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3.3.4 二次検査のまとめ
 大村湾の二次検査結果の要点は以下の通りである。
(1)大村湾底層水の貧酸素化には、鉛直成層の発達の程度に加えて、湾外から流入して湾口部で混合された海水の密度や、それが湾内に流入する深さの変化がきわめて大きな影響を及ぼしている。混合水が湾内の中層に流入する傾向が強いほどその下層で貧酸素化が進行する。
(2)そのため、貧酸素化はまず湾外水が流入する湾の西側の底層で発達し、時間の経過とともに全域に拡大するが、その中心は次第に湾の東側から北東部に移動する。そして、8月末から9月にかけて、湾の西側から解消される。このような貧酸素水の分布の変化は、湾内の海水流動の状況とよく一致している。湾内水が収束する傾向の強い湾北東部の環境悪化には今後十分な注意が必要である。
(3)湾口を通しての海水交換は小さいが陸から流入する負荷のレベルが相対的に小さいため、一次汚濁の指標とした「負荷滞留濃度」は基準値以下であり、都市部の内湾に比べて汚濁度は低い。したがって、貧酸素化の解消のためには、流入負荷の削減に加えてこれまでに海底に蓄積された有機物を除去するための対策が不可欠である。
(4)今後さらに、陸域との関係だけではなく、湾外(佐世保湾など)との相互作用を含めた汚濁負荷物質の輸送と収支の全体的な構造を把握するための総合的な取り組みが必要である。
 
 以上を踏まえると、大村湾底層水の貧酸素化の進行を解消するための処方箋としては下記のようなことが考えられるが、これについてはさらに詳細な検討が必要である。基本的には、大量のコストやエネルギーを必要とし、生態系へのリスクも大きい「外科手術」的なアプローチよりも、自然治癒力の増強をはかり時間をかけて環境回復をめざす「漢方医学」的なアプローチを優先すべきであろう。
(1)工学的な方法(外科手術):
・海底に蓄積されている有機物(ヘドロ)の除去
・流れの制御/海水交換の促進
ただし、生態系のバランスを急にくずす不可逆的な変化を引き起こすリスクや、費用便益関係について事前に十分の検討が必要である。
(2)陸からの流入負荷量の削減(内科治療・食餌療法):
・排水量や負荷量の削減(リサイクルの促進)
・合併浄化槽など下水処理施設の整備
いずれにしても総合的・計画的な取り組みが必要である。
(3)生物の機能を利用した有機物除去・浄化(漢方療法):
・小規模の曝気とカキ養殖の組み合わせ(たとえば、大村湾の枝湾の一つである形上湾で、長崎県と海洋科学技術センターの共同実験が現在行われている)
・護岸や浅場を活用した浄化力の向上
効果をあげるためにはある程度の規模(費用)と時間を必要とする。また、さまざまな小規模のプラントを組み合わせる場合には、その最適配置などについて十分の検討が必要である。
 
 なお、長崎県では、2004年度から5カ年計画で「大村湾環境保全・活性化行動計画〜スナメリと共にくらせる湖(うみ)づくり〜」に取り組み、大村湾の総合的な環境保全対策を推進するとともに、スナメリなど希少生物との共生に配慮しながら、水産や観光の振興など湾域の活性化を図ることをめざしている。ぜひこのような施策の中で上記の海の健康診断結果やそれを踏まえた処方箋をうまく活用してほしいと願っている。







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