6. 違法行為に関する苦情
1. 概要
違法行為の大半が運営基準違反である。違法行為に該当する可能性があれば、指定した都道府県から監査が入り、事実が確認された場合は指導を受ける。事業者はその後、一定期間内に改善報告をしなければならず、放置した場合には指定の取り消しがなされる。不正請求など特に悪質な場合は、直ちに指定の取り消しとなることもある。
違法行為は、介護サービスの提供を受ける利用者側からは見えにくい上、たとえ違反があっても訴えにくい立場にある。事業者内部からの通報がきっかけになることもあるので、通報者を保護する制度が望まれる。
2. 重要事項の説明がない
厚生省令には重要事項説明書に以下の事項を記載し、利用者に十分説明するよう定められている。説明不足から苦情が発生した場合は、事業者の責任が問われる。
1. 事業者の目的、運営の方針。
2. 従業者の職種、員数、職務内容。
3. 営業日、営業時間。
4. 指定訪問介護の内容、利用料、その他の費用。
5. 通常事業の実施地域。
6. 緊急時における対応方法。
7. その他運営に関する重要事項。
8. 訪問介護員の勤務体制。
9. 利用申込者のサービスの選択に資すると認められる重要事項。
3. サービス提供拒否
厚生省令には、事業者は正当な理由無くサービスを拒否してはならないと定められている。正当な理由とは、(1)事業所の人員から利用申込みに対応しきれない場合、(2)居住地が事業の実施地域外である、(3)他の指定居宅支援事業者も合わせて利用している場合、であり、それ以外は提供拒否出来ない。また、正当な理由がある場合でも、他を紹介するなり必要な措置を講じるよう定められている。
4. ケアマネジャーの違法行為
【ケアマネジャーが家にこない】
厚生省令第38号第13条第12項でモニタリングを行うことが定められており、少なくとも月1回は訪問し、利用者に面接する必要がある。実施されない場合は運営基準違反、契約上の義務違反に問われ、報酬額を減らされる。
【ケアマネジャーが特定の事業所をすすめる】
厚生省令第38号第1条第3項の基本方針、第25条第1項、第2項の利益収受の禁止に違反する。ケアマネジャーは公正中立でなければならない。利用者の選択の自由を損なわないよう、事業者、管理者が特定のサービスを計画の中に位置付けるよう指示することを禁じているので、特定の事業所をすすめてはならない。
【ケアマネジャーに施設に入りたいと頼んだが、自分で探すよう言われた】
厚生省令第38号第13条第16項に違反する。利用者が自宅において日常生活を営むのが困難と認める場合は、希望にそって施設の紹介やその他の便宜の提供を行うものとすると定められている。
【ケアマネジャーが希望のプランを作らず、必要のないサービスをすすめる】
厚生省令第38号第13条第7項、8項に違反する。ケアマネジャーは家族の意向を聞き、利用者に適したケアプランを作成しなければならず、家族と意見があわないときは十分説明し、理解を得る。利用できる額が残っていても必要ないサービスをすすめてはならない。
5. ヘルパーの違法行為
【ヘルパーがこなかった】
理由を問わず債務不履行である。損害が出た場合は事業所に請求が出来る。利用者と事業者は介護契約が成立しているため、サービスが提供出来なかった場合はヘルパーの理由を問わず損害賠償請求できる。ヘルパーと事業所は雇用契約にあり、サービスが提供されなかった理由に応じて双方で解決すべき問題となる。
【ヘルパーの変更が多くて困る】
厚生省令第37号第28条第3項に管理者及びサービス提供責任者の責務が定めてあり、事業所にはヘルパー10人に1人位の割合でサービス提供責任者を置くことになっている。ヘルパーの調整はこの責任者が負う。
【ヘルパーが他人に家のことを話す】
厚生省令第37号第33条第1項に秘密保持が定められている。ヘルパーは家族の秘密を漏らしてはならず、これは職を離れた後も守らなければならない。
【ヘルパーが介議に関係ない物の購入を勧める】
好ましくないヘルパーの行為として、金品の贈与・金品の貸借・宗教への入信の勧誘・物品やサービスの購入の勧誘などがある。サービス以外の利益の収受を禁じており、事実であれば指導がなされる。
【ヘルパーの資質】
ヘルパーは介護保険法施行令第3条第1項で国が定めたホームヘルパー養成研修を修了していることが義務付けられているが、これだけでは十分とはいえない。厚生労働省から資質向上推進事業の実施及び推進について通知が出されている。
6. 医療行為
介護保険のサービスの中で、医療行為にあたるものは、医師法第17条、保健師助産師看護師法第31条により、医師、看護師が行うと定められている。簡単な行為であっても資格のない介護職員が医療行為をすることは禁じられている。
7. キャンセル料の請求
事業者がキャンセル料を請求することに、法的な問題はない。サービス提供にあたり、人員その他準備が必要であり、キャンセルされた場合、損害が出るため原則としては可能。契約書記載事項に従う。ただし、利用料の100%相当額のキャンセル料は取り過ぎ。損害の補償の範囲内で認められ、送迎に関わる費用などは含まないと考えられる。
8. サービス提供中あるいは施設入所中の怪我への対応
このような場合、損害賠償の請求ができるが、二つの方法がある。
まずサービスを提供する側に安全配慮義務が発生するため、債務不履行で損害賠償請求ができる(民法第415条)。この場合は事業者側に立証の責任がある。義務を怠ったかどうかは、利用者の心身の状況、安全配慮の有無、職員の配置などから判断される。
もう一つの方法は、事業者の管理上の不法行為での請求である(民法第709条)。事業者側の過失があったのかどうか、利用者の心身の状況、安全配慮の有無、職員の配置の他、事業者側の責任能力、違法性、損害発生との因果関係などを請求側が証明する必要がある。
9. 福祉施設における身体拘束
運営基準には、緊急やむを得ない場合を除き、行ってはならないと定めがある。福祉施設は厚生省令39号第11条第4項にあり、もし必要で拘束する場合はその理由を記録しなければならない。必要な理由、時間など明記し、拘束を最小限にするよう努める。
10. 入所中の特養から入院し退院したが、戻れない
厚生省令第39号第19条に、3ヶ月以内に退院が明らかな場合は戻ることができるとある。施設の場合、1ヶ月に6日間、月をまたがる場合には12日間は、入院した場合でも外泊として介護報酬が施設に入る。それ以上は無報酬となるため、空けておくことは運営上厳しいといえる。定員オーバーとなった場合は、報酬カットのペナルティが課せられる。ショートステイなどで対応している施設もみられるが、家族との話し合いが必要となる。
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