2.7 第2章のまとめ
2.7.1 サービス供給者のモビリティ保障の工夫
サービス供給の工夫された事例を整理した。なお、本調査のヒアリング対象は一部の事例であるので、必要に応じてヒアリング対象としていない事例や他にも一般的に行われている取り組みを併記した。
(1)自治体の取り組み
(福祉タクシー・移送サービス共通の利用券)
・多くの利用者からの要望により、福祉タクシーと移送サービスを共通に利用できる「福祉タクシー・移送サービス利用券」を導入している自治体がある。(青森市、八戸市等)
(異分野サービスの統合)
・小学校や中学校の統廃合に伴い運行を開始したスクールバスと、以前から運行していた通院バスを一般の人も利用できる町民バスとして統合した。廃止代替路線を中心に運行。(青森県六戸町、高知県大月町等)
(システムの効率化)
・地域のモビリティ確保対策として交通事業者と協力し、空車タクシーの活用と相乗り等新しい運行形態を導入した例もある。(愛知県江南市・いこまいCAR、福島県小高町・おだかe-まちタクシー)
(コミュニティバスの導入時に地域のバス路線を再編)
・三郷市では、規制緩和に向けて地域住民の利便性向上と地域の交流活性化を図るため、鉄道駅を中心とする生活圏を形成する各地域(コミュニティ)単位に、平成14年度より新たな地域コミュニティバス路線(6路線)の運行を開始し、これに合わせたバス路線の再編を行った。
(廃止代替バスの運行)
・乗合バス事業者が、不採算等の理由からバス路線を廃止した場合に、生活交通確保の観点から、地方自治体等がバス運行を行っている。(青森県今別町等多数)
(病院への送迎シャトルバスの運行)
・山形県南陽市では、平成12年11月から置賜広域病院(公立置賜総合病院)が設立され、近隣地域(東置賜地域:米沢市、南陽市、川西町等3市5町)における基幹病院として営業されることに伴い、既存の南陽市の公立病院は、サテライト病院施設として機能が縮小された。そのため、急性期患者等は10km離れた置賜広域病院(川西町に位置)まで通う必要がある。これを受けて、南陽市では市立病院から置賜広域病院まで直通の患者専用シャトルバスを運行している。病院送迎シャトルバスは、入札によりバス事業者を選定し、委託運行する。運賃は無料で、運行経費の年間約500万円は、福祉予算から支出している。バスの運行は、平日(開院日)のみで運行本数は一日5往復である。患者送迎シャトルバスの一便あたり利用者数は平均約5人で、詳しい運行時間帯は以下のとおり。
・市立病院発(往き):8時30分、9時30分、10時30分、13時30分、14時30分(5便)
・置賜総合病院発(帰り):10時、11時、12時、14時、15時(5便)
(移送サービスの運行)
・東京都町田市は、昭和47年(1972年)わが国で初めて車いすのままで乗車できるリフト付きバス「やまゆり号」の運行を開始した。「やまゆり号」は、わが国唯一自治体が直営で運行する移送サービスである。利用料金が無料で、平日の8時30分から午後5時まで、通院、買物、娯楽等の利用目的と市内に利用範囲が限定されており、車いす使用者等重度の人の送迎を中心としている。
(2)サービス供給者(運営主体)の取り組み
(1)NPO等ボランティア等
(家事援助と移送の統合的サービス)
・通院等移送サービスのほか、家事援助や地域におけるコミュニティセンターとしての機能を担っている等の、総合的な介助支援サービスを提供する事業者もある。(岐阜県高山市NPO法人あんきや等)
(安全対策)
・NPO等ボランティア団体の連絡会、協議会が主催する運転、介助の安全対策セミナーの開催、各ボランティア団体においても、自ら作成した「運転業務ガイドブック」を活用し、事故防止に努めている事例もある。(多数の団体、連絡会、協議会等で実施。例:岐阜県高山市NPO法人あんきや)
(2)タクシー事業者
(タクシーとバスの協働)
・タクシー会社がバス事業を受託している事例が増えた。(青森県六戸町つばめタクシー、群馬県太田市等)青森県のように、交通計画の指針策定時に、自治体からタクシー会社への委託について明文化している事例もある。
(家事援助と移送の総合的サービス)
・移送以外に、在宅介護の分野や買物など総合的な介助サービスを提供する事業者もある。(名古屋市つばめあんしんネット21、高松市常盤タクシー等多数)
(乗合タクシー)
・乗車定員が10人以下の車両を使用して、路線バスと同様な乗合運送を行う事例がみられる。地域によって、次のような運行目的がある。
都市型:タクシーの機動性を生かした交通空白地帯及び深夜・早朝の運行
過疎型:生活路線の確保、廃止代替輸送手段
観光型:マイカー規制の代替手段
2.7.2 現状サービスの課題
サービス供給の工夫された事例が増える一方、多くの課題も残されており、地域別、主体別に課題を整理した。これらの課題を取り込み、今後のサービス供給の参考とすることが望まれる。
(1)地域特性別サービスの課題
都市部(都心、郊外)と過疎地域に分けてサービスの課題を表2-41に整理した。
表2-41 地域特性別サービスの課題
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サービスの課題 |
都市部 |
交通が 便利な地域 (都心) |
一見、コミュニティバス等の運行で、福祉交通サービスが十分なように見えるが、高齢者、障害者の需要に応えていない。 |
交通不便地域 (郊外) |
一見、コミュニティバス等の運行で、福祉交通サービスが十分なように見えるが、高齢者、障害者の需要に応えていない。 郊外では供給が不足し、外出ニーズが潜在化している。例えば、需要に対して供給が足りないため、できるだけ重度の障害を持つ人を優先的に利用してもらっている事例もある。 |
過疎地域 |
過疎地域では、軽度の障害者等でも公共交通機関の利用もままならない状況にある。また、交通事業が営業として成り立つための需要規模を持たないことから、交通サービスが著しく欠如していることが多く、行政等がイニシアチブをとり福祉交通について検討を進めることの必要性が高く、バスのない町村の行政がモビリティ確保に対して真剣に取り組んでいる事例が多い。30〜50km離れた山間部の過疎地域から通院する利用者も多い。 |
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(2)運行主体別の課題
自治体、移送サービス運行団体(社会福祉協議会、NPO等ボランティア団体)、タクシー事業者等に分けて、それぞれの課題を表2-42-1、2に整理した。
表2-42-1 運行主体別課題
表2-42-2 運行主体別課題
運行主体 |
課題 |
タクシー事業者 |
(介護タクシー) ・平成15年4月1日の介護保険制度改定以降、介護タクシーは従来の「身体介護(30分2,100円)」報酬項目では給付の対象とならず、新設の「乗降介助(1回につき1,000円)」が対象となるため、介護タクシー利用者が減少傾向にある。新設された「乗降介助」による利用は、対前年度と比較すると少ないが、4月から利用者は少しずつ増えている。 (経営の多角化) ・福祉交通分野でより多くのビジネスチャンスを生みだす試みが必要。 |
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2.7.3 高齢者・障害者等の想定される移動パターンの一例
高齢者は視覚等の五感の機能が全般的に低下しているが、車いす使用者から元気な人まで、身体状況には個人差がある。歩行能力に問題はない人でも、事例2のように、定期的に人工透析のできる病院までの通院が必要な高齢者が存在する。
障害者は、障害の種類と程度によって、全面的な介助、ドア・ツー・ドアの移動が必要かどうかに分かれる。特に肢体不自由者で、車いす使用者の場合は、使用する車いすの大きさ等により、車いすを使用したまま乗車できるSTS、ノンステップバス等乗車できる車両が限られている。高齢者・障害者以外でも交通不便地域で自家用車による移動手段のない人もいる(事例4)。
事例1 利用状況:電動車いす使用者の通院
利用者の特性: 電動車いすを使用し、病院での薬の受取等に介助が必要な人。ひとり暮らしで、家族以外の介助者が必要。
自宅 ⇒ (乗車まで付き添い) ⇒車いすを使用したまま乗車できるSTSで移動⇒ 病院 ⇒ (受付まで付き添い)病院の職員が介助(出口から乗車まで付き添い) ⇒(車いすを使用したまま乗車できるSTSで移動) ⇒(自宅まで付き添い)⇒ 自宅
注)車いすを使用したまま乗車できるSTSは、ほとんどの福祉タクシー、移送サービス等で運行されている。
事例2 利用状況:路線バスの運行がない地域での通院
利用者の特性: 定期的に人工透析のできる病院までの通院が必要な高齢者。介助なしで歩行ができる人。
自宅 ⇒ (バス停まで徒歩) ⇒(自治体がタクシー会社に運行委託している福祉バスで移動) ⇒ 病院 ⇒(自治体がタクシー会社に運行委託している福祉バスで移動) ⇒(バス停から徒歩) ⇒ 自宅
事例3 利用状況:セダン車両で移動できる高齢者の買物
利用者の特性: 100〜200m程度なら歩ける人。居住地域にノンステップバスの運行はなく、家族は自家用車を持っていない。
自宅 ⇒ (乗車までタクシードライバーが付き添い) ⇒(自治体発行のタクシー券を使ってタクシーで移動) ⇒ スーパー、商店街等 ⇒(自治体発行のタクシー券を使ってタクシーで移動) ⇒ (自宅までタクシードライバーが付き添い)⇒ 自宅
注)タクシードライバーは、ホームヘルパー資格を持っている。
事例4 利用状況:公共交通機関のない地域で通学する中学生
利用者の特性: 中学校統合により、自転車の利用が困難な遠距離通学が必要になった人。
自宅 ⇒ (バス停まで徒歩) ⇒(自治体がバス会社に運行委託しているスクールバスで移動) ⇒ 学校 ⇒(自治体がバス会社に運行委託しているスクールバスで移動) ⇒(バス停から徒歩) ⇒ 自宅
事例5 利用状況:手動車いす使用者の通勤
利用者の特性: 車いすを使用して、ひとりで通勤している人。居住地域にノンステップバスの運行はなく、自家用車は持っていない。
自宅 ⇒ (乗車まで付き添い) ⇒(自治体がタクシー会社に運行委託している福祉タクシーで移動) ⇒ 勤務先 ⇒(自治体がタクシー会社に運行委託している福祉タクシーで移動) ⇒ (自宅まで付き添い)⇒ 自宅
事例6 利用状況:知的障害者が通所、授産施設等へ通勤
利用者の特性: 都市部に居住し、決まった場所へはバスでの通所が可能。
自宅 ⇒ (バス停まで徒歩) ⇒(路線バスで移動) ⇒ 通所施設 ⇒(路線バスで移動) ⇒(バス停から徒歩) ⇒ 自宅
事例7 利用状況:高齢者がコミュニティバスを使って、昼間に買物に出かける
利用者の特性: 元気な高齢者で、バスのダイヤを見て外出する。
自宅 ⇒ (バス停まで徒歩) ⇒(コミュニティバスで移動) ⇒ 通所施設 ⇒(コミュニティバスで移動) ⇒(バス停から徒歩) ⇒ 自宅
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