日本財団 図書館


 通し鋸の摺合せを終わった時点で合せ目にノミで打込の合せマークを入れ、鎹を仮打ち止し動かぬ様にして次の作業に入ります。
 
 摺合せ作業も大変時間の掛る仕事で荒、中、仕上の3種の通し鋸の内、敷(無玉)は荒鋸と中刃鋸を使い、仕上鋸は使いません。
 摺合せ終了后は 合せる敷を一旦チェンブロックで取外し、合せ面の全般面を大きなハンマーでトントンと打ちます。平均につぶれる様にし1m/m位がつぶれる訳ですが、之は海水へ浸った時に自然と膨張し、依り水密度が高くなる訳です。通し鋸の摺合せ作業は荒鋸1回で約3m/m〜3.5m/mが削られ中刃鋸では2m/m〜2.5m/m位でしょうか、長大な材料ですが、プロの仕上り鉋面は、大きくても3m/mとは隙間が出ませんから、樫の摺矢を入れながらで2回位の摺合わせで全般が落付くものです。之が爲には9寸厚の敷の 鉋での仕上面は中心部で約1m/m程の凹面とします。9寸厚全部を摺合せる・・・なんて考えて見て下さい。大変な力を要します。之は舟大工さんの知恵でしょう。
 優秀な大工さんの場合は1回の摺合せでOKなります。1回摺合せが多くなれば、半日以上の工程差が出ます。これ等が2度、3度となれば相当なハンディとなり、行く行くは、賃金(日給)に響いたものと考えられます。・・・ですが会社側は何組も有るグループに余り差が出ては具合の悪い事も出ます。ですから優劣取まぜての人員配置として、なるべく仕上り時期の差が出ない様にしていた様です。敷は矧合せ時に釘の他にタダラと云うダボ(突起)を入れます。単材相互がタテ、ヨコに動かぬ様にする為で木材と木材同士ですから釘と木材よりは別な方向から見れば尚有効な訳です。(大工言葉では 実を入れるともいう。)
 敷の矧合せ固着の最終作業は心巨を約1,500m〜2,000mに施行するボルト(19φ〜25φ位)の取付で終ります。(たゞらは接手にも入れます)
 
ただら
 
 その昔の一般的な話ですが舟大工は家大工より賃金が高額の様です。家大工の方は「指金の規矩術」が有り、舟大工の一般作業を『当てがい細工』と申して馬鹿にしてた様ですが、舟大工の仕事にも独特のものが有り、中々面白いのです。家の様に直角な所ばかりでは有りませんので、現図が有り、型板があり、型受けという展開図法(流儀)が有ります。当てがい細工も少々の熟練が必要ですし、型受けも長年の経験が必要となります。作業は斧削り、ちような削り、合羽摺り、海具の取付などなど荒っぽい作業の数々が有ります。では順を追って作業を説明してみましょう。船底材を矧合せる時、各材の接面を合せる作業があります。鉞で削ったり、鉋をかけたりする、その面を決めるためにくじひきという仕事があります。「和漢船用集」の工匠具を見ますと図解があり、口引とあります。くじひきと呼んで居りました。(くじひきは2種の道具の形があります)敷も、無玉も直材ばかりではありません。立木ですから、全てが直線的に生えている訳では有りませんから、なるべく直材と申しても、ゆるやかな曲りのある材料も出て来ます。之等を上手に組合せて、山から造船所へ運ばれて来てますから、合せ面も曲面が多いのです。(杉材の敷などの場合、或いは製材所で挽いた直材か、厚さ丈を挽いた面付の板材であったかも知れません。面付板材≒バッタと呼んでいた)片方の材料を、ゆるやかな曲面に鉋仕上をした場合、相手側も之に合った曲面とする必要が有ります。
 
 前図の重ね作業時にこのくじひき仕事が入ります。何の事は有りません。下の面の型をそのまゝ同間隔の定規で写す事なのです。
くじひき 道具A (専ら船底材の様な同厚のものに使われる)
〃 〃  道具B (肋骨などの様に部分的に合せる時に使われる)
 
A
 
B
 
 Bの使い方を説明します。Aは板状相互の合せ仕事に使いますが、Bは平面的な所へ或る物を合せる・・・という様な場合です。次図は肋骨、肋板などの合せる場合を説明します。
 
 大きい和船の外板内面も敷の上面も平滑では有りません。理由は、外板(海具)は手挽で厚さに多少の差が有り、之は専ら内側へ逃し、外面を見面よく平滑にする為と、敷はちょうな目の波形の凹凸が有ります。
 B型くじひきは之等へ密着した取付の為の道具となります。
 この凹凸の線引に依ったものを鉞で削り、ちようなで削り、反り鉋などで仕上げて取付けます。上図の様な連続した天然曲材などは相当の要領が必要となります。(次で説明します。)
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION