(3)DRT等の新しい交通システム
DRT(Demand Responsive Transport:需要応答型交通)とは、個別化された交通需要に対して、デマンド型で利用者の利便性を高めた交通システムである。比較的小型の車両(定員4〜20名)を用い、柔軟な経路と時刻表の作成、様々な運行形態を持っており、利用者の利便性を高めた交通システムである。
EUのSAMPO(サンポ:Systems for Advanced Management of Public Transport Operations)の定義では、個別輸送機関(タクシー)と既存の乗合輸送機関(バス)との中間的な形態の公共交通システムを指す。
DRTに関する国内外の事例を以下に整理する。
1)海外事例
(1)デマンド・レスポンシブ・システム(ベルギー、ハッセルト市)
1992年運行を開始し、基本ルートを持ち、電話予約により迂回する運行方法を取っている。ドア・ツー・ドアではないが、予約は1時間前までにすればよく、誤差は5分程度である。障害のある人に対しては、ドライバーが玄関までの迂回を行う。
DRS(Demand Responsive System:デマンド・レスポンシブ・システム)の基本的な停留所は400m間隔で設置されており、州政府基準の、最寄りバス停までの許容距離が750m以内(但し、図上の直線距離)に適合する。
(2)パーソナルバス(イタリア、フィレンツェ市)
「パーソナルバス」サービスは、平日の朝6時半から夜7時半まで運行されている電話呼び出し式のバスサービスであり、1997年から運行開始された。
Campi Bisenzio地区内(地区内人口4万人)におよそ200ヵ所の停留所を設け、利用30分前までに電話をしてリクエストする方式。一年前から乗車5分前予約を導入し、バスが運行中であれば待たずに乗れることが多い。同地区は全人口に占める高齢者比率が30%を超える。
車両は現在小型バス8台で、申し込みの電話では乗車停留所と降車停留所を知らせ、希望の利用時間を知らせる。オペレーターは利用者に予想される範囲で正確な乗降時刻を伝える。予約電話はフリーダイアルで料金はかからない。
(3)フレックス・ルート(スウェーデン、イェーテボリ市)
フレックス・ルートは、経済的な負担の多い高齢者・障害者専用のSTSの需要を下げることと、一般のバスに乗れない高齢者の利用を目的として、1996年スウェーデンのイェーテボリ市で開発されたタクシーとバスの中間的な交通システムである。15分前までの予約を基に、予約のあるMP(ミーティングポイント)だけを起点から終点まで自由なルートで結ぶ運行形態である。
2)国内事例
(1)おだかe-まちタクシー(福島県小高町)
国土交通省の平成13年度「交通不便者のシビルミニマム確保のためのデマンド交通システムのモデル実験事業」に採択され、最新のITを活用したデマンド型乗合タクシーである。福島県小高町の商工会連合会がタクシー事業者から車両を借り上げて運行している。利用者は電話で「まち情報センター」へ利用の30分前までに乗車申込をすると、自宅から目的地までのドア・ツー・ドアの送迎サービスを100円(町中心部のまちなか循環線)または300円(郊外部の東部、西部線)の均一料金で利用できる。
(2)鷹巣町お出迎えバス(秋田県鷹巣町)
スウェーデンのフレックス・ルートの運行目的、方法に準じて設計され、鷹巣町、国土交通省東北整備局、東京都立大学、東京大学により、平成14年(2002年)10月、平成15年(2003年)2月に2週間ずつ実験運行されたバスである。運行特徴は、起終点がありミーティングポイント間を自由に結び運行する。利用者は1時間前まで予約センターへ電話、ファックス、メールで予約し、利用できる。利用モニターは主に高齢者が中心であり、秋田県鷹巣町で行われた。
(3)中村まちバス(高知県中村市)
高知県中村市の2〜3キロ四方の地域を対象に、従来からあったバス停に加え新たにバス停を設置し、電話や施設内の端末機器で予約すると、バスの到着予定時刻を電話及び端末で知ることのできるバス運行システムである。予約のあるバス停間を運行経路上に限り自由なルートで運行する。当初はITSの実験として実施されたが、利用者の評価も高く現在も運行を継続している。
注)ITS(高度道路交通システム:Intelligent Transport Systems)とは、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の向上等を目的に、最先端の情報通信技術等を用いて、人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムの総称。
(4)コミュニティバス
コミュニティバスは、高齢者・障害者等への対応を含めて既存のバスサービスではカバーできない地区や施設を連絡する乗合バスである。このため、地方自治体が主導して地域生活の生活、今後のまちづくりを見据えた上で、コミュニティの形成に寄与し、地域住民に親しまれていく交通システムである。
(1)ハチ公バス(東京都渋谷区)
コミュニティバス導入検討委員会を設置し、調査・資料収集を行い、基本方針とエリア設定を検討した上、平成15年3月から運行を開始した。車両は19人乗りの小型バスで、可愛い車両デザインで親しみやすく利用者から好評である。運行時間は8:00〜19:00で、約20分間隔、運賃は100円均一である。路線は区役所を起終点とする一方向循環路線で、渋谷駅・恵比寿駅・代官山駅・恵比寿ガーデンプレイス等を通る。路線の全長は11.5kmで1循環に約1時間かかる。高齢者・障害者をはじめとする全ての人の移動機会の向上を目指して運行されており、特に代官山〜渋谷駅は若年層の利用も多い。
(2)バス路線の再編及び新設の取り組み(埼玉県三郷市)
三郷市が自ら交通計画を策定し、交通事業者との協議を通じて既存路線バスの再編成や路線の新設等を実施し、交通不便地域の解消に取り組んでいる。停留所間隔が短いこと、自治体が主体的に計画した点等は一般的な「コミュニティバス」と共通であるが、自治体が住民アンケート調査等で需要動向分析を行った上で、運行事業者を募集した。三郷市はバス事業者への赤字補填等を行っていないが、バス事業者と運行時間帯の拡大(5時〜23時台)や路線の定期的見直し等の調整を行っている。
(3)龍・ゆうバス(茨城県龍ヶ崎市)
都市交通マスタープランを策定し、在来バスとの役割分担を明示した。福祉施設送迎バスを廃止したうえ、施設利用者も利用できるコミュニティバスを導入した。運賃体系が、導入前は送迎バス(無料)や路線バス(170円〜430円)で異なったが、コミュニティバスの導入後、コミュニティバス路線では100円、他路線では市内全線200円均一となり、利用者から評判も良い。龍ヶ崎市のコミュニティバスは、市内の3つの地区を結ぶ循環ルートである「龍・ゆうバス」のほかに、3路線(Aルート、Bルート、Cルート)がある。
(4)いこまいCAR(愛知県江南市)
江南市は、タクシー事業者等と協議し、日中にフル稼働していない空車タクシー車両を活用して、地域のモビリティ確保に取り組んだ事例として、コミュニティバスの運行方法のひとつといえる。また、バスを運行するほどの需要に満たない地域におけるタクシー車両等を活用した事例である。
(5)廃止代替バス
廃止代替バスは、乗合バス事業者が不採算等の理由からバス路線を廃止した場合に、生活交通確保の観点から地方自治体等がバス運行を行うものである。
・今別町営巡回バス(青森県今別町)
青森市営バス路線の廃止後、既存の患者輸送バスとスクールバスを統合し、町営巡回バスを運行している事例である。町営巡回バスの導入により、以前の患者輸送バス利用者やスクールバスを利用した学生以外にも一般の人が利用可能となった。小〜高校生、70歳以上の高齢者、通院目的の乗客は無料であるが、その他の乗客は1乗車につき、200円の運賃を払う。運行頻度は、路線方向によって1日5〜8便の頻度で運行しており、青森市営バスが運行した時よりも移動ニーズに対応できている。
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