第5章 利便性向上を図るための運営・運行方法の検討
5.1 利便性向上を図るための運営計画のいくつかの例
5.1.1 STSにおける運営の効率化の検討
現状のシステムの欠点を補うことで効率化を図るいくつかの例を示す。
(1)経費、費用の削減
例1. 地域交通サービスセンターの設置
移動を必要とする人(複数の病院、医療機関の利用者も含む)と交通サービスを提供する事業者の間に介在し、サービスをつなげるものが、地域交通サービスセンターである。計画、管理、利用資格の判定を行う機関による利用資格審査登録を経て、センターでは、乗車する人のコンディションの条件に合った車両、サービスを選択し、提供する(図5-1)。
図5-1 予約・配車の流れ
注1) |
センターの設置場所は、利用者の規模により、タクシー会社の予約センター、NPO等ボランティア移送サービス団体の事務所、移送サービス行う社会福祉協議会の事務所、商店街の空き店舗、担当者の自宅等が考えられる。 |
注2) |
予約のための通信料金は利用者が負担する。 |
注3) |
車いす対応リフト付きバスの運行時刻表とバス停の整備状況等の情報を利用者に提供する。 |
サービスセンターの設置効果は、利用者のサービス選択の範囲が広がることである。特に利用者の立場に立ったサービスのあるべき姿の例としては、当日の直前予約が可能、サービス提供者(タクシー会社やNPO等ボランティア団体・社会福祉協議会等)に入会費や年会費などを別々に負担しなくても良い、利用者の身体的な状態にあわせた車両の配車等が考えられる。
参考:仲介システムの設置による効果
1. 仲介システム(コーディネート)の情報提供による利用者側の利便
・自らの目的に合ったサービスの選択、紹介、予約
・利用条件に見合ったサービス提供者の手配
・利用目的に関連した情報の享受(例:病院の受付時間)
・入会金、年会費等の支払い先一元化による負担軽減
・車両の運用効率化により、空きがあれば当日の予約も可能
2. 仲介システム(コーディネート)の情報提供によるサービス供給者側の利便
・通院時間帯などの予約集中時間帯の効率的な配車
・利用者を自ら開拓する必要がなくなる
・利用料金や収受やサービスに対する評価などを取りまとめてもらう(運営経費の節約)
※サービス選択にあたって、それぞれのサービスの特色、実際にサービスを利用した人の評価などを知ることができる。
例2. 社会福祉協議会が土日にサービスを提供できない場合、NPO等ボランティア団体に車両を貸し出す
STSの利用目的の多様化に伴い、休日も利用しやすいようにするため、休日に運行していない社会福祉協議会があった場合は、車両をNPO等ボランティア団体に貸し出すことを検討する。外注による人件費削減の試みともなる。
また、一部社会福祉協議会が行っている車両の利用者への貸し出しに比べて、運転できる介助者がいない高齢者・障害者も利用できる利点がある。
(2)需要に対応した供給量のアップ
例1. STSの相乗りを勧める
限られた車両で1日に移送する人数を増やすため、STSの相乗りを勧める。
わが国における過去の実験では、初対面で相乗りをすることに抵抗があるので、個別の予約が入った時点で、双方の相乗りの了承状況を確認し、了承が得られてから、予約センターにおいて対応している。相乗りで料金が安くなれば利用は増えるので、相乗り用料金を設定することが考えられる。秋田県鷹巣町ではジャンボタクシーによる病院への相乗り輸送が行われている。
米国のパラトランジットには、車いすを使用したまま乗車できるリフトバン以外に、7人以上のグループに利用されるグループバンのサービスもある。
参考:米国の運輸省ADA規則によると、「パラトランジットサービスを利用して同じ目的地に行く場合と比較して、その運賃の2倍を越えない」、「予約サービスを提供する場合は、輸送量全体の50%以上の予約は受け付けてはならない」ことが明記されている。
5.1.2 他の運行サービスへの利用者シフト
例1. 半固定ルート型の運行をするサービスへの利用者シフト
100〜200mまでの歩行ができる高齢者・障害者は、半固定ルート型のフレキシブルな運行をするバス等を利用してもらうようにする。ドア・ツー・ドアのサービス必要性の判定は、予約センターと連携した医療機関が行う。また、介助が必要となる人も、介助者がいれば半固定ルート型のフレキシブルな運行をするバス等を利用できるルールを策定する。
スウェーデンでは、SAMPOのプロジェクトである「フレックスルート」の導入により、ドア・ツー・ドアで運行する車両の運行コスト削減を模索している(図5-2)。
図5-2 フレキシブルな運行をするバスの運行概念図
出典: |
「欧米主要国における高齢者・障害者の移動円滑化に関する総合調査」平成13年度報告書、交通エコロジー・モビリティ財団、p.157 |
例2. タクシーサービス(セダンタイプ)への利用者シフト
米国のパラトランジットには、(1)リフトバン、(2)相乗りのグループバン、(3)セダンのタクシーサービスがあり、このうちリフトバンはセダンのタクシーサービス等が利用できない重度の車いす使用者等が対象となっている。わが国においても、利用者の身体能力に応じて車両台数の多いセダンタイプのタクシーサービスへのシフトを行うことも考えられる。
カナダにおけるパラトランジットの運行コストを下げるための取り組み
・歩行可能な障害者のためにできるだけアクセシブルな公共交通サービスを行う。
・リフトを装着したパラトランジット車両の利用を、重度の身体障害者に限定する。
・従来の公共交通を利用することのできない高齢者や歩行可能な障害者のためにタクシーサービスを提供する。しかし、リフトを装備した車両を利用することはできない。
・適切なサービスを低コストで利用者に提供するために、いくつかの公的輸送機関、タクシー事業者およびボランティアサービスの間でサービスを仲介する。
出典:「欧米主要国における高齢者・障害者の移動に関する調査」平成12年度報告書、交通エコロジー・モビリティ財団
5.2 地域福祉交通サービスの整備方策のあり方
5.2.1 公共交通を含む地域福祉交通の計画
・狭義の地域福祉交通計画:高齢者・障害者の移動の保障
・広義の地域福祉交通計画:地域で利用できる交通機関のない人への移動の保障
(1)計画の策定
(1)地域福祉交通計画を総合的な視点から位置づける
地域福祉交通計画を総合的な視点から位置づけるにあたっては、高齢者・障害者に限らず、移動制約者全般の需要に対し、地域福祉交通サービスの様々な交通手段を適切に組み合わせて効率的に提供することにより、必要な移動を保障していくという視点を持つことが必要である。
(2)行政、関係者が協調した地域福祉交通の統括的計画づくり
より利便性の高い地域福祉交通サービス実現のためには、個々の運行システムの検討ではなく、地域福祉の拡充、輸送需要の把握等の観点から、生活交通に関するマスタープラン的な計画づくり、事業推進に向けた関係組織の構築を行う必要性は高い。地域福祉交通の計画にあたっては、既存の総合計画、都市計画、交通マスタープラン等上位計画との整合を図ることが重要である。
(3)高齢者・障害者の利用できる公共交通と、地域福祉交通サービスの整備促進
例えば、コミュニティバスの利用可能性をどれだけ高齢者・障害者に広げるか、フレキシブルな運行をしているバスの利用をどれだけ一般の人に広げるか、車いすごと乗車できるノンステップなタクシー車両の普及を図る等の視点から、横断的に交通システムを設計する手法を確立することがサービスの整備促進のために重要である。ただし、公共交通には高齢者・障害者へのサービス提供が困難な部分が残されており、地域福祉交通サービスの整備促進は必要である。
地域福祉交通サービスの整備促進に際しては、1人あたりの交通サービスに対するコストの節減からも、限られた人だけの特別な交通サービスから、利用者便益が大きく、運行コストが低廉にできる交通システムとして、リアルタイムの予約で利用でき、ドア・ツー・ドアサービスに近いフレキシブルな運行をするバス等の交通サービスへ、利用者をシフトすることは重要である。一方、需要の少ない過疎地域等では、乗合バスを限られた便数で運行するより、必要に応じてドア・ツー・ドアの運行ができるSTSを運行する方が効率的な場合もある。
(4)過疎地域等交通空白地域における地域福祉交通の充実
過疎地域では、交通事業が営業として成り立つための需要規模を持たないことから、バス路線の廃止等交通サービスが著しく欠如していることが多く、行政がイニシアチブをとり地域福祉交通について検討を進めることの必要性は高い。
(2)調査の実施
(1)問題の所在発見のための調査の実施
調査方針の検討に際して、高齢者・障害者へのインタビュー調査、移送サービス団体、タクシー事業者へのヒアリング調査等を実施し、高齢者・障害者の移動に関する問題点を抽出することは重要である。
(2)高齢者・障害者の外出実態、ニーズ把握のための調査の実施
高齢者・障害者の利用ニーズに対する十分な供給が足りない現状、潜在需要を把握するために、PT調査または高齢者・障害者対象の1週間程度の外出行動把握のためのAD調査等を実施し、そのデータを蓄積する必要がある。
(3)計画と連携したシステムづくり
(1)高齢者・障害者施設計画との連携
地域福祉交通施策においても、例えば、公共施設、福祉施設を集中的に設置し、当該エリアへのアクセスとしての公共交通を整備すること、集中的に発生する需要に対応してSTSの計画的配車をすることなどが考えられる。
(2)IT技術の活用
運行管理、予約の受付、利用者の身体能力に関するデータの登録等を統括したシステムの導入は、利用者1人あたりの運行コストの低廉化、異分野の運行サービスの一括管理、情報の一元化等の面でもメリットがある。
例えば、SAMPOプロジェクトの一地域であるハッセルト市(ベルギー)では、フレキシブルな運行をするバスとSTSのIT化された共通の予約センターがある。
(4)計画支援のための対応
(1)予算の獲得と効率的運用
福祉施設整備事業に関する予算、コミュニティバスに偏った公共交通に対する予算等、予算の使途が分離されている状況が見てとれるので、地域福祉交通を総合的に整備する予算枠を確保する必要がある。例えば、2つの財源で同じ地域で別々のサービスを提供しているような状況では、財源、サービスを一本化し、配車の工夫等により、利用者の利便性を維持することも考えられる。
一方、利用券の購入等、サービスの受益者となる利用者が運行費用を一部負担することも考えられる。
(2)関係者の協働(地域協議会)
行政機関、利用者、バス、タクシー事業者、NPO等ボランティア団体等サービス供給者が連携し、資金面や人材面で効率的な事業推進を図ること、事業推進に向けて関係者で構成される地域協議会での検討を経て関係組織を構築していくこと等が重要である。計画を踏まえたモデル実験の実施等は、システムの検証と関係組織の構築の両面で有効な手段といえる。
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