日本が武力侵攻された場合の対処の枠組みなどを定めた有事関連三法案が閣議決定された。有事法制としては戦後初の立法措置となる。小泉純一郎首相が二月の施政方針演説で「備えあれば憂いなし。必要な体制を整えておくことは国としての責務」と強調したことが具体化されたことを評価したい。
関連三法案は、国が対処する枠組みを定めた武力攻撃事態対処法案と、安全保障会議設置法改正案、自衛隊の活動を円滑化するための自衛隊法改正案で構成される。昭和五十二年、福田内閣で有事法制の検討を始めて以来、放置されてきた国の主権と国民の安全を守るための危機管理体制を整備することは、遅きに失した感は否めないが、国家としては当然の務めである。同時に今回の措置だけでは十分といえないのも事実だ。
武力攻撃事態は、旧ソ連による着上陸侵攻を想定して、防衛庁がかねて対処を研究してきたケースであるが、問題は日本にとっての脅威やリスクに十分に対処できるかどうかだろう。国民が関心をもつテロ、不審船などの緊急事態への対処に関しては「迅速かつ的確に実施するために必要な施策を講じる」と記されているものの、いつ、どのような措置を取るのかを明示しなければ、画餅に帰すことになる。
有事に即応できるのかどうかの問題もある。武力攻撃事態の場合、政府は対処基本方針を作り、閣議決定を経て、国会承認を得る段取りだが、ミサイルが飛来するような事態ではこうした手続きに手間取り、即応が遅れることにならないか。新たに設置される武力攻撃事態対策本部も、意思決定システムを煩雑にしかねない恐れがある。
一方で小泉首相は、いかなる事態にも対処できる包括的な安全保障基本法の整備に乗り出すべきではないか。昨年九月の米中枢同時テロを受けての国際的な共同行動に対して、日本は新規立法を行ったが、新たな事態のたびに既存の法体系を手直ししたり、新法を整備するのでは、危機に的確に対処できないことは自明である。今回の措置も、こうした基本法作りの第一歩と位置づけるべきである。
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