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2.2橘湾の一次検査
2.2.1 基本情報の整理
(1)地理的条件
 橘湾(図1.2)は、九州沿岸水路誌によると、江の浦沖合に浮かぶ三味線島と対岸にある国崎を結んだ線以東に約6マイル湾入した海域と定義されている。この部分の湾口幅は11.59km、面積は130.92km2、湾内最大水深は39mであり、全体に平坦な海底を形成している。より一般には、長崎半島南端の野母樺島と天草下島北部西岸に突起した富岡半島を結ぶ線より北東の海域を指して、橘湾と呼ぶことが多く、千々石湾とも称されている。有明海南部とは渦をともなう激潮流で有名な早崎瀬戸で区切られている。このように、長崎県南部の長崎半島・島原半島および熊本県天草下島によって三方を囲まれた湾の面積は約700km2である。また、橘湾に湾入する代表的な河川には千々石川、八郎川があり、それぞれ流域面積35.37km2、32.60km2の小河川である(図2.2.1)。
 
図2.2.1 橘湾周辺の流入河川と公共用水域水質調査の測点
 
(2)気象条件
 東シナ海に面した橘湾は、西九州海洋性気候区に属し、対馬暖流の影響を受けるため一般に温暖であり、一年を通じて雨が比較的多い地域である。橘湾の西部に位置する長崎市の最近10年間(1993〜2002年)の気象状況を見ると、気温は8月に30℃近くまで上昇し、その後下降して1、2月に最も低くなる。降水量は6月にピークをむかえ350mmと多いが、10月から5月頃までは少ない。日照時間は雨の多い6月に130時間と少なく、7、8月に200時間と多い。風向は夏季には南西の風が卓越しており、ここ10年間ほぼ安定している。9月からは北ないし北東の風の頻度が増加する。
 
(3)管理的条件
 橘湾沿岸の行政区は、長崎県では長崎市、諫早市、北高来郡飯盛町・森山町、南高来郡愛野町・千々石町・小浜町・南串山町・加津佐町・口之津町であり、熊本県では天草郡五和町・苓北町の2県2市10町にわたっている。
 
(4)社会的・歴史的条件
 沿岸各市町の人口は、諫早市、森山町、愛野町では増加しているが、その他の市町では減少傾向にある。諫早市は面積の2割が農耕地、4割が林野で占められており、農家の総数は1980年に3858戸あったものが2000年には1746戸と半数に減少し、現在では卸売業が中心となりつつある。森山町は広大な水田地帯が広がる穀倉地帯であるが、用水については天水や湧水、地下水に頼っており、水路や河川の汚濁や悪臭など水質悪化による農業被害が深刻になってきている。1993年からは下水道の整備など汚水処理への取り組みがなされている。小浜町は雲仙岳の西に位置し温泉観光地として知られ、最近は就職人口が増加している。夏季には、千々石町、加津佐町の海岸は海水浴場としてにぎわう。口之津町は貿易港として繁栄したが、現在では天草との連絡港として機能している。漁業は一本釣りが主で、トラフグなどの養殖業が営まれている。下水道の普及率は徐々に増加しているが、長崎市以外ではまだ低い。
 一方、図2.2.2には、公共用水域水質測定結果にもとづいて、橘湾に流入する八郎川と千々石川の懸濁物濃度(SS)とCODの経年的な推移を3ヶ月の移動平均値として示した(千々石川についてはSSのみ)。八郎川で1980年代半ばに数年間にわたってSSの値が著しく増加しているのは、長崎大水害後の沿岸における土木工事の影響かもしれない。CODについてもわずかではあるが増加する傾向が見られる。千々石川のSSも1980年代後半に増加していることが分かる。さらに図2.2.3には、同じく海域の公共用水域水質測定結果から、沿岸の4つの漁港におけるCODの経年変化を図示した。水質基準(2mg/l)を越えることはいずれもまだ少ないものの、年代的に増加傾向を示すところが多く、今後の推移に注意が必要である。
 
 
千々石川のSSの推移
 
図2.2.2 橘湾に湾入する河川のCODとSSの推移
 
 
図2.2.3 橘湾内の漁港におけるCODの推移(3ヶ月ごとの移動平均)
 
 
茂木漁港におけるCODの推移
 
 
有喜漁港におけるCODの推移
 
 
小浜漁港におけるCODの推移







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