2)外出交通量の推計
設定した対象者数の推計結果をもとに、その対象者の外出交通量を推計する。外出交通量は、下式のようにすべての対象者の外出頻度(トリップ)の総和である。
<外出交通量の推計式>
ア. 前提:外出回数は、外出1回当たり往復トリップ(2トリップ)と見なす。
イ. 計算式:Ts = Us × Ti
Ts:1日の総トリップ数(トリップ/日)
Us:外出時の介助が必要な者(対象者数)
Ti:1人当たり1日の平均トリップ数(トリップ/日/人)
注)すべての対象者に一定の外出頻度を保障すると仮定し、総外出交通量を求める方法もある。
参考:既存調査結果による高齢者・障害者の外出時における介助の状況
高齢者・障害者の外出時における「歩行能力や公共交通利用時における介助の必要有無」に関する複数調査結果から「公共交通機関を利用できない人」の比率を比較検討したものが表4-8である。
表4-8 障害者、高齢者に占める公共交通機関を1人で利用できる人の比率
(既存調査による)
注) |
知的・精神障害者については、既存調査がない。太枠調査についての特徴は、表4-9を参照。 |
表4-9 既存調査データの特徴
項目 |
調査名(地域) |
調査主体 |
年次 |
対象者の範囲 |
サンプル数 |
設問内容 |
留意点 |
身体障害者 |
身体障害者実態調査結果(全国におけるアンケート) |
厚生労働省 |
平成13年 |
18歳以上の在宅身体障害者 |
4,517人 |
・外出時に介助の必要有無 |
・サンプル調査 ・必ずしも歩行能力を反映していない |
高齢者 |
高齢者の生活実態(東京都におけるアンケート) |
東京都 |
平成12年度 |
65歳以上の高齢者 |
5,086人 |
・歩行能力を5段階で質問 ・面接調査 |
・サンプル調査 ・選択肢があいまいで答えにくい |
|
需要(トリップ数)のより正確な推計には、次のデータを用いることが必要である。
・高齢者・障害者の外出実態を把握する属性別、目的別トリップ長データ
・潜在需要を把握するための外出ニーズ調査結果
3)供給量の推計
需要に対応した車両を一度に確保するには限界があり、既存運行主体の保有するセダン型車両の活用、社会福祉協議会保有車両の土日にNPO等ボランティアへ貸出し、スクールバス車両の日中での活用等既存車両の活用、新車購入の場合も、車両購入補助制度を活用しながら現状の予算を拡充して増車をする等が考えられる。小規模なサービスの提供と並行して、地域全体の需要推計を行う時間と予算も確保する。
参考:仮にドア・ツー・ドア型STSで100%対応すると仮定した推計
下式のように対象者の外出交通量に対し、必要な供給量として仮にドア・ツー・ドア型STSで100%対応すると仮定して推計する方法が考えられる。しかし、前述の基本方針で述べたように、STS対象者も利用できる公共交通の整備促進とあわせた検討が必要である。
Cs = Ts / Tc
Cs:必要な供給量(車両台数)
Ts:1日の総トリップ数(トリップ/日)
Tc:1台当たり1日の供給可能トリップ数(トリップ/日/台)
注)アンケート回答者の外出交通量には、バス等の公共交通、自家用車利用者の外出交通量も含まれる。
供給量の推計において、留意すべき点を以下に示す。
・供給量は、効率的な配車の実施により左右される。
・試算結果から示した車両台数は、「1台当たり1日の供給可能トリップ数(Tc)」によってその規模が主に決まる。Tcの条件設定次第で、車両台数の規模は流動的となる。例えば、4トリップより効率を上げて1.5倍、更に相乗り等を適用して現状の2倍に効率を上げることも考えられる。
需要動向分析に参考となる既存調査と新たに必要な調査の概要を表4-10、4-11に示す。
表4-10 需要動向分析で参考となる既存調査
調査対象 |
調査名(地域) |
調査主体 |
年次 |
調査方法 |
対象者の範囲 |
サンプル数 |
調査内容 |
留意点 |
身体障害者 |
身体障害者実態調査結果(全国) |
厚生労働省 |
平成13年 |
全国におけるアンケート |
18歳以上の在宅身体障害者(全国) |
4,517人 |
・障害・等級別外出頻度を選択式で質問 |
・近所への外出も含まれる ・1回の外出に2トリップとは限らない |
精神障害者 |
患者調査(全国) |
厚生労働省 |
平成11年 |
全国におけるアンケート |
- |
- |
- |
- |
高齢者 |
日常生活における外出行動に関する調査 |
町田市 |
平成12年 |
アンケート |
65歳以上の高齢者(町田駅・本町田駅周辺居住者) |
643人 |
・外出頻度を選択式で質問 |
・サンプル数が少ない ・対象地域が限定されている ・近所への外出も含まれる ・1回の外出に2トリップとは限らない |
一般世帯 |
国勢調査(全国) |
総務省統計局 |
平成12年 |
アンケート |
一般世帯 |
常住人口(全世帯) |
・個人属性、居住、就業、通学状況、通勤・通学交通手段、住宅 等 |
・5年毎に実施 |
10歳以上の人 |
社会生活基本調査(全国) |
総務省統計局 |
平成13年 |
アンケート |
10歳以上(全国6,400調査区) |
77,000世帯 |
・生活時間の配分、自由時間活動 |
・5年毎に実施 |
一般世帯 |
日本人の生活時間−NHK国民生活時間調査(全国) |
NHK放送文化研究所 |
平成12年 |
アンケート |
一般世帯 |
|
・地域別・年代別の在宅率や行動パターン 等 |
・5年毎に実施 |
|
注)知的障害者については、日本知的障害者福祉協会が施設への通所(園)件数等を調査しているが、外出行動を定量的に把握した既存調査はない。
表4-11 計画対象地域で新たに必要な調査
調査名 (地域) |
調査方法 |
対象者の範囲 |
サンプル数 |
調査内容 |
特徴 |
留意点 |
PT調査 |
アンケート(訪問配布訪問回収) |
5歳以上 |
無作為 抽出 |
平日1日の交通行動をトリップ中心で記録 |
1トリップごとに代表交通手段だけを記入する |
記入者に負担がやや多い。 端末交通手段の利用実態が把握できない |
AD調査 |
アンケート |
- |
無作為 |
PT調査内容に類似するが、時間中心の生活記録 |
端末交通手段の利用実態も把握できる |
記入者に負担が多く、記入漏れとなりやすい設問が多い。 |
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※PT調査(パーソン・トリップ調査)
パーソントリップ調査は、一定の調査対象地域内において「人の動き」(パーソントリップ)を調べる調査である。すなわち、交通の根源は「人の動き」にある点に着目し、交通の起点(出発地:Origin)および終点(到着地:Destination)、交通目的、利用交通手段等を「人の動き」を通して明らかにするもので、交通に関する実態調査としては最も基本的な調査の1つである。
パーソントリップ調査は、東京都市圏では、昭和43年に第1回のパーソントリップ調査が実施され、また昭和53年には第2回、昭和63年には第3回、平成10年に第4回が実施され、この調査データは各方面で活用されてきている。
「トリップ(Trip)」とは、人または車両がある目的(例えば、通勤、買物等)を持って起点から終点へ移動する場合に、その一方向の移動を表す概念であり、同時にその移動を定量的に表現する際の単位である。すなわち、パーソントリップは空間的な人の移動を表す概念であり、またその計測単位である。
出典:「東京都市圏パーソントリップ調査」より
※AD調査(アクティビティ・ダイアリー調査:Activity Diary 活動日誌)
トリップではなく、人々の活動に注目し、1日の活動(時間利用、スケジューリング、トリップ・チェイニング等)を時間軸で順番に書き込んでもらう方式の調査である。人間行動の特性を理解することにより交通需要を把握する調査である。
トリップを断続的に思い出すよりも時間の連続した活動を思い出す方が容易であり、従来の方式では見逃されていたトリップ(通勤・通学以外のトリップ)が補足できるという利点を有する。しかしながら、この活動日誌は、時間を追って全て記入するので回答者にとって負担が大きく、大規模な調査ではなかなか採用しにくい欠点を有する。
NHK生活時間調査(活動日誌)と従来のパーソントリップ調査(交通調査)の方式を組み合わせた調査票で、回答者には負担を最小限にしながら交通行動をもれなく記入できるような工夫が必要である(図4-8)。
図4-8 活動調査の記入例の一部
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