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9. 住宅改修に関する苦情
1. 概要
 介護保険の住宅改修費の支給は、全ての住宅改修が対象になるのではなく、要介護または要支援認定を受けた場合に、在宅での自立支援を目的とする小規模工事に限られている。また、対象となる住宅改修には様々な制限があり専門的な知識が必要なので、介護保険の支給を前提とした住宅改修を着工する前には、必ずケアマネジャーに相談し、行政の窓口にも確認するなど、支給条件や利用限度額などを把握しておく必要がある。
 このように、住宅改修には専門的知識が必要であるが、現状では利用者や居宅介護支援事業者への情報開示が十分でなく、施行業者の指定や基準もないために、福祉関連の住宅改修の経験のない未熟な業者によりずさんな工事がなされたり、介護保険の支給限度額を大幅に超えた高額な請求をされるなど、悪質な業者によるトラブルが増加している。
 
2. 住宅改修で留意すべき点
1. 支給を受けるには改修工事の着工前に、ケアマネジャーが記載する住宅改修の理由書(介護保険住宅改修状況確認書)が必要である。
2. 支払いは償還払い。利用者が全額を払った後に工事内訳書、領収書など必要書類を行政窓口に提出して支給申請を行うことで、かかった費用の9割相当額が支給される制度である。
3. 同一住居、同一人に支給される限度額は、生涯で20万円までであり、それを超えた分については自己負担となる。ただし転居した時や、介護度の認定が3段階以上変わった場合には、再度申請ができる。
4. 改修はあくまで在宅での自立支援のためであり、原則として要介護認定を受ける前や入院中の場合には支給が受けられない。退院や退所が決まっている場合には、市区町村の介護福祉課などへ相談または確認しておくこと。
 
3. 今後の課題
 介護保険を利用した住宅改修では、申請から支給を受けるまでに様々な条件があり、提出する書類も複雑である。この制度を適正に活用していくために、住宅改修専門の相談窓口を設けるなど、制度そのものを一般に分りやすく周知することが必要である。
 また、今後は、住宅改修にかかわる優良な業者を確保してサービスの質の向上を図るために、都道府県等による住宅改修業者の登録制度なども検討し、情報の提供が十分になされなければならない。
 
住宅改修に関する苦情(1)
浴室ドアを取替えたが、請求金額に納得がいかない
サービス利用者・・・介護度2
相談者・・・家族
 
●相談苦情の概要
 浴室ドアの取り替えを業者に依頼したところ、介護保険の住宅改修を利用するようにすすめられた。認定申請をすれば20万円の一割負担と聞かされたが、実際には6万円を請求された。工事前の見積もりもなく事前の話と違う。納得がいかない。
 
●相談受付機関の対応
(1)申し立てに至った原因は住宅改修についての説明不足である。介護保険の住宅改修費の支給制度では、限度額を超えた分については利用者の自己負担となることを、利用者や家族が理解できるよう説明をすべき旨をケアマネジャーに助言した。
(2)ケアマネジャーは利用者及び家族に面接し、その希望や意向をくみ取って支援をしなければならない。サービスの内容、利用料などの情報を適正に伝えた上で利用者にサービスの選択を求めるように、と指導した。
 
●問題点
(1)介護保険利用の住宅改修の内容が十分に周知されておらず、業者の説明も不十分。
(2)工事の前の見積もりや契約が口約束のみで交わされている。
(3)利用者自身も、業者と話を決める前に、介護保険でできる改修なのかどうかをケアマネジャーに相談し、行政の窓口に直接確認することが必要である。
 
●特記事項
 介護保険の利用限度額での改修が不可能な場合には「高齢者住宅改造費助成事業」など保険者独自の上乗せサービスが利用できることもある。居宅介護支援事業者やケアマネジャーは、こうした公費助成の福祉サービスなど、市区町村の社会資源の情報をも把握して利用者に役立つ情報として提供すべきである。
 
住宅改修に関する苦情(2)
手すりの高さが合わないので手直しして欲しい
サービス利用者・・・介護度1
申出者・・・本人
 
●相談苦情の概要
 ケアマネジャーに相談して住宅改修で手すりをつけたが、高さがあわず不具合である。工事の手直しを頼んだが、なかなか来てくれない。支払いは既にすんでいるがケアマネジャーから償還払いとは聞かされていなかった。
 
●相談受付機関の対応
(1)住宅改修をすすめたケアマネジャーは、事前に説明はしたつもりだが、利用者が理解するに十分なものでなかったことを謝罪し、改めて介護保険制度を利用した住宅改修の給付について説明をした。
(2)手すりの不具合については、保険者が住宅改修アドバイザーと共に立ち会い調査をした結果、手すりの強度と位置に大きな問題があり、ずさんな工事と認められた。手すりの下地の補強と手すりの高さを利用者にあわせ、手直しする必要があることを指導した。
(3)また支給申請手続き上の書類の不正・不備も発覚したため、業者を厳しく口頭で指導した。
(4)相談者が別の業者での工事のやり直しを希望したため、契約解除という手続きが必要となり、担当部署(消費者相談窓口)が間に入って助言し解約がなされた。
 
●問題点
(1)介護保険を利用した住宅改修には専門的な知識が必要であるにもかかわらず、現実には、リフォームの経験すら乏しい未熟な業者が多く存在している。
(2)利用者、居宅介護支援事業者、ケアマネジャーに対して、住宅改修についての情報提供が十分でなく、施行業者を選ぶ基準が示されていない。
(3)介護保険での住宅改修費支給の条件や手続などの周知が不十分である。
(4)介護保険を利用した工事は20万円以下なので、住宅改修としては少額だととらえた業者が見積もりや契約書を取り交わさないことがトラブルの原因となる。
(5)住宅改修業者の情報提供などは行政サイドでも積極的に取り組むべきである。
 
住宅改修に関する苦情(3)
その他の住宅改修の事例
●見積のない床段差工事
<概要>
 住宅改修で床段差の改修工事を頼んだが、事前の見積もりが無いままに工事が進み、高額な請求を受けた。1割とはいえ本人負担が高すぎる。価格や工事の仕様について行政の基準や指導が必要ではないか。(申立て人:家族)
<行政担当窓口の対応>
 相談者に制度のしくみについて説明し、業者へは事前の説明を十分に行うように口頭指導した。
 
●玄関ドアのリフォームは住宅改修の対象か
<概要>
 要介護5の親(寝たきりの状態)がいるので、玄関ドアの取り替えをしたい。介護保険の住宅改修を利用できるか。(申し立て人:家族)
<相談受付機関の対応>
 家族が希望するリフォーム目的でなく、あくまで介護される人の便宜を目的とした、引き戸等への改修ならば対象工事となる旨を説明した。
 
●利用者側の料金不払い
<概要>
 住宅の改修工事をしたが、利用者が料金を払ってくれないので領収書が発行できず、介護保険の給付申請ができないで困っている。(相談者:リフォーム業者)
<相談受付機関の対応>
 利用者に改修工事に不満があるかを確認。不満や問題はなかったので、住宅改修の制度について説明し、料金支払いの手続きをすすめた。
 
《参考:住宅改修の支給対象》
手すりの取り付け・床段差の解消・滑り防止などの床材変更・引き戸など扉変更・洋式便器などへの取替え・改修に伴う下地の補強、壁や床の附帯工事







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