この条約は, 国家管轄権の範囲を越える「深海底は人類の共同財産(common heritage of mankind)」とするマルタの国連大使パルドの有名な演説がきっかけとなって始まった第3次国連海洋法会議の9年間におよぶ審議の結果, 1982年に採択されたものである。
 同条約は, 長年の懸案であった領海の幅を12海里以内と定め, 群島水域, 排他的経済水域などの制度を創設し, 沿岸国の大陸棚を最低200海里とするなど, 高まりをみせていた海洋とその資源に対する沿岸国の権利主張に応えつつそれ以上の権利主張に歯止めをかけるとともに, 国の管轄区域の外側の海底(=深海底)及びその鉱物資源を人類の共同財産とするなど, 海洋をいくつかの法的性格の異なる海域に区分した。(図1-1-6)この結果, 地球の表面の71%を占める海洋の4割を越える広大な海域がいずれかの沿岸国の管轄に属することとなった。(図1-1-7)
 
図1-1-6 国連海洋法条約による海域区分
 
図1-1-7 世界の排他的経済水域地図
(拡大画面:91KB)
(出典:The Global Maritime Boundaries)
 
 同条約は, 前文に「海洋の問題は, 相互に密接な関連を有し及び全体として検討される必要があること」を謳って, 海洋問題の解決に全体的, 統合的アプローチが必要であることを強調し, 各国にこの条約の下での海洋の適切な管理を求めている。特に, 人間活動が海洋環境に重大な影響を及ぼすまでに発達してきたことを重視して, 海洋環境の保護・保全に関する1部を設けて, これに関する各国の義務を明記し, 海洋環境の保護・保全の問題を陸の発生源からの汚染を含めて初めて包括的に取り上げたことは注目すべきである。(注1)また, 同条約は, その解釈または適用に関する締約国間の紛争を平和的に解決し, この条約の実効性を高めるため, 従来の条約には例を見ない非強制・強制手続きを組み合わせた多様な紛争解決手続きを定めている。その一環として国際海洋法裁判所が新たに設置された。同裁判所は, ドイツのハンブルグにおかれている。
 
図1-1-8 
ドイツ・ハンブルグにある国際海洋法裁判所
 
 2003年7月現在, 国連海洋法条約には143ケ国が加盟している。議会の事情などによりいまだ加盟していないアメリカなどにおいてもその枠組みは国際慣習法として扱われており, 今や世界的な海洋秩序として一般的に受け入れられている。
 
2 リオ地球サミット
 国連海洋法条約発効の2年前の1992年, 環境と開発の両システムの統合を議論するため国連環境開発会議(リオ地球サミット)がブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催され, 「持続可能な開発」原則の採択を宣言する「環境と開発に関するリオ宣言」が発表された。その第4原則は, 「持続可能な開発を達成するため, 環境保護は開発プロセスの不可欠な部分を構成するものとし, それと別なものとみなしてはならない」と述べている。
 この会議で採択された行動計画「アジェンダ21」は, 持続可能な開発全般を対象として定めたものだが, 海洋の重要性にかんがみ, 特に第17章「海洋と沿岸域の保護及びこれらの生物資源の保護, 合理的利用及び開発」を設けている。その冒頭に掲げられている序文は, 海洋問題に取り組む際の各国の心構えとして重要であるので, 次に引用する。
 
図1-1-9  地球サミットが行われたブラジルのリオ・デ・ジャネイロ
 
 「海洋環境は, 地球の生命支持システムに不可欠な構成部分であり, 持続可能な開発の機会を提供する積極的な資産である。国際法は, 本章で述べる国連海洋法条約の規定に示されているとおり, 国の権利・義務を定め, 海洋及び沿岸域とその資源の保護及び持続可能な開発を追求する上での国際的基礎となっている。これは, 各国, 小地域, 地域及び全地球レベルで, 海洋及び沿岸域の管理と開発に対する新しいアプローチ, 内容において統合され, 範囲においては予防的で将来を先取りしたアプローチを求めている。(以下略)」
 このような取り組みを具体化するため, 同章では「沿岸域及び排他的経済水域を含む海域の統合的管理及び持続可能な開発」など7つのプログラム分野を定めており, その内容は合計136項にわたる詳細なものである。その中で「沿岸国は, 自国の管轄下にある沿岸域および海洋環境の総合管理と持続可能な開発を自らの義務とし, 利用の適合性とバランスを促進するため, 全ての関係する部門を含む統合された政策および意思決定プロセスを定めることが重要である」(17.5項)としている点は, わが国が海洋政策策定にあたって特に真剣に受け止める必要がある。(アジェンダ21第17章については第2章参照
 

深海底
 国家の管轄権の及ぶ区域の限界外にある海底のことで, 具体的にはいずれの沿岸国の大陸棚にも属さない深海の海底とその地下。国連海洋法条約によって, 深海底とその(鉱物)資源は人類の共同財産とされ, 資源の探査・開発活動については国際海底機構(本部:ジャマイカ)が全ての人類の利益のために管理をしている。
 
群島水域
 インドネシア, フィリピンなど国連海洋法条約上「群島国」として認められる国は, 所定の条件を満たせば, 群島の最も外側にある島を結ぶ直線の「群島基線」を引くことができ, 群島基線によって取り囲まれる水域を「群島水域」と呼ぶ。同水域には群島国の主権が及ぶが, 領海や内水と異なる特殊な水域であり, 外国の船舶・航空機は一般に無害通航権を持つが, そこに設定される「群島航路帯」においては妨げられることのない通常形態での航行と上空飛行が認められる。
 
注1 国連海洋法条約第194条3(a)
 
大陸棚
 領海の外側に延びる海底で, 沿岸国がその天然資源の開発のために主権的(排他的)権利をもつ区域。その限界は, 沿岸の基線から200海里まで, または陸地の自然延長としての堆積岩からなる大陸縁辺部がそれ以上に延びている場合には, 同縁辺部の外縁までであるが, いずれにせよ沿岸の基線から350海里, または水深2,500mの海底点から100海里を超えてはならない。ただし, 200海里を超える大陸棚を主張する国は, その限界についての調査資料を, 国連海洋法条約の下に設置された大陸棚限界委員会に提出し, その審査を受ける必要がある。
 
第3次国連海洋法会議
 国連が1958年及び1960年の2回の会議に続いて開催した, 新海洋法条約の交渉のための外交会議。1973年から1982年まで開かれ, 海洋のすべてのスペースと環境・資源に関する包括的な法制度を定める国連海洋法条約を採択した。通算90週間以上を費やし, 150ケ国以上が参加した史上最大の条約採択会議となった。
 
リオ地球サミット
 1992年6月, リオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議(UNCED)のこと。その一部として国家元首・政府首脳レベルの会合が開かれたため, 一般に同会議全体の別名として使用される。あらゆる環境問題を開発問題との密接な関連を考慮しつつ検討し, その解決策, 将来の対策, 基本的原則などを打ち出した。主な成果として, 環境と開発に関するリオ宣言及びアジェンダ21がある。
 
アジェンダ21
 第2章(24頁)参照







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