日本財団 図書館


1997/06/09 産経新聞朝刊
ガイドライン見直し中間報告 米側の見方 問われる同盟の本質 有事になお受け身
 
 【ワシントン8日=湯浅博】「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直しの中間報告について米政府は、集団的自衛権に踏み込まずに自衛隊の役割を最大限引き出したという意味で、「極めて充実した内容」(国防総省筋)と評価している。しかし、冷戦後にむしろ不安定になった東アジアの戦略環境の中で、日本が有事にあってなお受け身である「同盟の本質」は変わっていないもどかしさが米側にはある。米政府は今後、最終報告に向けて朝鮮半島有事での日本の具体的な役割拡大を一層求めてこよう。
 米側による指針見直しの起点は、湾岸戦争当時、日本の支援が資金面だけに絞られ、軍事的な後方支援がほとんど得られなかった−という苦い経験にある。このため、九六年四月の日米首脳会談では冷戦後の日米安保の「再確認」が行われ、次いでカート・キャンベル国防副次官補を中心に、今度は安保の運用面であるガイドラインで「再定義」を狙った。
 冷戦時代の日本防衛は旧ソ連による直接侵略だったが、当面は北朝鮮軍の南侵の可能性と、これを迎え撃つ在韓米軍を自衛隊がどう支援するかなど大規模な地域紛争への共同対処が重要度を増してきた。
 米側には、日米が軍事同盟を維持して東アジアの安定と繁栄を共有する限り、朝鮮半島で紛争が発生すれば、「せめて航空自衛隊が半島南部の三分の一程度はエアカバーに入ってほしい」(カール・フォード元国防次官補)との思いがある。これにより米軍機は北への対地攻撃に十分専念できるからだ。
 そのためには、日本が従来の「集団的自衛権はあるが行使しない」とのいびつな解釈を変更することへの期待が大きかった。現状のままでは、日本は戦闘地域から自国民の救出すらできず、有事支援もままならないままに同盟の空洞化が表面化し、米国民の強い反発を生むだけだからだ。
 だが一方で、(1)日本の政治家のリーダーシップ欠如への失望感(2)憲法解釈の変更による周辺諸国への刺激(3)反基地闘争など自滅的な論争の回避−などを考えれば、これまでの偏った同盟関係をやや軌道修正するにとどめるしかない、との認識がある。
 そこで国防総省は、集団的自衛権の行使に至る限界ギリギリを狙う「グレーゾーン」での日米協力を探ってきた。その視点からすれば、ガイドラインには半島有事を想定した掃海作業や臨検をはじめとする洋上協力など緊急度の高い事項が盛り込まれた−などとし、一応の成果が得られたとみている。
 問題は、十年単位の長期的視点からアジア太平洋の安全保障を展望した場合だ。
 中国は軍備を拡大し続け、台湾への武力侵攻を放棄していない事実がある。国防総省には、早ければ十年以内に、中国が米国の対抗勢力になりうるとの見方がある。
 それにもかかわらず、主に欧州で迎えた冷戦終結にともなう緊張緩和ムードにより、在日米軍基地の維持は徐々に困難になりつつある。
 沖縄駐留米軍は、二千カイリ以内にアジア太平洋の戦略的なホットスポットが入り、どの地点へも直ちに洋上と航空手段で展開できる重要な拠点だ。米本土から一個海兵師団を輸送しようとしたら長距離輸送機で延べ数千機が必要との試算まである。
 コーエン国防長官は「可能性が低くとも深刻な結果を招く突発的なシナリオに備えなくてはならない」と述べ、前方展開の米軍基地が攻撃を受けることで喪失する事態まで想定している。日米同盟の将来が不透明であることは否定しきれない。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION