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サービスの質に関する苦情(2)
痴呆がある独居高齢者への訪問介護サービスの手抜き
サービス利用者・・・男性 90歳 要介護4
相談者・・・親族
 
●相談苦情の概要
 「90才の独居老人の訪問介護サービスに手抜きがあるようだ」との匿名希望者の苦情申立てがあった。午前2時間の家事援助と午後2時間の身体介護を依頼しているが、ヘルパーは30分〜40分で帰ってしまう。食事の内容は貧弱で利用者の好物である餅類の献立にかたよっている。デイケアの送迎場所なども不明。ケアマネジャーに注意して欲しい。
 
●相談受付機関の対応
 利用者は中程度の痴呆で介護サービスについての批判などの意思表示は不可能である。訪問系サービスは自宅で行われるため、その内容は極めて把握しにくい。国保連はケアマネジャーと事業者の調査を行った。
【調査過程】
(1)ケアマネジャーから計画書、サービス利用書の提出を受けた上で、事業者の聴き取りを実施した。
(2)デイケア施設でヘルパーの送迎状況を調査した。
(3)保険者に依頼して事業者のレセプト、その他の資料の提供を受けた。
【調査結果】
(1)高齢者の一人暮らしでは、月ごとのプランより日々の状態に合わせた対応が多く、ケアプランに大幅な変更があった。
(2)ケアプランの臨機応変の対応は認められるが、プランの変更についてヘルパーに連絡がなく双方の連携は不十分であった。
(3)ヘルパーの献立内容や調理について、介護記録が十分ではなかった。
(4)介護記録に欠落部分が多く、業務の実態は正確に把握できなかった。しかし利用者の状況からサービス時間は確保されているようであった。
 国保連では、介護保険法第176条により、支援事業者、サービス事業者に次の内容を書面で指導した。
(1)一人暮しの高齢者の場合、ケアプランの変更はしばしば行われるが、ケアマネジャーが事業者と連携を密にして対応することが基本である。今回はヘルパーとの連絡が不十分であった。
(2)ケアプランを変更した場合、変更内容を詳細に記録し、関係者のモニタリングを通じて次月の参考資料となるように整理する。
(3)介護記録の記載方法等、実務研修に参加し、職員の質を高める努力をすること。
 
●問題点
(1)一人暮しの高齢者への質の悪いサービスが、レセプトなどの資料を綿密に調査した結果明らかになった。密室性の高い訪問サービスの質のチェックは容易ではない。
 サービスの質の向上には、
ア. ケアマネジャーは、利用者のアセスメントにそった綿密なケアプランを作成し、そのサービスの実施状況を常に把握する。また、サービス事業者との連絡・調整を密に図り、利用者の状況に即応したサービスの提供を行っていくことが重要ではないか。
イ. サービス事業者は、ヘルパー派遣の実務状況を介護記録などで確認し、ヘルパーへの教育や指導を怠らないこと。また、記録の適切な整備も必要である。
(2)痴呆の独居老人の居宅サービスには限界があるように思われる。一人暮しでは痴呆の加速も予測される。安定した終日のケア、適切な介護があれば、痴呆の進行を緩和する可能性もある。質の高い介護サービスを受けられる施設への入所が最も望ましいのではないか。
 
●特記事項
(1)調査ではレセプトを基本に日々の訪問介護実績を点検した。恒常的に事業者の実績内訳を一覧表にして保険者宛に提出してもらうことで、利用料の不正徴収等の防止にもなる。
(2)デイケアの送迎記録を整備し一覧表にすれば事業者の点検がスムーズに行えるようになり、家族への説明にも役立つ。
(3)調査後保健所を含めた行政機関のケアカンファレンスが実施されて、保健師の定期訪問も決定した。ケアマネジャー、ヘルパーのサービスが改善され、各機関の連携により適正なケアプランがたてられた。
 
中日新聞H16.1.9
 
サービスの質に関する苦情(3)
酸素ボンベのチューブのつなぎ直しをしてほしい
サービス利用者・・・男性 66歳 要介護4
相談者・・・妻
 
●相談苦情の概要
 利用者は在宅酸素療法を行っていて、週1回通院をしている。今は妻が付き添っているが、妻の都合が悪いときには現在依頼しているヘルパーに通院介助を頼みたいと思っていた。通院途中に酸素ボンベの接続パイプからチューブが抜けてしまったことがあったと告げたところ、つなぎ直すことは医療行為なので、ヘルパーにはできないと訪問介護事業所から言われた。利用者はパーキンソン病を患っていて手に震えがあるためチューブをつなぎ直すことはできない。事業所の対応に不満である。
 
●相談受付機関の対応
 訪問介護事業所と居宅介護支援事業所は併設関係にあり、大手事業者の支店である。国保連は、次のような要望を出した。
(1)酸素ボンベのチューブのつなぎ直しは医療行為なのでどんな場合にもできない、という画一的な判断ではなく、個別の事例として利用者の立場に立った対応をするように。
(2)ケアマネジャーが主治医と連絡を取り、ヘルパーが安心して対応できるような情報を得ること。
【事業所の対応策】
 事業所本部担当者とケアマネジャーが主治医と相談した上で次のような対応策を出した。
(1)利用者の生活環境と主治医の意見を参考にして利用者個々に対応する。本件では、ヘルパーが通院介助をしたときに万一酸素ボンベからチューブが抜けた場合はヘルパーが緊急的にチューブをつなぎ直す。
(2)主治医から指導を受けたケアマネジャーが利用者の要望をふまえた介護計画を作成し、利用者とよく相談した上で適切な通院介助を行うように努める。
(3)酸素ボンベ携帯で通院する経路の歩道の道幅や段差など注意する点を把握し、きめ細かな対応をする。
 
●問題点
(1)ケアマネジャーは介護計画作成時に、在宅酸素療養者特有の状況を把握しアセスメントを十分行わなければならない。酸素ボンベとその付属品の取り扱いについて、医療行為であるか否かも含めて事前に主治医に相談する必要があった。事業者本部が、国保連の調査後に速やかな対応を取ったことは評価できるが、これらは在宅酸素療養者の介護を依頼された時点で行うべきことであった。
(2)訪問介護事業は、利用者が自宅で自立した日常生活を営めるよう援助するものである。その趣旨からすれば、利用者の妻から問い合わせがあった時点で、「医療行為だからできない」と即座に断ったのは不適切であった。ケアマネジャーと連携を取り利用者の希望にそえるような方法がないか探るべきだった。
(3)この事業所は大手事業者の支店であり、事業者本部が指導する体制にある。当該事業所独自で迅速に判断できない状況であったために、利用者の要請を安易に断ってしまったのではないか。
 
●特記事項
 医師法第17条は医師以外に業務としての医療行為を禁じている。しかし何が医療行為にあたるのかの規定はなく、厚生労働省の解釈では「医師の判断、技術がなければ人体に危害を与えるおそれのある行為」となっている。医療行為にあたるかどうかは、「個別の事例毎に判断すべきものである」として、照会があったものについて解釈をしている。例えば、普通の爪切りなら医療行為ではないが、巻き爪などの疾患や感染などの危険がある場合の爪切りは医療行為にあたる。
 また、厚生労働省は緊急時の対応について次のような見解を示している。
 「要介護者の状態に急変が生じた場合で医師・看護師による速やかな対応が困難であるとき等において、医療関係資格を有しないホームヘルパー等が緊急やむを得ない措置として医行為を行うことは、それが業として行われる(反復継続の意思を持って行われる)ものでない限り、医師法第17条に違反するものではない」(内閣府国政モニターへの回答 平成15年2月)
 
新聞記事から・・・
ヘルパーのたん吸引、「ALSにとどまらない」厚労相
 医療行為とされるたんの吸引を、厚生労働省の分科会が自宅療養中の筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の患者に限って、ホームヘルパーらにも認める報告書をまとめたことについて、坂口厚生労働相は3日、閣議後の記者会見で、「ALSだけにとどまる話ではない。どこかで風穴を開けないと全体へ広がっていかない」と語り、今後、筋ジストロフィーなど、ほかの病気の患者へも広げたい考えを示した。
 また、たん吸引以外の医療行為についても「介護福祉士は訓練を積んでおり、できることは渡していかねばならない。医師や看護師でないとできないということではないと思う」と、段階的に介護側に認めていきたい意向を明らかにした。
(朝日新聞2003/6/03)







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