8. 福祉用具貸与に関する苦情
1. 制度の概要
介護保険制度では、福祉用具については「貸与(レンタル)」が中心である。再使用を避けたい一部のものにつき、「購入費の補助」がある。
貸与や購入にあたっては、福祉用具専門相談員のアドバイスを参考にするとよい。福祉用具専門相談員とは、指定福祉用具貸与の提供にあたる介護福祉士、義肢装具士、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉又は厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者若しくは都道府県知事がこれと同程度以上の講習を受けたと認める者をいう。事業所には2人以上が常勤すべきとされている。(厚生省令第37号194条)
まずは、使う本人の体にあった福祉用具を選ぶことが大事。一方で福祉用具は介助者の負担を軽減する目的もあるので、具体的な介助の場面を想定して検討をしてほしい。在宅介護支援センターの展示コーナーなどで、実際の使い心地を試して、納得のいくものを選びたい。
その他に、市区町村独自の補助、年金制度、身体障害者福祉法などによる日常生活用具給付制度があるので、担当部署への確認をすすめたい。このように介護保険以外の制度があることを、利用者に対して適切に情報提供するコーディネーター役が必要と思われる。現段階ではケアマネジャーやケースワーカーにその期待がかかっている。しかし、本来は行政サービスとして取り組むべき課題ではないだろうか。
2. 貸与について
「貸与(レンタル)」は、12品目((1)車椅子、(2)車椅子付属品、(3)特殊寝台(介護用ベッド)、(4)特殊寝台付属品、(5)褥創予防用具、(6)体位変換器、(7)手すり、(8)スロープ、(9)歩行器、(10)歩行補助杖、(11)痴呆性老人徘徊感知機器、(12)移動用リフト)。
他の介護サービスと同様、ケアプランに組み込まれるので、ケアマネジャーと相談することになる。用具で補うのか、介護サービスを利用するのか、全体的な介護計画のもとで検討すること。
レンタル業者は指定事業者に限られる。中古品が使われることが多いので、渡された時点で実際に試してみることが必要だ。介護サービス報酬は提供単価の定めがあるが、貸与は自由なので、料金が妥当かどうか、比較検討を行わねばならない。
過去に、福祉用具貸与制度をマルチ商法に悪用したケースがあきらかになった。介護用品を購入してマルチ組織の会員になり、貸与が必要な高齢者をみつけ、要介護認定を受けさせ、介護用品を貸し付ける。介護保険制度を利用したレンタル収入と、マルチ商法によるリベート収入が見込めると勧誘した模様だ。貸与単価を高額に設定し、用具を使わなくてもそのまま借りた状態にしておけば、貸与金額の9割が介護保険から継続して支払われることとなる。このケースでは、介護保険法、特定商取引法、消費者契約法などが検討された結果、解約にいたった。また、保険者や事業者に対し、ケアプランに組み込まないよう通知され、現在は沈静化している。今後も類似の消費者被害が発生するおそれがあるので、各分野が横断的に連携していく必要がある。
3. 購入ついて
「購入費の補助」は、5品目((1)腰掛便座、(2)特殊尿器、(3)入浴補助用具、(4)簡易浴槽、(5)移動用リフトのつり具の部分)。1年間に10万円を限度に償還払いとなる。
介護保険で福祉用具を購入する場合、指定事業者制をとっていないので、どの事業者から購入しても保険の対象になる。よって、どの商品、どの事業者を選ぶかは、利用者に任されている。複数の事業者を比較検討し、商品の明細や代金を調べる必要がある。
購入後、実際に使ってみたら使いにくい、サイズが合わないなどの理由から返品を求めたが、解約に応じてくれないという苦情が発生している。通常、店舗で購入した商品についてはクーリングオフの適用はない。しかし、利用者は契約弱者であるケースが多く、業者の販売方法の詳細を検討する余地がある場合も考えられる。業者との交渉が必要な際には、消費生活相談を是非利用してほしい。
4. 製品の安全性について
福祉用具の国内規格や安全基準のうち法的強制力のあるものはない。福祉用具の安全性を図る基準としてSGマーク制度(Safety Goods)があげられる。認定基準に適合していると認められた製品にマークが貼付され、製品の欠陥が原因で生じた人身事故に対する対人賠償責任保険が付いている。福祉用具では平成14年10月現在8品目(棒状つえ・簡易腰掛け便座・歩行補助車・手動車いす・歩行車(ロレータ及びウォーキングテーブル)・電動介護用ベッド・ポータブルトイレ・入浴用いす)について認定基準が設定されている。あくまで絶対の安全を保証するものではないが、選択の際の参考になる。
貸与業者が福祉用具の組み立てや設置を行い、その作業の過失によって事故が発生したときは、貸与業者に債務不履行責任を問うことになる。作業が製造者の指示通り行われたにもかかわらず発生した事故ならば、製造物責任法(PL法)の対象となる。商品自体の欠陥により拡大損害が生じ、因果関係が立証されれば賠償責任を問うことができる。PL法により製造者の過失を立証する必要がなくなり、被害救済の道が開けたとはいえ、裁判に持ち込まれるケースは少ない。特に被害額の少ない事例は裁判になじまないので、まずは消費生活相談をはじめとした裁判外紛争処理制度(ADR)の活用を考えてはどうだろうか。
福祉用具貸与に関する苦情(1)
施設入所者の外泊時の福祉用具貸与
サービス利用者・・・80才 女性 要介護4
相談者・・・利用者の子
●相談苦情の概要
親は要介護度が高いため、施設に入所しているが、可能なときは自宅に迎え入れ、家族みんなで暮らしたい。施設側も利用者の外泊には理解がある。自宅介護の際には電動用ベッドが必要なので、福祉用具貸与を受けたい。
●相談受付機関の対応
福祉用具貸与は「在宅」におけるサービスのため、一時外泊であっても、施設入所者の使用はできないと説明した。
●問題点
福祉用具貸与と福祉用具購入は、「在宅」のみにおけるサービス。よって、施設入所者が時外泊で使用するポータブルトイレなどに適用はない。制度の趣旨は理解できるが、一時外泊にも適用を認め、「一家団欒」を金銭的に応援してほしい。
福祉用具貸与に関する苦情(2)
その他の福祉用具貸与に関する事例
●異様に高い介護ベッドレンタル料
<概要>
利用者から、ベッドのレンタルにつき業者指定で依頼を受けた。その業者は通常の3倍もの高額な料金設定をしていたので、業者や利用者に確認したが、両者ともに高額でもかまわないと言う。(相談者・・・ケアマネジャー)
<相談受付機関の対応>
この業者は新設のレンタル専業業者。1割負担を利用者から徴収することなく、9割の介護報酬のみで事業運営するために高額な金額設定をしている可能性が考えられる。給付実績の確認をはじめとして、国保連と保険者が共同して対応協議中。
●交替ヘルパーすべてにリフトの作動説明をすべきか
<概要>
手動式移動リフトを貸与している。家族と担当ヘルパーには作動方法を説明したが、交替ヘルパーが単独で操作し、リフトから滑り落ちる事故が起きた。幸い病状は軽かったが、貸与者の責任として、頻繁に代わるヘルパーすべてに作動説明を行わねばならないのか。(相談者・・・貸与事業者)
<相談受付機関の対応>
訪問介護事業者、貸与事業者、ケアマネジャーが連携して、家族と善後策を検討中。保険者も再発防止のための対策を検討中。
●ベッドを9日借りただけなのに1ヶ月分の請求が来た
<概要>
貸与事業者からベッドを借りたのは9日なのに、1ヶ月分の請求を受けた。日割り計算でないのが不満。「引き上げ料」という名目の請求もあり、不満。(相談者・・・利用者の子)
<相談受付機関の対応>
1ヶ月未満の利用時に1ヶ月分の利用料を請求することは可能。ただし契約書にその旨記載し、あわせて事前説明を行うことが必要。「引き上げ料」については、福祉用具貸与費用に含まれるため、別途徴収は出来ない。契約時に最低レンタル期間の定めがあるか、月単位あるいは、日単位の料金設定かどうかなど、きちんと確認することが必要だ。
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