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5.2.2 STSの計画
 わが国におけるSTSは、NPO等ボランティア団体、社会福祉協議会、タクシー事業者等の個別組織が主体となって運営されてきており、個別組織毎に運営のノウハウが蓄積されてきており、地方自治体が補助金等の支援を行う例がみられた。また、自治体がバス、タクシー事業者に移送サービスを委託したり、高齢者・障害者の通所施設等が独自の送迎バスの運行をしている例が多かった。関係者は協調して、これらのSTSの統括的な計画作りを検討していくことが望まれる。
 
(1)地域行政が主体となって調整する
 STSの運行は地域福祉に資する分野であり、自治体が主体となって取り組むことが望まれる。
 自治体が公共交通を具体的に計画して、サービスを提供している事例としては、ベルギーのハッセルト市があり、乗合バスと需要応答型DRS(Demand Responsive Service)の運行を事業者に委託している。わが国では、町田市における自治体直営の移送サービス「やまゆり号」の運行、世田谷区、金沢市等における自治体からNPO等ボランティア団体への運営費等補助による移送サービスの提供、三郷市(埼玉県)における乗合バス網の再編等の事例がある。
 なお、スウェーデンにおける「スペシャル・トランスポート・サービス法(1998年施行のSTS法)」をみると、「STSの運営は地方自治体の責務により、公共もしくは個別の移動手段を利用できるようにしなければならない」とされている。
 
(2)計画のトータルコーディネート
 例えば、1カ所の施設へ複数の車両で送迎を行い、その車両の稼動時間帯に利用したい人が利用できない等、非効率なサービス提供が見受けられる。
 自治体には地域福祉交通を計画するノウハウが不足しているので、効率的なSTSの運営計画を策定するためには、関係者で構成される地域協議会による調整、既存の移送サービス、福祉タクシー事業者のノウハウ活用、交通計画コンサルタントへの委託等とあわせた計画のトータルコーディネートが考えられる。
 埼玉県三郷市のように、乗合バス網の再編に際して、需要動向調査を実施した上で交通事業者の自主的な乗合バスの運行を募集し、自治体が運行情報についての広報を行い、利用者サービスの向上と需要の拡大に結びついた事例もある。
 
(3)目標水準の設定とサービス供給に対する評価
 本調査のケーススタディでは、地域の実情に応じた利用者の検討、STSの必要な供給量の試算等を行った。また、需要に応じてフレキシブルな運行をするバス等への一部利用者シフト等、利便性向上を図るための運営計画についての検討が必要である。
 サービスの提供開始後は、実施されているサービスの供給量、質は適切か、計画そのものが実情にあっていたか等を評価するシステムを構築する必要がある。
 
(4)行政界を越えたサービスの提供
 過疎地域における中心都市への通院、遠距離移動の際の鉄道との連携等、利用者への広域なサービスの提供が求められている。
 一つの自治体からサービス提供者へ運行が委託された場合、行政界を越えたサービスの提供には制約があり、タクシー事業者の営業区域外からの乗車等にも制約がある。居住地域以外へのSTSの利用が一般化するためにも、隣接する自治体が連携することが必要となる。その際、前述の「地域交通サービスセンター」の設置と複数予約センターの連携が考えられる。 
 
(5)財源の確保
 新たなSTSの運行を開始するためには、民間事業者、NPO等ボランティア団体のみによる資金調達は困難であり、国等公的セクターからの補助制度の拡充、税制上の特例措置や、地方交付税、地方債等の地方財政措置等多様な財源の活用が望まれる。
 欧米では、保険、年金、住民税等も財源として高レベルの地域福祉交通サービスを提供している。
 わが国において、現状活用できる財源と今後の方向性を整理した。
(1)助成制度の充実
a. 運行主体への助成
 前述のように、一部の自治体はNPO等ボランティア団体、タクシー事業者に対して、STSの運行委託を行っており、車両の購入等初期投資、運営費の不足部分等に対して補助を行っている。サービス水準向上のためにも、国等公的セクターは、既存の各種施策の効率的実施やSTS実施により不要となる分野での財源を新たなSTSの整備に充てること、初期投資と運営費に対する新たな補助制度を検討することが必要である。
 なお、自治体がサービス供給者に委託する際には、限られた財源を有効活用するために、海外事例のように委託先の入札制度を検討することも考えられる。
b. 利用者への助成
 STS利用料金の低廉化、利用券の補助等が従来の利用者への直接の助成である。間接補助としては、高齢者へは介護保険制度が、障害者へは支援費制度がある。しかし、これらの制度の適用を受けることができない高齢者・障害者に対する移動の保障をどのようにするかを含めて、制度の見直しを検討することも考えられる。
 利用者負担の上限の目安として、海外においては、利用者からの適正な料金を、米国のパラトランジットのように、公共交通機関の2倍以内を目安としている事例もある。
 
(2)基金の設立、寄付金等支援団体への働きかけ
 国や地方の財政が逼迫するなか、利用者負担でも、行政機関の負担でもない財源として、行政の追加負担のない基金の設立、車両の寄贈等支援団体への働きかけ等が挙げられる。
 
(6)NPO等ボランティア団体の福祉有償運送及び過疎地有償運送の確立
 国土交通省は平成14年度にNPO等ボランティア団体の移送サービスの違法状態を解消する方針を固めて、平成15年4月からNPO等の有償運送を認める構造改革特区事業を開始した。ひとつの地域に複数団体が存在する場合の年会費、利用料、サービスの統一、タクシー事業者との料金の調整等についても検討されてきた。
 平成16年3月には、「福祉有償運送及び過疎地有償運送に係る道路運送法第80条第1項による許可の取扱いについて」の通達において、平成16年4月以降の構造改革特区の全国展開に伴い、NPO等非営利法人は、一定の手続き、条件の下で自家用自動車の有償運送許可が受けられることを明記した。
 具体的な許可手続きに際しては、地方公共団体の職員、学識経験者、想定される利用者、住民等で構成される運営協議会を設置する。運営協議会は、原則として地方公共団体が主宰し、必要に応じ、交通圏等を勘案して複数の市区町村が共同で主宰、又は都道府県が主宰することもできる。運営協議会においては、移動制約者の数、タクシー及びNPO等ボランティア団体の輸送実態、住民の輸送ニーズ、許可を受けようとするNPO等の自家用自動車有償運送の運行管理体制等に関する資料を作成する。運送の条件として、運送主体、運送の対象、使用車両、運転者、損害賠償措置、運送の対価、管理運営体制等のルールが定められている。
 
以上、平成16年3月16日に、国土交通局自動車交通局長より通達された次の資料による。
通達:国自旅第240号、福祉有償運送及び過疎地有償運送に係る道路運送法第80条第1項による許可の取扱いについて
なお、同日に、国土交通局自動車交通局旅客課長より次の通達も出されている。
通達:国自旅第241号、患者等の輸送サービスを行うことを条件とした一般乗用旅客自動車運送事業の許可等の取扱いについて
 
(7)介護保険制度・支援費制度
 重度の移動困難者に対して、高齢者の介護保険制度、障害者の支援費制度は、一定の効果を上げている。
 介護保険制度の導入は、従来はNPO等ボランティア団体、又は自治体が委託した福祉タクシー会社に限定されていた福祉輸送の範囲を、「介護タクシー」にまで広げたことである。
 
(8)行政とサービス供給者の協働
 行政とサービス供給者が協働した取り組みが増えることが望まれる。
 特区に認定された自治体は、高齢者・障害者に対する移動の保障を重要な課題と位置づけ、NPO等ボランティア団体、タクシー事業者等供給者側と意見聴取・協議を行っている。NPO等ボランティア団体の連絡協議会の設立の支援、交通事業者、NPO等ボランティア団体が所有する車両の改造助成等の支援を検討している自治体もある。
 
(9)環境整備
(1)安全確保のための統一的なルール整備
 NPO等ボランティア団体のなかには、既に安全運転講習会への参加、又は企画、実施している事例がみられる。しかし、全ての団体が行っているわけではないので、万一事故が発生した際の損害賠償措置も含めて、特区を試みに安全に関する統一的なルールづくりが望まれる。
 一方、介助技術の向上は、NPO等ボランティア団体、タクシー事業者ともに進んでいる。タクシー事業者でも独自にケア輸送サービス従事者研修を実施するなどホームヘルパー資格を取得したドライバーも増加した。
(2)事業手続きの明確化・簡素化
 行政等関係者は、運行を開始する際の手続きに関するノウハウをわかりやすく広く周知するためのマニュアルの作成、手続き窓口の統合・簡素化を行う必要がある。
 
(10)運営の効率化
(1)運行主体毎の役割分担明確化
 自治体が調整役となり、NPO等ボランティア団体、タクシー事業者各々の長所を生かした、省力化(効率化)、利用対象者増加への取り組みが求められている。運行時間、料金等サービスの多様化により、利用者が目的や時間帯等にあったサービスを選択することが可能となる。
 今後は、介護事業所、通所施設等福祉団体、社会福祉法人との情報交換も必要となる。
(2)効率的な運営方法の導入
a. 地域交通サービスセンターの機能拡充、地域間の連携
 前述の「地域交通サービスセンター」の地域間の連携が重要である。利用者数に応じた運行管理センター1カ所のエリアの検討を踏まえた、各地域のセンター間の相互扶助が移動の連続性を確保し、各地域間の情報の差によるサービス利用の格差が是正される。
 NPO等ボランティア団体、タクシー事業者が参加し、料金等サービスメニューを提示し、相乗り、スクールバスでの混乗、多目的なサービスを複数運行主体の連携で実施することは変わりないが、欧州におけるSAMPO・SAMPLUSプロジェクトのように、運行データの電子化、ソフト開発、フレキシブルな運行をするバス等の予約受付も行う。利用対象者、利用者別の必要な車両の判定をするためのリハビリ関係の医師及び審査の第三機関の設置も更に重要となる。
b. 既存ストックの活用
 限られた財源でサービスを提供しなければいけないのはケーススタディでも明らかとなった。例えば、セダンタイプ車両、スクールバス等の活用等既存施設の活用、NPO等ボランティア団体の人的ネットワークの活用、タクシー事業者の空車や無線システムを活用したサービスの提供等、委託による人件費の削減が考えられる。
 
第6章 今後の課題
 本調査では、コミュニティバスやSTSの提供事例からサービスの現状と課題を整理し、先進事例の知見も取り入れながら、地域福祉交通サービスの整備方策の検討手順を示した。検討の一例として、サービス対象者の人数、需要等を仮定して、町田市において需要動向分析の試算を行った。
 第4章 地域福祉交通サービスの整備方策の検討手順は、地域福祉交通計画を策定する際に参考としていただくために必要な調査・分析の手順を整理したものである。その際、地域の実情に合ったサービスの提供を検討し、交通計画を総合的に捉える姿勢が大切と考えられる。
 第5章 効率化を図るための実施方法の検討では、STSにおける運営効率化のいくつかの例を提案し、今後の地域福祉交通サービスの整備方策のあり方を検討した。
 今後は、サービス供給者、行政機関、利用者の更なる協調が望まれる。交通事業者、NPO、ボランティア団体等のサービス供給者は、需要動向分析を行う等、計画策定に積極的に参画すべきである。国の役割として、利用者ニーズに合ったサービスを提供しやすくするための規制緩和、制度の見直し等を検討すること、自治体の地域福祉交通財源確保のために福祉面の財源措置を考慮する、公共交通機関における環境負荷低減施策の推進と合わせた計画の実施に対して環境面の財源措置を考慮すること等が考えられる。交通事業者は交通バリアフリー化推進のために地域の市町村との連携を図り、地域住民の移動の確保につとめることが求められている。利用者は、自身の将来の移動のために、サービス供給者、行政機関に対して、システムを向上させるための提案を積極的に行うことも考えられる。
 一方、より利用しやすい車両の開発、車いすの構造要件等安全確保のための統一的なルールの整備も重要である。
 最後に、本調査報告書が、交通事業者、NPO等ボランティア団体、行政機関等を始めとする各関係者の間で広く活用され、啓発、広報、情報提供活動を踏まえて、高齢者・障害者にとってより利用しやすい地域福祉交通サービスが確立されることを強く期待するものである。







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