ばら目鋸
呼名 バラメ 横挽専用です。一番多く用いられる鋸でしょう。一般には1尺物で1尺2寸はやゝ大きいものの切断を、1尺4寸はこの工場では使う事が少なかった様です。丸太挽きなどが無かったせいかも知れません。目立は独特のもので、職人の中には軟材用と硬材用に別々の鋸を使い分ける人も居りました。之は目立の角度に依って切れ味が微妙に違うからです。標準は有った筈ですが柔材用として目を立てた鋸を堅材に使いますと、鋸がハネて刃が木材に刺りません。この鋸は各職人が相当に吟味して購入する道具です。
通し鋸
之は船大工の作業工程では、長時間連続してお付き合いをする大事なものですから当時の大工さんは、競って良い物を揃えました。表には、大、中、小と有りますが、呼名は、大鋸又は荒鋸、中刃、小鋸又は仕上、など色々です。大は9寸〜1尺、中は9寸、小は8寸という寸法と記憶します。
目立、形状は皆同様ですが、文字の如く大は荒く小は細くなり、矧合目を順次に滑らかに仕上げる訳です。鉋で仕上げた合せ目は大×2回、中×1回、小×1回(海具の場合)が上手な場合の標準でしょう。合せ目が合ってないと、大×3〜4回となって終います。この鋸は始めに申した様に極力、上等の鋸を揃えたい訳ですが、価格も2倍以上と高価ですから簡単には参りません。大げさでは有りませんが、切れ味が抜群、摺合せのスピードも倍近く出るのです。当地(函館)では新潟の品物が主であったらしく(今でも新潟は金物細工の職人が多い)中屋○○○エ門とか・・・似た様な鋸が有ります。中では庄作のものが一番と職人が申します。庄作って何だろうと見せて戴いたら中屋庄佐エ門之作と有り、他の鋸と違い作の字が一字多く、庄と作を採って庄作と申していた様です。上等の鋸は鍛造の2枚合せです。(当地にも鋸の制作所が一軒有り、作業を見てますと中々骨の折れる工作でした)この庄作の鋸の刃を見ますと刃のヤスリ目の摺り面の鋸厚の中心にハッキリと合せ目が見られます。之を使ってみますと、シャリ、シャリという音でカキ氷を削る様に鋸屑が飛び出てきます。切れ味も長く持続します。但し之も鋸目立の優劣にも有ると思います。当時工場内にはお抱えの目立屋さんが居り、大工さんは1週に2回とか順番で無料の目立が出来ます。職人の内には「ヤツは下手だからなァ・・・」と申して、目立料を払って町の目立屋へ依頼する人も有りました。職人の意地でしょうか。
職人に良い鋸と悪い鋸の一般的な見分け方を聞きましたら次の様に申しました。
1. 左手で鋸の柄込部を持って日本刀の見立の様にかざす。
2. 右手の親指と人差指の爪で鋸の先端を爪弾きする。
3. チーンと澄んだ音のするのは比較的良いもの。ボーンと鈍い音のするのは余り良くない・・・と。
会社から支給された鋸を当ってみました。(この年の我々から始めて道具を支給する様になった様です)結果は、ポロローーンと響きまして・・・。
両刃
之は、どこの家にも1丁位は有ると云えましょう。
縦挽きと横挽きが一枚になっています。板子を敷くとか、小さめの材料を扱う時に多く使います。表に有る8寸級は、小細工用で普段は余り使いません。キレイに仕上げる必要の有る小仕事用と云いましょうか。
さくり鋸
シャクリ鋸とも呼びます。木材の平面上に切込を入れる鋸です。木目に平行ばかりでは有りませんので、下図の様に縦用、横用の両刃です(市販)。船大工としては、縦目が多く使われるので通し鋸の減ったものを転用したりして使っております。又、両刃鋸を転用するものもあります。
引廻し鋸
字の如く、ぐるりと円形に引廻す・・・に用うものです。
一般には8寸で間に合いますが、大は小を兼ねる・・・で1尺はせゝこましくなく堂々と使えます。挽代が長いから早い・・・と云えましょう。打物(鍛造)で比較的高価です。工場内の和船丈に限っての使い道を考えますと。
1. 船梁などの嵌込口の切り空け
2. かんぬきの差込口の切り開け
3. 丈の目(排水口)の開口
4. 無玉・敷の丈の目削り
5. その他(舵床の孔など)
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