日本財団 図書館


 直面の平滑な面ならば、横方面(面に添っての)へ幾ら、ずれても、密着面は差支えありませんが凹凸のある面では、少しのズレでも合わなく成ります。ですから、凹凸のある船底面と多少の凹凸の有る外板面を同時に一度で合せると云う事は甚だ無理があります。第一回を型板で、あらましの形を受けて(受けると云うのは写すの意≒大工言葉)大体の形に合せ、細々とした所をB型くじひきで合せ削ります。
 
 
 A.B.C.何れのHも削り落して密着させる最大間隔です。A.B.C.それぞれにくじひきを使う所はありますが、全てにくじひき丈で削るための線引は出来ません。多少誇張してますが、左の図が無玉式の胴海船の場合です。其の昔の見習工時代に同僚の子がくじひきで合せては削り、合せては削りを繰返し、遂に肋板をペケにした事があります。
 
 敷の通し鋸に依る摺合せは、全接面が100%良く鋸が通るとは限りません。本来は100%通すべきものでしょうが少し摺り不足(又は通し不足)の所も出て来ます。(之は平均に鋸を通した后、チェンブロックで吊上げて摺り具合を検討します。)その摺り不足部分が少しである時などには次の様な方法での補修作業をします。之はどこまでも正式ではありません。『鉋面の少々残っている様な所は木目に添ってて通し鋸を45°位に傾斜させて、合せ目の表面を木目方向に削ぐ様にします。鋸刃(通し鋸)に依って細い糸くづの様な木くづが出て、材料の表面は引き掻きキズが出来ます。糸くづの様な木屑は其のまゝにして矧合せます。后でこの木くづは膨張して、水止の役をします。』
 
この方法はイレコや全く、摺合せをしない水密を要す所の急ぎの仕事
などにも応用されます。〔面(ツラ)を鋸(ノコ)でかっちゃげ・・・〕棟梁の指示言葉
 
 鉞削りや手斧がけは大変な仕事です。この道具自体の事は道具の項でふれますが、道具の重量と扱う材料の削る量も家大工道具のそれと較べる事が出来ない位大きいのです。
 当時でも家大工さんはマサカリやチョーナを使う仕事は殆んど有りません。若し有ってもほんの片手間程の事です。鉞は約1.30kg手斧は1.0kg弱、一日中の全身、全力の作業です。マサカリを例えますと1350gのゴルフクラブを休まずに一日中振廻す様なものなのです。鉞の刃渡りは約150m/m〜165位です。厚さ60m/m弱の杉材の海具はさほどではありませんがからからに乾いたブナ材の無玉や敷、無玉は刃先70〜75m/m位で両面から削られますが敷ですと刃渡りの80%位を使用して削ります。余りに堅い場合は水を掛けながら(掛け水をしてから)の作業です。少し刃が切れなくなりますと、刃先が木材にささらず、ハネ返ります。ですからマサカリと言えどもヒゲが剃れる程に研ぎます。腕の良い職人の削り目巾は広く、我々見習工の如きは10m/m〜20m/m程度です。喫茶店の天井の化粧梁の表面に斜めの凹凸の有るのはマサカリ削り目を模したものです。
 前ののくじひきの事にふれますが、昨今ログハウスと云う丸太小屋作りの住居が有ります。丸太のコーナーの組立嵌込に、鋼鉄のコンパスとくじひきを合せた様なアチラの道具を使っております。多少合わなくても、今は良い充填材が有りますから、適当に埋めればよいのでしょう。今年(平成3)始めの頃失くなりましたが函館公園の裏に山小屋という喫茶店が有りました。その昔は函館乗馬クラブであった様です。(サラブレットの馬の壁掛が有りました)非常にしっかりとした丸太作りでしたが、昔の日本人の職人さんが作ったものだったと思います。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION