日本財団 図書館


第2章 地域福祉交通サービスの実態把握
 本章では、下記の視点から、自治体、事業者等による移動保障の取り組み事例を整理した。特に積雪地域における交通サービスの現状を把握するために、青森市、八戸市、六戸町等を重点調査地域とし、これらの地域では複数のサービス提供主体へヒアリング調査を行った。自治体ヒアリング調査の際には、直接の交通サービス提供がない場合も、高齢者・障害者への福祉施策、例えば介護保険の利用状況や福祉タクシー券の配布状況等を把握した。
 
地域特性:都市部、地方部又は人口密度の高い地域、低い地域
気候、風土:積雪地、傾斜地等
計画主体:自治体、交通事業者、NPO等ボランティア団体、社会福祉協議会
サービス提供、運行主体:自治体、交通事業者、NPO等ボランティア団体、社会福祉協議会
 
2.1 実態把握調査の概要
(1)地方行政のSTS関連交通政策の現状
 積雪地である青森県を中心に高齢者・障害者関連の交通政策の現状を整理した。
 青森県では、県単独の障害者交通関連の市町村補助制度を設けた。青森市・八戸市では、移送サービス利用の際に福祉タクシー券を使えるように工夫した。六戸町では既存のスクールバスと通院バスを町民バスに統合し、運行している(表2-1)。
 
表2-1 ヒアリング対象地方行政のSTS関連の交通政策
  STS関連交通政策 工夫した点等
青森県 ・バスに対する県単独の補助制度
・需給調整規制廃止後の廃止代替バスを市町村自らが保有、運行
・交通事業者の低床バスの導入
・各市町村が、障害者の移動関連補助制度を、単独事業として行う。
青森市 ・福祉タクシー・移送サービス利用券の交付。
・自家用車利用者に、給油券の交付。
・高齢者・障害者に福祉乗車証の交付
・ワンステップバスの導入は11台。
・NPO法人青森リフトカーサービスが福祉タクシー券で移送サービスを利用できるように利用者の声を通して行政に働きかけた。
八戸市 ・福祉タクシー・移送サービス共通利用券の交付(青森市と同様) ・NPO移送サービスの利用者が福祉タクシー・移送サービス利用券を使用できる。
六戸町 ・スクールバスと通院バスを統合した町民バスの運行。 ・地元のタクシー事業者が町民バスの運行を受託。
 
(2)STSの運行主体別現状
 STSを運行しているNPO等ボランティア団体、社会福祉協議会、タクシー事業者等の運行主体別実態を整理した。
1)NPO等ボランティア団体
 NPO等ボランティア団体は、非営利組織が会員制などにより自宅から目的地までなどの「移送サービス」を提供しており、長年に渡ってSTSを担ってきた。個人のボランティアが組織化してNPO法人となる場合もあり、自治体の委託を受け、定期的な通院ニーズをこなす輸送力を持っている団体も多い。財政基盤は利用者からの会費と行政や市民からの補助金や寄付金等による。利用料金は利用登録者からの会費や利用料として徴収されるが、利用料金は実費程度である。
 表2-2は、ヒアリング調査の対象となったNPO等ボランティア団体の事業概要をまとめたものである。「NPO法人青森リフトカーサービス」と「NPO法人さわやかネット」では、団体間の情報交換を通じて、移送サービスを利用する際にタクシー券が使えるように行政への働きかけをした等の工夫が見られた。
 
表2-2 NPO等ボランティア団体の事業概要
団体名 事業概要 利用特徴等
NPO法人
青森リフトカーサービス
(青森市)
・車両1台(車いす対応リフト付1BOX)
・利用対象者:車いす使用者でバスやタクシーの利用が困難な人(会員資格)
・登録利用者数:40名(全員が車いす使用者)
・年中無休(24時間利用可)
・年間利用件数:1,066件
・市が交付する福祉タクシー・移送サービス利用券で、利用可能。
・10歳から40歳代の利用が多く、「通勤」目的で一番利用が多い。
NPO法人
さわやかネット
(八戸市)
・車両:3台(ストレッチャー収容1台、車いす対応1台、ワゴン1台)
・利用対象者:日常的に車いすを使用し、バスやタクシーの利用が困難な人
・登録利用者数:74名
(内、車いす使用者61名)
・利用地域の制限はない
・年中無休(24時間利用可)
・年間利用件数:2,705件
・市が交付する福祉タクシー・移送サービス利用券で、支払い可能。
・利用者の多くが要介護認定者など重度の移動困難者であり、知的障害児の養護学校への通学手段として定期的に使われている。
・「通院」目的の利用が多い(47.0%)
NPO法人
あんきや
(高山市)
・車両:3台(ストレッチャー搭載可能な1BOX、ミニバン、軽自動車)
・登録利用者数:約200〜300名(内、車いす使用者50〜60名)
・サービス提供曜日・時間:
月〜土8:00〜18:00
・年間利用件数:約5,800件
・高齢者や障害者の通院等介助支援サービスのほか、図書館や野菜の栽培等、地域に密着した情報交換の場としての役割も担う。
・「通院」が9割を占める。
・50km離れた山間部から市内まで通院する利用者もいる。
注)年間利用件数は、平成14年度実績である。
 
2)社会福祉協議会
 社会福祉協議会は、市区町村に地域の住民が主体となって福祉の関係者や団体の協力を得て地域の問題を法律や制度に縛られることなく話し合い、協力し合って自主的に福祉を高めていくことを目的とした社会福祉法人であり、主要財源は行政からの補助金や委託金のほか、会費、寄付金等である。多くの社会福祉協議会はSTSを運行している。運営を支えるのは事務スタッフと運転ボランティアが中心である。1ヵ月あたりの利用回数が制限され、利用可能な時間帯が平日の日中等に限られる団体が多い。
 表2-3にヒアリング調査を行った団体ごとの事業概要を整理した。
 
表2-3 社会福祉協議会のSTS事業概要
団体名 事業概要 利用特徴等
青森市社会福祉協議会(青森県) ・保有車両台数:2台
・登録運転ボランティア数:22名
(うち、2種免許保有者は6名)
・登録利用者数:65名(うち、高齢者は37名)
・サービス提供時間:8:30〜16:30(土日、祝日、年末、年始除く)
・利用回数制限:原則として1ヵ月2回まで(1回の利用で1時間まで)
・運行範囲:原則として市内
・年間利用件数:929件
・利用対象者は、市内居住者で日常外出の際に車いすを使用する人
・利用料が安価なので、他の移送サービス団体、タクシー事業者への影響が心配。
・利用者からは利用時間拡大の希望が寄せられている。
江南市社会福祉協議会(愛知県) ・保有車両台数:2台
・登録運転ボランティア数:23名
・登録利用者数:100名
・利用対象者:単独で移動困難な高齢者・障害者(障害者手帳保有者は24人)
・サービス提供時間:8:30〜21:30(年末、年始除く)
・利用回数制限:以前は月2回であったが、月1回に変更。
・年間利用件数:511件
・利用者の利用目的は「通院」が7割以上を占める。
・利用需要が多く、予約ができないほどの利用状況がある。
注)年間利用件数は、平成14年度実績である。
 
3)タクシー事業者
 福祉輸送の分野へ参入する事業者が増加傾向にあり、自治体の委託を受けている事業者もある。サービス形態は福祉タクシー、介護タクシー等がある。表2-4は、ヒアリング調査の対象であるタクシー事業者の運行事業の概要を整理した。
 
表2-4 タクシー事業者のSTS事業概要
事業者名 事業概要 利用特徴等
げんき交通
(青森市)
・リフト付き車両3台で運行開始
・福祉タクシー専門の会社
・運転者数:3名(冬期にはボランティア2名が加わる)
・市の発行する「福祉タクシー・移送サービス利用券」が利用可。
・1日1台当たりの平均運行回数は2〜3回(多い時:5〜6回)
・福祉タクシーの1日売上は、1台平均約5千円(4台で1ヵ月約65万円)である。
・利用目的は「通院」が多く、1回の平均利用料金は千〜2千円。(通院や買物など一度に複数の目的で利用した場合3〜5千円となる)
・冬期の降雪時には、利用者数の増加により、売上が3〜4割増加。
・社会福祉協議会の移送サービス提供時間外の利用もある。
松竹タクシー
(青森市)
・保有車両台数:回転シート付セダン車両2台、車いす対応軽自動車1台
・ホームヘルパー有資格者:5名
・登録運転者数:46名
・2階以上の住宅の居住者への介助:1,200円/30分
・利用者のうち、障害者は2名だけで、他は高齢者である。ほとんどの利用者には、介助者が同乗している。降雪時は普段より利用者が増加する。
つばめタクシー
(六戸町)
・保有車両台数:リフト付タクシー1台
・登録運転者数:15名
・月別利用者数:約50人
・町民バスを受託運行
・シャトルバス運行開始
・通院目的の高齢者がタクシーから町民バスへ一部シフトしたタクシーの売上が減少したが、バス事業の受託で収支のバランスはとれている。
つばめあんしんネット21
(名古屋市)
・移送を含めた総合的な介護・介助サービスを行う介護タクシー事業者
・保有車両台数:
スロープ付車いす対応車両3台、回転シート付車両38台、
患者搬送用ストレッチャー・リフト対応車両8台
・登録運転者数:80名
・ホームヘルパー有資格者:57名
・ガイドヘルパー:17名
・携帯電話を用いたサービス
(1)緊急通報支援サービス
(2)屋外緊急通報サービス
(3)徘徊高齢者・子ども位置探索確保サービス
・深夜の安否確認を兼ねたトイレ介助も行っている。
・通院先、疾患名等の個人情報を管理している。
・障害者の支援費制度での利用は、当初の見込みよりも多い。
・介護タクシーだけでなく、地下鉄等公共交通機関を利用する場合や入浴介助・散歩等も多い。
・介護保険、支援費制度が適用できない利用者の利用が、介護・移送サービス全体の約10〜15%を占める。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION