10. その他の相談・苦情
1. 事業者に弱者保護の視点を
介護保険の利用が広がるにつれて、苦情・相談の内容も多岐にわたってきている。介護施設職員の言葉遣いひとつとっても、地方特有の方言が耳にきついと感じる利用者がいる一方で、丁寧な言葉遣いが冷たいという利用者もいるなど、思いもよらない苦情が寄せられている。
介護福祉施設などサービス提供事業者の宣伝用のチラシ・パンフレットに虚偽や誇大な表現が載せられた事例があった。事業者の中には、広告会社任せでチェックが甘いところ、また利用者獲得に躍起となった結果、不適切な表現をあえてとってしまう事業者もあるのではないかと思われる。
しかし、多くの利用者は、事業者との力関係では圧倒的な弱者である。弱者の保護・権利擁護の視点を忘れた事業展開は是非とも改善して欲しい。事業者は、介護保険法、運営基準の遵守はもとより、消費者契約法、景品表示法、独占禁止法など、消費者との契約にかかわる諸制度や法律を遵守しなければならないということをよく認識して欲しい。
2. 介護保険の枠を超えて
相談窓口に寄せられた苦情を分析すると、これからは介護保険サービスも質を問われる時代に入っていくのではないかと思われる。そうなれば、画一的なサービスでは対応できなくなることが予想される。ケアプランを立てる上でも、一人一人の生活歴をしっかり聞き出し、きめ細かなサービスの提供に結びつける必要性が高まるであろう。さらに、現在あるサービスの質の向上だけでなく、新しいサービスが求められるようになることも予想される。
利用者は身体能力が衰えた高齢者である上に、痴呆で著しく判断能力が衰えていたり、独居で身寄りがないこともある。このような困難な事情が加わった場合、介護保険の枠だけでは生活の改善ができないことも多い。そうした高齢者のQOL(生活の質)を高めるためには、介護保険サービスの利用と共に地域福祉権利擁護事業など福祉行政全体の社会資源を最大限に活用して柔軟に対応していくことが望まれる。
しかしながら、利用者自身はほとんどその制度を知らない。一部の優れたケアマネジャーがケアプラン策定の段階で活用している。また、地域の民生委員からの申請がきっかけとなる場合も少なくない。今後は、介護保険制度利用に限らず、支援を必要とする高齢者や障害者を民生委員や保健師などがいち早く見つけ、見守る、あるいは援助するための情報交換が必要である。そのためには、地域で高齢者を支援するネットワークを構築することが望まれるのではないだろうか。
地域福祉権利擁護事業と成年後見制度
平成12年に施行された社会福祉法によって、行政が福祉のサービスの内容を決定する措置制度から、事業者と対等な関係に基づき、利用者が自らの意思で福祉のサービスを選択し、利用する制度へと変更になった。
その結果、介護保険だけでは十分な支援が難しい場合において、判断能力が不十分な高齢者や障害者の福祉権利を擁護し、福祉サービスを適切に利用できるように援助することを目的として『地域福祉権利擁護事業』や『福祉サービス利用援助事業』が行われている。この制度は契約の締結能力が前提となるので、あくまでも自己決定への援助が基本である。
そこで、本人の判断能力が著しく低下して地域福祉権利擁護事業との契約が結べない場合には、財産管理と身上監護を目的とする、成年後見制度を利用して福祉サービスの契約をすることが可能となった。このように介護や生活の支援が必要となった高齢者がノーマライゼーションの理念のもとで残存能力を活用させつつ、住み慣れた地域で安心して生活していくための支援体制の拡充と連携の構築は、今後さらに求められている。
《主な地域福祉権利擁護事業の内容》
* 年金や福祉手当の受領手続き・病院等の医療費・公共料金の支払いなど日常的な金銭の管理(上限で50万円)と生活費などの預貯金の出し入れ・解約など
* 福祉サービスの利用援助、行政への届出など日常生活の事務的な手続きの援助
* 通帳・印鑑・証書など重要な書類の保管するなど
|
|
《成年後見制度》
* 判断能力が不十分な高齢者や精神障害者の自己決定権を尊重し、財産管理や身上監護をする制度。本人の判断能力の程度を専門の精神科医が鑑定し、家庭裁判所に申し立て「補助人」「保佐人」「後見人」が専任される。
* 成年後見制度を利用することで福祉サービスの契約や消費者契約も可能となる。
* 自治体によっては、成年後見制度利用援助制度(後見制度の認定費用を予算化して援助負担)もあるが、全国的には予算化している自治体は非常に少ない。
* 後見人等への報酬が必要となるので、事実上は家族が後見人となることが多く、その結果、家族間での金銭の管理上の問題も起きている。
* 複数後見や法人後見など、親族以外の後見人選定もできるようになり、NPOや社会福祉協議会などが後見人になることが可能となり、身寄りがいないケースでも後見制度が利用しやすくなった。
|
|
その他の相談・苦情(1)
月の途中でケアプランを変更したい
サービス利用者・・・男性
相談者・・・ケアマネジャー
●相談苦情の概要
認定調査訪問した時、利用者から「ケアマネジャーを交代したい」と申し出があったため、担当ケアマネジャーに変更を依頼した。「月の途中の変更は困る。事務所内部で相談してから連絡する」と言われた。その後、回答があり「月の途中で、変更申し出は非常識。変更を認めるのは今回限り」と言われた。月の途中とはいえ、ケアプランを変更しないで翌月まで待っていたら、利用者は受けたいサービスが受けられない。ケアマネジャーとして自分の申出は非常識か。他のケアマネジャーはどのように対応しているか知りたい。
●相談受付機関の対応
国保連が電話で次のように回答した。月の途中でケアマネジャーを変更することは特に問題ないが、介護保険では月末時点で報酬請求をするので、月途中での支援事業者の変更はトラブルが多い。ケアマネジャー間で話し合い、お互いの事業者としての立場を思いやり、月の途中で変更した場合、その月は前の事業者がケアプランを作成したこととし、翌月から新しい事業者に変更する場合が多い。
●問題点
(1)利用者を取った、取らないの状況になるので、サービス提供事業者の管理者双方できちんとした話し合いを持つことが必要だった。
(2)利用者が、なぜケアマネジャーを変更したいと申し出たのか真意を確かめる必要があるのではないか。他の事業者のケアマネジャーに変更する以外の選択肢がなかったか検討することも必要。
(3)たとえ同業者であっても、人の心を傷つける表現がなかったかを省みる必要がある。
●特記事項
ケアマネジャーの連絡会でこの事案を提案し、話し合いがもたれ、ケアマネジャーとしての適切な対応が検討された。
その他の相談・苦情(2)
訪問介護事業者のチラシの表示とサービスが一致しない
相談者・・・ケアマネジャー
●相談苦情の概要
現在利用している訪問介護事業者のチラシには「年中無休、24時間対応します」と書かれている。しかし、24時間対応サービスを希望している利用者に対して、年末年始の休みを要請してきた。
●相談受付機関の対応
国保連が保険者と事業者に連絡したところ、保険者が介護保険事業者を呼び出して調査した。運営規定と契約書を確認し、広告の表示に問題があることが判明したので、早期改善を指導した。また、年末年始のサービス提供を望む弱い立場の利用者に対し「事業所が休みになるがどうするか」という問いかけは利用者に不安感を持たせ、利用を遠慮してしまうことになるから、配慮して欲しい旨を指導した。
●問題点
運営規定とチラシ広告の表現が異なっていることは問題である(誇大広告の疑いもある。)。利用者は年中無休、24時間対応という表示を信じて契約しているにもかかわらず、事業者が一方的に『ヘルパー派遣休止のお願い』という文書を利用者に送りつけ、契約内容の変更を強要するかのような行為は好ましくない。
●特記事項
本件では国保連は介入していないが、国保連が調査に入ること、あるいは事業者に連絡をとること事態が抑制効果につながっている。
その他の相談・苦情(3)
知的障害のある利用者と家族の犯罪被害からの保護
サービス利用者・・・介護保険未申請者、69歳女性
相談者・・・民生委員、ケアマネジャー
●相談苦情の概要
軽度の視覚障害のある母は知的障害のある娘と二人暮しである。母親は加齢にともない物忘れや判断能力の低下が進み、金銭の管理能力に問題が生じてきた。数百万円の詐欺事件の被害にあうなど、地域の見守りと介護保険の利用が必要であるが、申請者がいない。
●相談受付機関の対応
民生委員によって介護保険利用申請の援助と同時に地域福祉権利擁護事業での金銭管理サービスの利用について相談がなされた。
詐欺被害については、警察と弁護士が介入し、犯罪事件として扱われ、加害者は検挙されたが、被害金額が戻ったかは未確認。地域福祉権利擁護事業により、生活支援員が日常の生活費を銀行から払い出して利用者に届けるなど、ケアマネジャーが中心となって、支援員、弁護士が定期的な会合を持ち、生活を支援することとなった。
●問題点
(1)高齢になっている利用者に対しては、在宅介護支援センターのケアマネジャーを中心に介護保険の利用をすすめるなど、地域ぐるみの見守りと生活支援が必要である。
(2)知的障害のある人は金銭管理が困難である場合が多く、外からの情報も得にくいので、悪質な訪問販売や詐欺行為の被害にかかり易い。誰が気づいてすみやかに権利擁護に結びつけるかが課題である。民生委員など地域のネットワークでいち早く要支援をキャッチし、権利擁護事業を利用することが必要である。
●特記事項
障害者支援の場合でも、介護認定を受ければ基本的には介護保険が優先することになる。地域福祉権利擁護事業などの福祉サービスも含め、利用者にとって必要な援助をするには適切なアドバイザーの存在と地域のネットワークが不可欠である。
|