参院は自衛隊イラク派遣の承認案件を与党の賛成多数で成立させた。一月末の衆院の承認に続き、イラク復興支援特措法に義務付けられた国会の承認手続きが整ったことを評価したい。
陸上自衛隊本隊の第一陣は八日夜、イラク南部のサマワに入った。先遣隊のサマワ入りにはオランダ軍の警護を受けたが、今回は自前で警備したほか、イラク警察のパトカーが車列の先導を買って出た。サマワ市民に大きな影響力を持つイスラム教シーア派のマード・トウマ・アルワエリ師も「自衛隊を市民はいつであれ、どこであれ助けねばならない」と呼びかけた。
雇用面で政府は貧困層に家を建設するなどして、一日六百人程度の雇用は可能としているが、大規模な雇用は民間企業の進出を待つしかない。外務省は説明会などを開いているが、働きかけを強めることが必要だ。政府内での情報伝達体制も問題であり、省庁間の縦割りにとらわれてはなるまい。
審議で残念だったのは、こうした論議や自衛隊員の安全をどう確保するかなどの現実的な議論が乏しかったことだ。民主党も含め、隊員の無事な帰国が共通認識になっているのだから、なおさらだ。
「自衛隊派遣は憲法違反」と明言した菅直人代表は、鳩山由紀夫前代表から「違憲と決め付けることはできない」と批判されるや、「私の発言にとらわれないでほしい」と釈明した。
これは菅代表の硬直化した対応が党内で受け入れられていないことを示しているのではないか。「審議拒否」より「対案提示」を基本姿勢にしてきた民主党は、これからの審議で現実的な姿勢を示せるかどうかが問われる。
石破茂防衛庁長官は隊員に犠牲者が出た場合について「人道復興支援の目的が達成されていないのに退くことにはならない」と早期撤退論を否定した。テロに屈することなく、イラク国民とともに復興を成功させたい。
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