大村湾と橘湾を事例としてとりあげ（橘湾は主として一次検査）、海の健康診断に関する一連の検討を進めた結果、一次検査から二次検査へ、さらには治療のための処方箋の提示へとつながる「海の健康診断」の一連のプロセスを具体的に検証することができた。また、その検討結果を踏まえて、当初作成したガイドラインにおける各検査項目の診断基準のとり方や、健康状態の判定方法、その基礎となる調査方法（とくに生物生息状況に関する現地調査など）の細かい点も含めた見直しを行い、いくつか現実に即した改善点を指摘した（詳細については、2.3.2と付録−1〜3を参照のこと）。

　今後はさらに多くの事例について上記の基準や方法等の検証を進めることが重要である。また、これらの結果を総合することにより、わが国の沿岸海域の環境や生態系の現状を十分に反映した基準の設定が可能になり、ひいては、それがより精度の高い診断につながると考える。

　この報告では、治療に向けた処方箋として概略的なメニューを提示するに留めたが、今後この健康診断結果を十分に踏まえた処方箋の作成、治療までのシステムの構築がのぞまれる。

　「海の健康診断」が全国に普及していくに際しては、各自治体等との協力関係が不可欠であることはいうまでもないが、健康診断に実際に従事するための人材育成のシステムづくりなど健康診断の支援体制の整備もきわめて重要な課題になる。

　更に付録−3に詳しくまとめたように、「海の健康診断」（一次検査）でもっとも重要な検査項目に挙げられている「底層水の溶存酸素濃度」については、まだ基本的なデータが全国的に不足しているという現状がある。また、健康診断に関係する生物生態情報に関しても継続的な情報は非常に限られている。今後、沿岸環境モニタリングの内容や体制や環境基準などを見直し、健康診断の基盤を確立していくことが急務である。

　

（1）印刷公表したもの

　Nakata,H., M. Okawa and T. Hirano（2002）Health examination for the sea: Principles and procedures.Proc. the 7^th Joint Symposium of Nagasaki University and Cheju National University on Science and Technology, 111-114.

　Nakata, H.（2002）A conceptual framework of ecosystem-based approaches to coastal habitat evaluation. Fish. Sci., 68, Suppl. I,576-579.

　Nakata, H.（2002）A new ecosystem approach to monitoring and management of coastal marine environment: Health examination for the costal sea. Proceedings of the 3rd Joint Meeting of the Coastal Environmental Science and Technology（CEST）Panel of UJNR, 509−517.

　中田英昭（2002）内湾の環境再生：海外の事例に学ぶ． 水環境学会誌， 25（10）, 590-595.

　中田英昭（2002）これからの海洋環境モニタリング．月刊海洋， 34（11）, 803-808.

　中田英昭（2004）海洋環境モニタリングの現状と課題．海洋白書2004年創刊号， シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所，成山堂書店，40-45．

　

　中田英昭・山田知代・大川光：海の健康診断：大村湾におけるケーススタディー．水産海洋学会創立40周年記念大会講演要旨集，64，東京，2002年12月3日．

　Nakata, H., T.Yamada and M. Okawa: Health Examination for Coastal semi-enclosed seas: A new ecosystem approach to environmental monitoring and management. 6^th International Conference on the Environmental Management of Enclosed Coastal Seas（EMECS2003）, Bangkok, Thailand, 20 November 2003.

　中田英昭：海の健康診断−大村湾の診断報告−．閉鎖性海域の新たな環境管理「海の健康診断」セミナー，福岡，2004年3月5日．