サービスの質に関する苦情(4)
老健で痴呆の高齢者が療養室外でまとめて介護されている
サービス利用者・・・男性 85歳 要介護3
相談者・・・甥
●相談苦情の概要
利用者が入所している老人保健施設では、手間のかかる入所者(特に痴呆)のベッドをナースステーション前に集めたり、車椅子に乗せた入所者をデイルームに集めたりして介護している。その間部屋は施錠され、希望がないかぎり開けてはもらえない。痴呆のある利用者は、人通りもあり落ち着かないナースステーション前での生活が苦痛で自室に戻りたいと頼んだが聞き入れられなかった。家族からも居室以外での集団介護をやめるように申し入れたが改善されない。
●相談受付機関の対応
国保連は保険者とともに調査を行った。施設の言い分は次の通りであった。
(1)日常生活動作が低下している利用者に対して、よりきめ細かなケアを行うためにナースステーション前にベッドを集めて介護をしている。家族、利用者とは話し合い、同意を得ている。
(2)老人保健施設は家庭復帰を目的としている。利用者の引きこもりをなくすため、自立支援の場としてデイルームの活動を促している。
(3)ナースステーション前やデイルームで入所者を介護している間に、居室の換気をするために窓を全開にしている。痴呆のある入所者が窓を閉めないようにドアの鍵をかけている。
【国保連の指導】
(1)ナースステーション前は介護サービスの場としてはふさわしくないので、ここでのケアは必要最小限にするように。家族の誤解をまねかないよう十分説明するとともに、記録を残しておくこと。
(2)自分の意思が伝えられない利用者のために、個々の事情に十分配慮した処置を心がけること。
(3)居室に施錠することは、自由を制限するという点で身体拘束にあたる。居室には自由に出入りできることが基本。
●問題点
(1)ナースステーション前やデイルームではプライバシーに配慮した介護はできない。おむつ交換などが適正に行われていたかどうかは疑問である。このような介護が緊急、一時的にではなく継続して行われているのなら、利用者の精神的負担を考え、居室での介護方法を工夫する必要があるのではないか。
(2)介護老人保健施設では、緊急、やむを得ない場合を除き身体拘束その他入所者の行動を制限する行為が禁止されている(厚生省令第40号第13条第4項)。居室に施錠し入居者が自室に入るのを拒むという行為は、明らかに「入所者の行動の制限」にあたる。
(3)入所者の引きこもりをなくすため、という名目で部屋から全員を連れ出すのは、利用者の意思や人格を無視した行為である。施設側の利便性のみを追求した介護ではなく、利用者本位のサービスが提供されなければならない。
(4)入居者や家族は弱い立場にあり、施設側からの要請を断れないこともある。その点を考慮した上での施設側からの説明が必要ではなかったか。
(5)家族が苦情を申し入れたにもかかわらず、何ら対応がなされなかった。苦情に対し誠実に対処しサービス内容を改善しようとする姿勢が望まれる。介護保険制度開始から4年がたち、多くの事業者はサービスの質の向上に向け、様々な努力や工夫をおこなっている。この施設の介護はこのような流れに逆行するものである。
●特記事項
(1)現在、介護保険施設では利用者の人格を尊重した介護が目指されている。厚生労働省は新設の特別養護老人ホームすべてを個室化する方針を打ち出した。プライバシーの確保、人格を尊重した個別対応のケアが重視されて、個室化、ユニットケアが進んでいる。
(2)2003年4月より介護保険関連施設では「緊急、やむを得ない場合の身体拘束」について、その時間、様態、理由等を記録し保存しなければならないこととなった。(厚生省令第39、40、41号)
サービスの質に関する苦情(5)
特養の食事の内容が悪かったため衰弱死亡した
サービス利用者・・・82歳 女性 要介護4
相談者・・・子
●相談苦情の概要
施設入所当時はよかった食事の内容が、その後悪くなり品数も減った。生臭くかちかちの煮魚など、胃炎と逆流性食道炎を患う利用者には喉を通らないメニューも多く、急激に体重が減っていった。それに対して職員は何も対策をとろうとしなかった。全身の症状が悪くなり入院する必要があったが、利用者が望む病院ではなく協力病院への入院を無理強いされたため、入院が遅れた。その後やっと希望の病院に入院できた時には著しくやせ細り、まもなく死亡した。
●相談受付機関の対応
国保連が調査した結果、次のことが明らかになった。
(1)この施設は介護保険制度開始時にオープン。その後経営が悪化した模様。
(2)献立表をチェックした結果、平成12年5月以降急に料理の品数が減ったことが判明。経営上の問題から経費を節約せざるをえなかった。
(3)利用者は、1日1200キロカロリーほど食事を残す日が続いたが、特別な対策はとられなかった。
国保連は次の指導を行った。
(1)入所者の身体状況、嗜好を考慮した上で消化吸収しやすい食事を提供すること。摂取カロリーが少ない場合は医師、スタッフ、家族が連絡を取って原因を究明する機会を持ち、健康管理の充実をはかること。
(2)入院を希望する場合は、入所者、家族の希望する病院への紹介など適切な措置をとること。
(3)入所者個々の状況に合わせた施設サービス計画の実施、説明、同意など適切な介護サービス計画の充実に努めること。
●問題点
(1)高齢の利用者にとって、食事の摂取状況は健康状態を左右する重大な要素である。施設の経営状態にかかわらず、栄養、入所者の身体状況(この場合は利用者が胃炎と逆流性食道炎であること)、嗜好を考慮した食事が提供されなければならなかった。
(2)計画担当ケアマネジャーは、入所者の状況を把握し必要に応じてサービス計画の変更を行わなければならない。そのためには、介護職、看護師、医師との連携、利用者の食事摂取状況に関する情報の共有が必要である。
(3)厚生省令第39号第28条に「指定老人福祉施設は入院治療を必要とする入所者のために協力病院を定めておかなければならない」とあるが、これは協力病院への入院を強制するものではない。入院の際にはあくまで利用者、家族の希望が優先される。
質の良いサービスを選ぶために
サービス利用前に、質の善し悪しを判断するのはきわめて難しい。それでも情報を集めることによってサービスの質をある程度推察することは可能である。公開されている情報の量と利用者が得られる情報の量で、利用者が適正な選択ができるかどうか決まる。
1 情報を得る方法
(1)事業者から重要事項説明を受ける。
(2)ケアマネジャーに調べてもらう。
(3)地域の人の評判を聞く。
(4)事業所を見学し、担当者の話を聞く。
(5)保険者の事業者情報を調べる。
(6)行政の情報公開制度を利用する。
(7)地域のNPOなどによる調査の結果を調べる。
(8)第三者評価など評価事業の結果をみる。
2 チェックする項目
(1)経営者の理念
(2)施設の設備、財政状況
(3)職員体制(人数、平均年齢、有資格者数、正職員の比率、勤続年数)
(4)サービスの内容(入浴回数、シーツ・おむつの交換回数、排泄援助、食事メニュー、サービス選択の有無)
(5)情報公開の程度
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サービスの質に関する苦情(6)
ショートステイで依頼したサービスが提供されない
サービス利用者・・・要介護度不明
●相談苦情の概要
老人保健施設のショートステイを利用する際に、心身の状況を説明し、水分制限、食事介助、服薬確認、排泄指導などを依頼した。しかし、依頼内容が守られていないので、指摘し、再度確認したにもかかわらず、ミスが再発した。退所日に謝罪と説明を求め、その後も文書での説明を再三要求したが「応じられない」と断られた。謝罪と説明を求めたい。
●相談受付機関の対応
調査の結果、判明したこと。
(1)当事業所は平成13年に開設した施設で、苦情が殺到している。
(2)利用者は同じグループの他のショートステイを利用していたが、空きがなく、このショートステイを利用した。
(3)契約書の交付、重要事項の説明はなく、施設介護計画も作成されていない。サービス提供マニュアルはなく記録も整備されていなかった。(厚生省令第37号違反)
(4)サービスの質が低い原因は、開設まもなくの混乱と人材不足にあった。
●問題点
(1)医療系の事業者は、自らは謝らない傾向があり、利用者との間でトラブルになりやすい。
(2)療養中の利用者にとって、サービスの質の悪さは直ちに生命を脅かすことになる。施設指定の際の、きめ細かな調査、指導が望まれる。
(3)事業者側は施設開設に当たり、事業の社会的役割を考えた上で運営基準に沿った準備を十分に行うべきである。
●特記事項
指導を受けた後、重要事項説明、契約書の交付が行われるようになった。ケアマネジャーとの連携強化、カンファレンスの実施、服薬管理の工夫などサービスの質は著しく改善し、相談員も勉強するようになった。
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