3.2.3 運行実態と費用の分析
(1)1トリップあたり運行コストと年間運行件数の関係
1トリップあたり運行コストとは、年間総支出を年間トリップ数で除したものであり、移送サービス団体の運行コストを比較する際に、運行実態を最も反映した指標である。図3-13に、1トリップあたり運行コストと年間運行件数の関係を示した。
図3-13 1トリップあたり運行コストと年間運行件数の関係
1トリップあたり運行コストは、1997年に実施した既往調査注2の結果では平均4,379円(最小値1,255円〜最大値12,000円)で、団体間のばらつきが大きい。NPO等ボランティア団体の平均が5,368円、社会福祉協議会が3,314円であり、NPO等ボランティア団体の方が運行コストは高い。社会福祉協議会の方が運行コストの低い理由は、運行コストが総予算に組み込まれ、内部化されているためであり、移送サービス事業のみの運行費用を抽出することは難しい。また、事務所・駐車場は自治体から無償貸与、車両は自治体所有のメンテナンス費用はかからない場合も多く、総コストが低くなることが多い。
今回の対象団体の1トリップあたり運行コストの分布をみても、(6)の2,487円から(8)の12,414円まで団体間の差が大きい。全体分布を見ると、運行件数の多い団体ほど、1トリップあたりコストは安くなる。その中で、年間運行件数が約2,000〜3,000トリップの実績のある団体((2)(4)(6))の1トリップあたり運行コストは相対的に低く、運行効率は比較的良い。一方、運行件数が1,000回未満の団体((8))は、1トリップあたりコストが極端に高い。
(2)車両台数と年間総支出
図3-14は、各団体が保有している車両台数(カッコ内)と1台あたり年間運行件数を示したものである。団体4は1台の車両で、年間2,377件(片道)運行している。
図3-14 各団体別車両保有台数と1台あたり運行件数(片道)
(3)単位支出(100万円)あたりトリップ数の比較
単位支出(100万円)を1トリップ当たり運行コストで除し、100万円でどれだけ運行しているかを示す指標であり、団体間の運営効率の差を比較できる。
既往調査注3の結果では、平均値でボランティア団体が281.7回、社会福祉協議会が400.1回となっている。今回の対象団体では、200回未満が3団体、約200回が1団体、300回以上が4団体である(図3-15)。
図3-15 単位支出あたり各団体別運行件数(片道)
注)カッコ内は各団体が保有している車両台数を示す。 |
(4)1キロあたり運行コストと年間運行件数の関係
1トリップあたり運行コストと同様に、運行効率性を分かりやすく表す指標として、総支出を総走行距離で除して求める1キロあたり運行コストと年間運行件数の関係を図3-16に示した。
走行距離は、運行件数にほぼ比例することから、1トリップあたり運行コストと年間運行件数の関係を示すグラフとほぼ同じ傾向の分布となった。近似線より上にプロットされた団体は、他団体に比べて運行効率性がやや低い。
図3-16 1キロあたり運行コストと年間運行件数の関係
3.3 第3章のまとめ
(1)移送サービス団体への意識調査結果
移送サービス団体アンケート調査から以下のことがわかった。
(1)病院送迎の割合
「病院送迎率80%以上」の団体が約6割を占める。
(2)運営方式
「単独運営」が63.4%と最も多く、「自治体からの受託」は34.9%である。
団体特性別にみると、社会福祉協議会では「自治体からの受託」が、NPO等ボランティア団体では「単独運営」が他層に比べて高い。
(3)運営上に困っていること
移送サービスの運営上、特に困っていることは、「人材の確保」が56.0%と最も多く、以下、「需要への対応(46.2%)」「車両の維持(38.5%)」「運営資金の確保(32.6%)」「運行安全性(事故、保険等)(29.7%)」が多い。
(4)条件が整えば賛同する取り組み
利用対象者を、身体的、経済的に困難な利用者を優先させることについて、サービス供給者の約6割が賛同している(図3-8)。
図3-8 今後の取り組みへの意識(再掲)
(2)移送サービス団体の運営実態の分析
東京ハンディキャブ連絡会が2002年3月に発行した「東京都内移送サービス実施団体ガイドブック」のデータを用いて、分析を行った。
(1)収入
各運行団体ともに収入の多くを助成金から賄っている(ボランティアの場合、31%〜82%)。それ以外はわずかな料金収入、会費、寄付、バザーなどの事業により運営を支えていることが多い。市区町村からの補助金や、東京都からの助成金の割合が非常に高い。
(2)支出
人件費はどの団体においても総支出に占める割合が大きい。
(3)運行実態
1トリップあたり運行コスト(総支出を年間トリップ数で除したもの)と1キロあたり運行コスト(総支出を総走行距離で除したもの)を年間運行件数とそれぞれ比較した結果、各運行コストは、ほぼ同じ傾向の分布となり、年間運行件数が多いほど各単位あたり運行コストは低くなる。
注2 秋山哲男「高齢者・障害者のスペシャルトランスポートサービス」東京都立大学(1998.3)67p.
注3 秋山哲男「高齢者・障害者のスペシャルトランスポートサービス」東京都立大学(1998.3)72p.
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