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第2章 原因別事例紹介
1. 介護認定に関する苦情
 介護保険は、いわゆる健康保険とは異なり、すぐに誰もが介護サービスを利用することはできない。被保険者としてサービスを受けるためには、居住する市区町村(保険者)に申請して要介護または要支援認定を受けなければならない。給付に関わる手続きとして全国共通の要介護認定基準により、利用者が要支援もしくは要介護状態か、どのような状態(区分)にあるかを調査し、保健、医療、福祉の専門家からなる介護認定審査会で判定する。
 要介護状態の区分は6段階。その区分によって利用できるサービスが決まり、その範囲の中でケアプランが作成される。このように要介護認定は利用者にとって必要な介護サービスの基本となるので、認定に際しては 利用者の日常における心身の状態を正確に把握し、適切な支援が受けられるように介護認定はなされなければならない。
 
■要介護認定区分とレベル
要介護度 身体の状態のめやす 介護基準時間(注)
要支援 日常の生活(食事、排泄)はできるが、見守りや身の回りの手助けが必要である。 25〜30分
要介護1 食事、排泄は自立しているが、歩行は自力では不安。判断能力の低下がある。 30〜50分
要介護2 歩行や食事、排泄、入浴にも見守りが必要。 50〜70分
要介護3 排泄、身の回りの世話に介護が必要、歩行も自力では困難である。 70〜90分
要介護4 食事、排泄、歩行等全面において介助が必要で理解力も大幅に低下、問題行動がある。 90〜110分
要介護5 日常生活の全面で介護が必要、多くの問題行動もあり、終日寝たきりで過ごす状態。 110分以上
*要介護認定の有効期間については見直しも検討されているが、現在のところは原則として6ヶ月。身体状況が大きく変化した場合、区分変更の再申請は可能である。自立と認定されても保険者による独自の福祉サービスも提供されることがあるので、市区町村の窓口に相談してみること。今後の課題として、認定の有効期間の見直しや調査員の調査能力向上およびケアマネジャーの資質向上が必要である。
(注)介護基準時間とは要介護認定の一次判定に用いる時間で、これは1分間タイムスタディという特別な方法による時間で、実際に家庭で行われる介護時間とは異なる。
 
介護認定に関する苦情(1)
要介護認定の訪問調査員の質問事項でショックを受けた
相談者・・・サービス利用者本人
 
●相談苦情の概要
 要介護認定の際、訪問調査員から色々と質問を受けた。その中で「今、季節は何ですか?」という質問があった。痴呆かどうかを尋ねる質問だと思うが、とてもショックを受けた。その夜は眠れなかった。
 
●相談受付機関の対応
 国保連の苦情処理委員会では、訪問調査員の経験不足ではないかと判断した。対象者の状況を判断せずに、書面に決められた質問事項をそのまま機械的に行ったことによる失敗であった。この苦情により訪問調査員の研修が必要だという声があがった。具体的には、家族や高齢者とのコミュニケーション技術向上のための研修が行われるようになった。
 
●問題点
 訪問調査員の未熟さが問題である。しかし、この苦情から調査員の研修が見直されたので、今後、同じ状況の苦情の防止対策はとられたと思われる。
 
●特記事項
 訪問調査員は、原則として市区町村の職員であるが、市区町村から委託された指定居宅介護支援事業者(介護支援専門員=ケアマネジャー)が担当することもある。調査は、所定の「訪問調査票」に基づき、本人の身体状況について85項目の質問をする。
 
介護認定に関する苦情(2)
介護認定結果が出る前のサービス利用について
サービス利用者・・・要介護
相談者・・・同居親族
 
●相談苦情の概要
 5月に介護認定の申請をした。7月に要介護1の認定通知を受けた。後で知ったのだがサービスは申請に遡って利用できると聞いた。ケアマネジャーはそのことを教えてくれなかったので、非常に不満がある。ケアマネジャーを変更したい。
 
●相談受付機関の対応
 国保連では、「申請日に遡ってのサービスは、暫定被保険者証の交付を受けて利用できる」となっている。このことをケアマネジャーは説明すべきであったが、認定結果が「自立」と判定された場合、利用したサービス費用は全額自己負担になる事を配慮したのかもしれない。これらのことをふまえて、再度ケアマネジャーと話し合うことをすすめている。
 
●問題点
 認定結果によっては利用したサービス全額が自己負担になることもあり得るので、申請に遡っての利用は、慎重にしなければならない。ケアマネジャーがこの点も含め、十分に説明するべきであった。
 
●特記事項
 申請日から認定日までの暫定介護サービス計画にもとづくサービスは、保険者がおこなっている。認定申請の際は、被保険者証を添えて行うので、代わりに資格者証(暫定被保険者証)が交付される。資格者証の有効期限は保険者が任意に決めるが、標準的には申請日から30日。また、申請前であっても、緊急などやむをえない事情がある場合にはサービスを受けられるが、申請日までの間は償還払い(一度費用の全額を支払い、後で保険者に申請し、費用の9割を払い戻してもらう)となる。
 
介護認定に関する苦情(3)
更新の結果、要介護4から3になった。納得できない
サービス利用者・・・要介護度2
相談者・・・同居家族
 
●相談苦情の概要
 今まで自宅の風呂に入っていたが、足腰が弱くなったためデイサービスを利用するようになった。家庭での入浴介助の必要が無くなり、出歩くこと(徘徊)もなくなったため、更新結果が4から3になったと説明された。利用者の状態は以前と変わらないので認定結果の変更に納得できない。訪問調査員や介護認定審査委員には介護経験者を選んで欲しい。
 
●相談受付機関の対応
 国保連の苦情処理委員会としては、相談者が訪問調査の内容に対して不信感を持っているため、保険者の窓口で調査票の閲覧申請をしてみるようすすめた。保険者の窓口で納得がいかない場合は都道府県の介護認定審査会への不服申請をする方法もある旨助言し、相談者は納得した。
 
●問題点
 徘徊がなくなり、介護を必要とする程度が軽くなり、要介護度が4から3になったとの説明であった。しかし、日常の世話をしている家族からすれば、今までと変わりない状態であり、介護認定が区分変更されたことで、受けられるサービスが不足することに納得できないのも無理はない。区分変更に至った認定の基準を明らかにして、十分な説明がなされるべきである。
 
●特記事項
 要介護認定には有効期間がある。この有効期間の満了に伴い更新申請を行い、その判定に変化があった場合には要介護度が変更される。
 デイサービスでは利用者を自宅から施設まで送迎して、入浴や昼食サービス、機能訓練を行っている。利用者にとっては外出することで友達ができるなど、良い機会となる。
《要介護認定レベル毎の介護の目安・一日の介護時間》
要介護3の場合:排泄、入浴などの全てで介助が必要(70分以上90分未満)
要介護4の場合:食事、排泄、入浴の全面介護が必要(90分以上110分以内)
 
介護認定に関する苦情(4)
介護認定の申請をして認定されたが、認定に不満である
サービス利用者・・・要支援
相談者・・・同居家族
 
●相談苦情の概要
 父がくも膜下出血で倒れ入院中。退院が間近なので、介護認定の申請を行い要支援と認定されたが、軽いのではないか。
 
●相談受付機関の対応
(1)国保連の苦情処理委員会は要介護申請に伴う不服審査請求をするように助言した。
(2)保険者の介護保険課へ申し出て認定結果を確認し、再認定の申請をする。そこでもまだ不満が解決できない場合は行政訴訟をおこすこともできる、と助言した。
 
●問題点
 要介護度の区分は6段階と定められている。訪問調査日の利用者の状態によっては普段の生活の全てが把握できない場合もあるので、日常の様子を家族から十分に聞き取ることが必要であろう。
 
●特記事項
 介護認定調査会は、医療・保健・福祉の専門家数人によって構成されている。先の認定以降の心身の様態や新たな変化に留意する必要がある。再調査を申し出る時は納得できない理由も付け加えなければならない。
【訪問を受ける時の注意点】
●いつもと変わらない態度でリラックスさせる。
●説明に対して、分らない点は確認して、納得したら返事する。
●できないことはできないと、正直に伝える。
●家族が常に介護日誌をつけるなど、日常での様子を観察して記しておくこと。
●第三者に証明してもらうか、利用者の状態によっては調査日を変更する。







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