日本財団 図書館


1999/06/05 産経新聞朝刊
【主張】不審船対策 いまこそ領域警備見直せ
 
 自民党の危機管理プロジェクトチームと政府が、相次いで不審船への対応策などを明らかにした。三月末、海上自衛隊に海上警備行動を初めて発令しながら不審船を取り逃がした能登半島沖追跡事件の教訓、反省をもとにした再発防止策だという。しかし政府案は、不審船だけを対象にした「あり方」や問題点の提起にとどまり、対策としては物足りなかった。
 政府案は、今後、類似事件が起きたときの省庁間の情報連絡、対応能力の整備、警備行動発令の迅速化、対応の問題点、武器使用などについて、検討、研究すべき点を列挙している。しかし、わが国の国益を損なう外国からの行為を未然に防ぐほとんど唯一の対応策は、こうした行為を断じて許さない、という国家の強い姿勢であるはずだ。そして、姿勢を具体的に示すのが、不法行為を直接抑止する武器使用などの法制度だが、政府案は、「(取り沙汰されている船体への)危害射撃のあり方を中心に法的な整理を含め検討する」と煮え切らない。
 現行法では、海上保安庁・海上自衛隊が、不審船を停船させるために武器使用するときは、警察官職務執行法に準拠して警告(威嚇)射撃はできるが、人への危害は禁止されている。その恐れのある船体への直接射撃もできない、とされている。しかし警告射撃には、従わなければより強力な直接射撃などで強制的に停止させる、という法的裏付けが伴わなければ、効き目などないに等しい。逆にいえば、この実力行使の制限条項さえ撤廃されれば、対応策の過半が達成される、といってもいい過ぎではない。それだけに、肝心のポイントが“検討”ですまされたところに不満がある。
 もともと、国家の意志を帯びてわが国に不法行為を働こうとする、大がかりなテロ活動、不法侵入などを警察活動の延長線上で処理しようとしてきた従来の考え方に間違いがあった。いわゆる領域警備は、こうした枠組みを考え直そうという論議だが、不審船や、自民党プロジェクトチーム報告が言及しているテポドン対策といった社会的な関心が高かった事件への対応策だけでなく、包括的な領域警備対策をこそわれわれは求めているのである。
 一例を挙げれば、警告射撃だけでそれ以上の強制措置ができない航空自衛隊の対領空侵犯措置は、昭和六十二年十二月、当時のソ連偵察機に沖縄の領空を侵犯されながら、強制着陸させられないという欠陥を表面化させた。こうした法の不備も放置されたままである。わが国の安全のために、もう一歩踏み込みがほしいところである。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION