二十四日に成立した新たな「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)関連法は、冷戦後の日米安保体制に新たな意義を加えるものだ。地域紛争に対して、自衛隊による米軍支援を可能にした点で、日米安保体制は質的向上が図られることになる。ただ、対米協力という側面があることはもちろんだが、ガイドライン関連法によって確保されるべきなのは、日本自身の平和と安全であるという本質を忘れてはなるまい。
関連法では日本周辺で起きた地域紛争などの範囲を「周辺事態」と定義した。日米安保条約における米軍の基地使用の範囲である、台湾を含む「極東」という概念を使わなかった理由について、防衛庁幹部は「日米安保条約の改定や政府統一見解を変えるのは莫大(ばくだい)なエネルギーが要るからだ」と説明する。しかし、周辺事態の範囲に台湾を含むかどうかで中国が示した反応を見ると、「周辺事態」の定義は、あいまいなままにするしかなかったのかもしれない。
その一方で、周辺事態の定義に象徴されるようにわかりにくい法律となったのは、日本の安全保障について国民的な合意が形成されていない現状が背景にある。国会審議では自由党の集団安全保障論と社民党などの「巻き込まれ論」が対極をなしたのは一例だ。
後方地域支援活動や武器使用のあり方は、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈と関連する。政府・自民党が憲法解釈の見直しを避けたのも、「何が有効か」という視点より、いかにして法案を成立させるかという政治的な考慮を優先した結果とも言える。その場を取り繕う官僚の「知恵」であり、政治の指導力不足であり、それを許してきた国民一人ひとりの責任ではないのか。
安全保障をめぐる国会論議は過去の答弁との食い違いをめぐる不毛な論争が繰り返されてきた。一方で最近は、国連平和維持活動(PKO)への参加などを通じて自衛隊に対する理解は深まり、安保問題への関心も徐々に高まってきた。ガイドライン関連法の成立は一歩前進といえる。
ただ、日本有事の法整備がなされないまま、周辺事態への法整備を先行した現状は「まんじゅうを作るのに、アンコを抜きにして先に皮だけを作るようなもの」(防衛庁幹部)だ。
ガイドライン関連法の成立を機に、有事法制や領域警備など安全保障をめぐる法整備を一層進展させていくことができるかどうか。国民の気概と安保意識の成熟度が問われている。
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