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海具の取付(棚の取付)
 さて話は逆となりましたが下棚の燒曲げと蒸気のむし曲げの話を致します。私の居った造船所は、ボイラーを持ってますので蒸し曲げです。小さな造船場は燒曲げで行っていた筈です。一般の職人が北洋へ出ていた期間では、老棟梁さんが付いての燒曲げでした。之は相当な経験が必要となります。
 燒曲げや蒸し曲げの棚板は、加敷構造に於ては棚板の捩れが少いのでこの様な無理な曲げ方は無く、之は加敷を用いない北海道(東北も?)丈のものかも知れません。蒸し曲げは曲げる部分の棚板内面に菅で蒸気を導き、筵を掛け、内部になるべく蒸気を留めて板を温め、木材を柔かくして曲げる方法です。
 
部の下棚を上方から見た所)
 
 朝仕事の掛り時に用意し蒸気が出て来るのが9.00時すぎですから、ひる過ぎまで暖め午后からの取付作業となり、その前に筵などは直に反対舷の棚板に用意し、之を曲げ終るのが夕方となり冬場以外は板曲げ工事は1日仕事となります。曲げ頃は棚板の下面に棟梁が手を当てて暖かみを見て決定します。前以て色々の長さの支柱や柱を用意して、次々と取替え、やり替えしながら上方へ曲げて行きます。舳の隈に棚板が嵌り込めば終了となります。登りの釘止は舳と棚板の接面摺合せを充分に行い、板が冷えてからの作業ですが、釘頭の彫りは慎重に行ったものです。元にもどらうとする木がノミの刃を立てた丈で裂ける事もあります。燒曲げは蒸気から見ますと少々気の長い作業に感じます。之の要領は、暖める部分に50m/m位の砂を敷き(ぬれ筵の上に砂を敷く方法も有る様です。)木炭・木材の小片。鉋くづなどの木屑を置いて燃やす訳です。蒸気と同じで棚板の外面への暖かみの伝わり方を手を当てて見て、曲げ頃合を計ります。熱の伝導がOKとなれば上面の大きな火を取り除き、おき火丈を残して、上げ支柱で順次棚板を持上げながら、頃合を見て全ての火を除き、一気に所定の所まで曲げ上げます。燒曲げは蒸気の様に特別な設備を必要としませんから、小さな造船所でも出来ます。但し燒曲げでは、棚板の内面には、どうしても焦げ跡が若干残るようです。(外地南方の木船でも木炭に依る燒曲げで板を曲げておりましたS-48年VIETNAM)
 
 この大事な板曲げも棚板の形を決める形受の作業が不良の場合は、うまく合せる事が出来ず大変苦労する事があります。
 
 合わなくては大変・・・という事は、型受作業という方法で色々の寸法取りの仕方で取付ける棚板が相手とキッチリと合う様にと型取りを行いますが経験不足や或いは間違いで手違いが起き、一生懸命に作業をして最后になったら余ったとか、不足だったとか・・・があります。大失敗と云えますが、稀には有るのです。余った場合は余分を切断し、后は合せて行けばよいのですが、不足の場合は鋼板の様に溶接する事は出来ませんから大変です。・・・(接手を作り、新に板を継足しなどの方法で間に合わせます。)
 
余ると云う事
不足と云う事
 
 舳の隈へ嵌込む棚板は洋型と違い先端部を開けておきます。(隙間)之は舳との摺合せに鋸を用いますが内部に幾らかの隙間がなければ作業が出来ないからです(摺合せのない洋型船の外板は内部まで密着させます。)
 
和型船
洋型船







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