3. サービス利用料金に関する苦情
1. トラブルの概要
介護保険の在宅サービスを受けた時は、原則として費用(サービスの種類ごとに定められる基準額)の9割が保険で給付され、1割が自己負担となっている。このことは利用者や家族もよく承知している。しかし、在宅サービスを受けていて『入院したのに福祉用具貸与がそのままになっており利用料が全額自己負担になった』『緊急入院したのでヘルパー派遣の中止を連絡したが、全額自己負担金を請求された』といった在宅介護から入院へと利用者の状況に変化が起きた時、介護保険の在宅介護給付の対象にならなくなる。入院と同時に在宅サービスを中止しないと全額自己負担となってしまう。そのことを知らない(知らされていない)利用者が多い。
また、介護保険では、要介護認定の区分によりサービス利用費の支給限度額が決められている。『介護認定申請中に暫定プランでヘルパー派遣をしてもらったら、要介護度の見込み違いで多額の自己負担金請求がきた』というようにサービス利用限度額をオーバーした場合は、全額自己負担となってしまう。これらのように、思わぬ自己負担金が発生した時に利用者(家族)は納得できず、各種の相談機関に苦情として相談を寄せることとなる。
2. トラブルの要因
介護サービス利用者の利用料に関するトラブルは、大多数が在宅介護サービス事業者、福祉用具貸与・リフォーム事業者といった、サービス提供事業者との間で発生している。
在宅サービスを受けるときは、ケアマネジャーに介護サービス計画の作成を依頼し、サービス提供事業者と契約を交わす。その時、ケアマネジャーが保険給付の対象になるか否かを区分し、種類・内容・利用料などを利用者、または家族に説明し、同意があればサービス利用票を交付する。事業者にも同一のサービス提供票を渡すことで、サービスが実施される。この様にシステムとしては、問題がおこらないようになっている。しかし、高齢者は体調の変化が著しい。特に入退院などにより状況に変化がおこった時に、ケアマネジャーやサービス事業者が正しい対処を怠ってサービスの変更がなされず、トラブルとなっているケースが多い。
ケアマネジャーは利用者の状況をたえず把握し、突然の変化があった時には、家族から必ず連絡を受けられるように体制を整えて、速やかに介護サービス計画の変更をおこなってほしい。その際、利用者の同意を得ると共に、サービス事業者に対して早急に計画の変更を通知することが重要である。
また、福祉用具貸与やリフォーム事業者とのトラブルに関しては、ケアマネジャーのアセスメント不足や知識不足と共に、事業者が利用者との契約時に適切な説明を行っていないことが原因でトラブルに発展している場合が多く見られる。
3. サービス利用料トラブルと契約
介護サービスを利用するには、まず利用者は、介護サービス計画の作成を依頼するため居宅介護支援事業者と契約をする。そのサービス計画に基づき、それぞれのサービス提供事業者と契約を結ぶこととなる。契約締結時には、各事業者から重要事項説明書を受け取り、内容の説明を納得いくまで受けておく必要がある。特に利用料に関しては、介護サービスの内容、保険適用の有無、個々の利用料金と支払方法、体調不良などでキャンセルした場合の取扱い等々について、わかりやすく書かれているかチェックしておくことがトラブルを防ぐうえで重要である。
グループホーム等の入所施設の利用料値上げに関し、消費者契約法に抵触するような苦情『値上げが予定されていたにもかかわらず、入所時において説明や同意を得ることもなく契約、入所3ヶ月で値上げを要求』もある。不法行為を理由に値上げ拒否が出来るケースでも、家族は利用者が居づらくならないか、退所だけは避けたいなどの思いから、強く主張できない状況がある。
4. トラブルを回避するために
(1)利用者が経済的にも安心して介護サービスを受けるためには、居宅サービス計画を作成するケアマネジャーが果たす役割が大きい。ケアマネジャーは、事前にサービス提供について利用者及び家族に十分な説明を行い同意を得なければならない。また、その後のサービスの実施状況をたえず把握し、必要に応じた速やかな計画の変更やサービス事業者との連絡調整を密に図っていく事が重要である。これらが示された厚生省令(第38号第13条)を居宅介護支援事業者が遵守することにより、多くの利用料トラブルは防ぐことができると思われる。
(2)グループホームなどの利用料の値上げについては、事業者は利用料改定の合理的な事由などの説明を十分行い、家族の同意を得ること(厚生省令第37号第162条)が必要である。また利用者の退所に際し、他の施設を紹介するなど退所後も利用者が安心してサービスの利用を継続して受けられるよう適切な対応を図る(厚生省令第37号第160条第3・5項)ことにより、トラブルが回避出来るのではないかと考えられる。
■介護認定区分とサービス利用限度額
要介護度 |
居宅サービス利用限度額 (利用者負担限度額) |
1週当りの利用限度額 (利用者負担限度額) |
要支援 |
61,500円 (6,150円) |
約14,200円 (1,420円) |
要介護1 |
165,800円 (16,580円) |
約38,300円 (3,830円) |
要介護2 |
194,800円 (19,480円) |
約45,000円 (4,500円) |
要介護3 |
267,500円 (26,750円) |
約61,700円 (6,170円) |
要介議4 |
306,000円 (30,600円) |
約70,600円 (7,060円) |
要介護5 |
358,300円 (35,830円) |
約82,700円 (8,270円) |
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*居宅サービス利用限度額は要介護認定区分に応じ1ヶ月ごとに定められた支給限度基準額(平12・2・10 厚告33)
*一週当りの利用限度額は要介護度に応じた在宅サービスの標準的な組合せから計算されたおおよその利用限度額(平11・7・29 老企22)
■各施設の介護認定区分別 日額介護報酬(利用料)[単位:円]
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介護老人 福祉施設 |
新型特養 ホーム |
介護老人 保健施設 |
介護療養型 医療施設 |
要介護1 |
6,770 (677) |
7,840 (784) |
8,190 (819) |
8,200 (820) |
要介護2 |
7,480 (748) |
8,310 (831) |
8,680 (868) |
9,300 (930) |
要介護3 |
8,180 (818) |
8,790 (879) |
9,210 (921) |
11,680 (1,168) |
要介護4 |
8,890 (889) |
9,270 (927) |
9,750 (975) |
12,690 (1,269) |
要介護5 |
9,590 (959) |
9,740 (974) |
10,280 (1,028) |
13,600 (1,360) |
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*( )内は利用者負担額/食事代・日常生活用品費は別途負担/新型ホームは、月4〜5万円の居住費を別途負担
*施設介護報酬額(利用料)は下記職員配置の場合
介護老人福祉施設・・・入所者3人につき介護職員1人。
介護老人保健施設・・・入所者3人につき介護・看護職員1人
介護療養型医療施設・・・入院者6人に対し看護職員1人、入院者4人に対し介護職員1人
サービス利用料金に関する苦情(1)
グループホームの料金の値上げ要求が不満
サービス利用者・・・80歳代 女性 要介護3
相談者・・・家族
●相談苦情の概要
グループホームに入所して3ヶ月未満なのに、手紙で料金の値上げを要求された。手紙の内容は、施設利用料の改正についてアンケート方式で回答を要求。値上げに同意しなければ退居の選択をせまるものであった。値上げ理由等の事前説明もなく、一方的な値上げに納得がいかない。また、今後もこのような再値上げがあるのではと不安である。
●相談受付機関の対応
国保連が事業者の調査を実施した。
(1)事業者は利用者の家族にアンケート方式の文書を郵送、その結果を基に監督官庁に利用料改訂について照会し、問題がなければ値上げを行う予定であった。
(2)値上げについては、事業所開設時に既に検討されており、利用者の入居後、利用者家族に個別に説明文書を送付、同意を求めていた。同意できない場合は、猶予期間を経た後、退居してもらう予定であった。
(3)事業者の経営拠点が他県に所在し、グループホームとは離れた場所で管理・運営がなされており、利用者の意向や苦情等を直接受けとめる体制が整っていなかった。
国保連は次の指導・助言を行った。
(1)事業者は家族と面談し、入居時からの値上げ予定の経緯を説明して同意を得ること。また今後、値上げ改定を行わざるを得ない場合は、家族に対し必要経費、サービス内容、改正の合理的な事由等を十分説明し同意を得ることが必要である。
(2)利用者の家族会等を早急に設置し、家族の意見が反映するような取り組みを図ること。組織として苦情に対し迅速かつ適切に対応できる体制を整えておく必要がある。
●問題点
(1)開設時の利用料が同地区のグループホームより低い料金で設定されており、当初から値上げの予定があったにもかかわらず、入所時には何の説明もなかったことは契約上問題が多い。しかしながら痴呆高齢者を抱える家族にとって、値上げ理由の整合性に疑問を抱いても、退居勧告を考えると同意せざるを得ない状況がある。利用料値上げに関しては、厚生省令第37号第162条を遵守し、十分な説明を行い、同意を得ることが不可欠である。
(2)退居時の対応についても猶予期間を経るだけでなく、省令(厚生省令第37号第160条第3項)に基づき他事業所を紹介する等適切な措置を講じ、利用者が退居後も安心してサービス利用ができるよう対処する必要がある。
(3)経営の拠点とサービス事業所が異なる場所にある場合、介護現場にあった運営がされにくい。両者は緊密な連携をとり、利用者の意向が迅速に十分反映されるような運営体制の構築が必要である。
●特記事項
このグループホームの利用料は、当初12万円に設定。3万円値上げをして15万円となった。また、サービス内容、質に関しては問題がなかった。
痴呆性高齢者グループホーム
全国約160万人といわれる痴呆の人とその家族達の「痴呆でも安心して自分らしく暮らしていける場がほしい」との切実な願いを背景に、痴呆の人の存在を丸ごと受け止め、寄り添いながら生きることを支える場として登場した。
介護保険では居宅サービスのひとつ(痴呆対応型共同生活介護)に位置付けられている。
■グループホームの特徴と役割
(1)小人数(9名以下)の中で一人ひとりが個人として理解され受け入れられる暮らしとケア
(2)慣れ親しんだ生活様式が守られる暮らしとケア
(3)認知障害や行動障害を補い、自然な形でもてる力を発揮できる暮らしとケア
(4)自信を取り戻し感情豊かに過ごせる暮らしとケア
(5)豊かな人間関係(家族・共に住むもの同士・スタッフ・地域社会)を保ち支えあう暮らしとケア
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