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1997/06/09 産経新聞朝刊
【主張】防衛指針を法で裏付けよ
 
 日米防衛協力のための指針、いわゆるガイドラインの中間報告が八日公表された。ガイドラインは、わが国が直接攻撃されたり、周辺地域の紛争で、日本の安全が脅かされたとき、日米はどのように、どこまで協力していくか、あらかじめ手順や範囲を定めておこうというのである。中間報告は、九月に予定されている最終報告のいわばたたき台。三カ月前に出されたのは、議論を重ねることで、わが国安全保障への国民的コンセンサスを得たい、とするねらいがあると思われる。
 ガイドラインを考えるに当たって、大きなツボはたったひとつ。それは、これが“日本を守るため”の防衛指針だという視点である。日米安保条約を維持しなければならないから、日米関係が大事だから、これまでのガイドラインを見直すというのではない。国際情勢の変化に合わせて、国益を守るために、より現実的な日米防衛協力を考えていこうというのである。
 分かりやすい例として出される機雷掃海。日本の領海内の掃海はいいが、公海での掃海は直接戦闘行為、もしくは集団的自衛権の行使にあたる、という議論があった。しかし、わが国周辺の公海に機雷が浮遊し、日本船舶の航行安全が脅かされているとき、自衛隊が掃海するのは当然であり、それが日本の国益と解すべきだろう。結果的に米軍への協力になることはあっても、優先順位第一位は、わが国の利益なのである。
 焦点になった米軍の活動に対する日本の支援項目の中には、周辺有事にあたっての民間空港提供がある。しかし、単に空港施設を提供するだけでは協力にならない。軍事的合理性からいえば、弾薬庫や燃料基地からの弾薬、燃料の輸送まで協力してこそ、わが国を守る防衛協力になる。こうしたことが、もし従来の内閣法制局見解や、憲法解釈と食い違ってくるならば、これを機会に、一歩踏み込み、憲法問題まで議論すべきである。
 中間報告では、この指針が日米両国政府に立法、予算、行政上の措置を義務づけない、としながらも、具体的な政策や措置への反映を期待している。もともと二国間の取り決めに何らの義務も伴わずに円滑な運営が期待できるはずがない。また、米軍への協力はできても肝心の自衛隊が動けないというのではガイドラインも意味がない。いわゆる有事法制や、米軍への協力を明文化する有事ACSA(物品・役務相互提供協定)のようなものが、早急に整備されなければならないだろう。
 
 
 
 
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