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契約に関する苦情(2)
特定施設入所者への介護保険外サービス料の請求
サービス利用者・・・男 90歳 要介護3
相談者・・・利用者の娘
 
●相談苦情の概要
 利用者は、妻に先立たれた後、家屋敷を処分し、終身利用権料3千万円を支払ってケア付有料老人マンションに入居した。施設は平成14年5月介護保険特定施設として県の指定を受けた。利用者は同入所者生活介護利用契約を新たに結んだ。しかし介護保険外の契約は保留していた。その後、施設から月々の請求には介護保険の自己負担金にサービス料金として155,000円を加算して請求されるようになった。介護保険自己負担分の支払はしたが、保険以外分は支払わなかった。すると、突然施設長より契約解除ととれる文書が送られてきた。利用者は、契約解除の意思のないことを伝えたが、納得できない。
 
●相談受付機関の対応
 本事例は保険者と都道府県が協議の上、国保連へ苦情申立てをした。苦情処理は関係機関が連携をして対応することになった。三者の職員が施設で事情聴取を行ったところ、次のような結果であった。
(1)特定施設では運営時間を原則9時〜17時とし、それ以外は介護保険給付外サービスとして家政婦付添い業務としていた。
(2)介護保険料外サービスの請求は、利用者や家族の希望通り実施した。
(3)介護保険料外サービス料155,000円は、介護職員の人件費を基準に試算した妥当な金額であると、施設は請求の正当性を主張した。
(4)最近、利用者の徘徊や居室の行動から、重度のサービスが必要と判断。当施設の介護は既に限界で、老人保健施設等の介護が適当と思った。他の施設入所をすすめる予定であった。
 
 保険者と都道府県は、次のように対応した。
(1)この施設は、特定施設の指定を受けた段階で限定付老人ホームの規制は消滅しており、介護サービスは特定施設として対応することになっている。
(2)特定施設入居者介護は適時、適切に介護サービスが包括的に提供されるものである。
(3)巡回サービスは介護保険内の当然のサービスである。
(4)介護保険給付対象外サービスとして認められるのは、契約事項に定められたものに限定される。
(5)利用者や家族は、保険外サービスを契約していない。
(6)155,000円の請求は、根拠のないものである。
(7)特定施設では重度の介護サービスが必要になったことを理由に契約の解除はできない。
 
 保険者と都道府県は施設側に改善の必要があることを口頭で、国保連は文書により指導した。
 
●問題点
 有料老人ホームが介護保険の特定施設に移行した場合、運営に関する基本的な理解が不足する事が多い。
 行政は法改正があった時は言うに及ばず、常に法規の周知徹底をはかることが必要と思われる。有料老人ホームなどの介護サービスは継続的契約で、契約を取り交した後も、法改正や状況の変化などで契約内容を改訂しなければならない事も多い。不利益な変更をされないよう慎重な対応が望まれる。
 有料老人ホーム等が特定施設に指定された場合、利用者や家族への内容説明を十分に行い、確実な了承を得ることが必要である。
 
●特記事項
 厚生労働省は、類似施設も取りこんだ有料老人ホーム新指導指針を示し、平成14年10月に制度が改正された。しかし何千万円にも上るホーム一時入居金を中途解約する場合などの精算規定が十分でない点が懸念される。
 
有料老人ホームと特定施設入所者生活介護
1. 2002年10月の有料老人ホーム設置運営標準指導指針の改正により有料老人ホームの類型が、それまでの6類型から介護付、住宅型、健康型の3類型となった。このうち、介護付有料老人ホームは、介護保険の特定施設入所者生活介護の指定を受けた施設である。特定施設の指定を受けていないホームは、広告、パンフレットで「介護付き」「ケア付き」などの表示をすることができない。
2. 特定施設の指定を受けた有料老人ホームは、有料老人ホーム設置運営標準指導指針と介護保険法に伴う運営基準の二重の規制を受けることになる。利用者は、前者により主にハード面(施設)の水準、経営の安定性などを、後者により人員配置、その他のサービスの水準や適正さを中心に保証される。
3. 介護付有料老人ホームに入所する場合、入所者は有料老人ホーム入所契約と特定施設入所者生活介護契約をそれぞれ別に結ぶ。入所しているホームの特定施設入所者生活介護に代えて他の介護サービスを利用することも可能である。(厚生省令第37号第179条第2項)
4. 特定施設の指定を受けた有料老人ホームは、以下の場合に限り介護保険外のサービス費用を受領してもよいことになっている。(厚生省令第37号第182条第3項、老企第52号)
(1)人員配置の手厚い場合のサービス利用料
(2)利用者の特別な希望により行われるサービス
(外出介助、買い物代行、標準回数以上の入浴介助など)
5. 厚生省(当時)は、特定施設の指定を受ける前からホームに入所していて既に終身介護金を前払いしている利用者に対して、介護保険の給付との重複が予定される介護金を返還するようホームを指導した。
返還方法は
(1)将来の介護保険給付との重複が予想される金額を返還。
(2)入所者が償還払い方式で介護保険給付を受ける。
などがあるが、ホームによって対応はさまざま。トラブルになったケースも多い。
 
契約に関する苦情(3)
併設病院に1日の入院で施設に戻れなくなった
サービス利用者・・・男 80歳
相談者・・・子
 
●相談苦情の概要
 利用者は老人保健施設に入院中、容態が急変し直ちに併設の病院に入院した。脳梗塞の疑いで1ヶ月の入院が必要という診断がされた。翌々日CTなどの精密検査の結果は一過性のもので、入院は必要ないという診断であった。利用者が施設に戻りたいと申し出たところ、施設にはすでに別の人が入っていた。施設が空いたら優先的に入所させるとの約束で戻ることを断られた。結果も不明な検査過程で他の人を勝手に入所させたのは軽率な措置であり、病院が併設されているため、老人をたらい回しにしているのではないか。「施設と併設病院のシステム上の問題」は家族が最も問題視する疑問点であった。
 
●相談受付機関の対応
 国保連は、処理業務を進める前に施設に事情を問合せることにした。電話確認時施設側の主張は次の通りであった。
(1)利用者は意識不明で脳梗塞の疑いもあり、施設での手当は無理と判断した。
(2)満床の病院のベッドを空けるため、施設入所を待機していた入院患者の了承を得て、入れ替わりにこの利用者のベッドを確保した。
(3)利用者が危険病状であることを連絡するため、数回にわたり家族に架電したが、不在で連絡がとれなかった。
(4)やむなく急遽、第2連絡者の了承を得て緊急措置をとった。
(5)その後、病院側から病状が急激に好転し入院の必要のなくなったことを家族に報告した。
(6)施設も病院も待機者の事情や安全を第一と考えており、最善の措置を講じたと確信している。申立人の疑問は全くの誤解であると考える。
 本件では病院側としても、家族には時間を追って病状を克明に報告すべきであったと反省していると『反省の辞』があった。
 
 国保連では検討の結果、施設に改善の必要があると認め、介護保険法第176条により、下記の内容を文書により指導した。
(1)本件は家族と施設側のコミュニケーションの不足が原因である。
(2)電話連絡が取れない時は手紙・FAXなど、様々な手段を用い利用者の理解を得る努力が必要である。
 
●問題点
 双方のコミュニケーション不足は、家族側にも責任の一端はあると考える。火急の事態には家族自らも架電するなど積極的に情報を得る努力が必要ではなかったか。
 介護保険が浸透するにつれ、利用者や家族の思い過ごしや過大な要求が増えているように思われる。
 少子・高齢化の進行する情勢の中では、介護保険制度の実効を挙げるため、利用者や家族の自助努力もまた大切である。
 
●特記事項
(1)根本的には、施設の絶対的不足が原因で、施設整備は国・自治体の重要課題の一つであると思われる。
(2)当事案では、老健も病院も共に他意はなかったと思われるが、利用者にはショートステイの対応、または他施設への斡旋などの善処が望まれた。
 
朝日新聞H15.4.24







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