日本財団 図書館


1997/05/31 産経新聞朝刊
「日米安保報告書」詳報 緊密な「絆」は日本の利益
 
【ワシントン30日=古森義久】米国の外交問題評議会が主宰する専門家の研究班が三十日発表した「戦争の試練と平和の重圧・日米安全保障関係」という報告書の主要部分は次のとおり。なお報告書は三十四ページから成っている。
【前文】
 日米安保同盟はいま岐路に立っている。一つの道は同盟の弱体化であり、もう一つの道は二十一世紀のアジアの安全保障の挑戦に対応するより双務性の高い相互誓約による同盟の強化である。ソ連の崩壊で明確な脅威がなくなり、同盟は徐々にほころびていく危険に面している。あるいは朝鮮半島、台湾海峡などの危機に直面し、日米同盟は一挙に崩壊する可能性もある。だが、日米同盟はアジアの平和と安定のために重要であり、とくに中国を国際社会に迎えるための枠組みともなる。
 この研究報告は、同盟が戦争の試練にも平和の重圧にも耐えられるための強化と再構築の諸措置を勧告している。まず日本政府は、自国民に米国とのより緊密な安保のきずなは日本自身の利益になることを明確に告げ、アジアの危機の際に米軍支援のために具体的に何をする意思があるかを明示せねばならない。米国政府も、自国民に日本との同盟は自国の国益に資すことを述べ、日本政府に圧力をかけてでも同盟堅持のための措置をとることを求めねばならない。だが、その変化の作業は慎重に測定した時間のペースで進めねばならない
【戦争の試練】
 日本は自国領土への直接攻撃以外の有事では米軍支援のため、非戦闘の兵たん援助をどこまでできるかの決定を迫られる。朝鮮半島の有事で米国が日本の直接支援を求める確率が最も高く、ペルシャ湾の有事では最も低いが、もし朝鮮半島の有事への支援がまったくできないとなると、日米同盟は一気に崩壊に向かう危険に見舞われる。
 日本では、有事の国家安全保障策の決定は時間がかかりすぎる。また、現行の「日米物品・役務相互提供協定」での日本の米軍支援も、平時と国連平和維持活動(PKO)の枠内だけに限られ、朝鮮半島の有事でも武器弾薬の輸送もできない。自衛隊は戦闘地域からの日本の民間人救出もできない。日本は集団的自衛権行使の禁止のため、有事で普通の同盟国がする支援活動ができないため、米軍側は有事の対応計画ではまったく日本の参加に頼っていない。有事にそんな実態が露呈されれば、米国一般国民は日米安保への支持を急速に下げる。
【平和の重圧】
 同盟は米国がはるかに多くの負担を負う非対称性(片務性)が強い。米国民の多くは、自国が日本のために防衛努力をしても日本側は感謝はしていないと思っている。日本が経済的に強くなると、米側では日本防衛のための米国の努力への懐疑が高まる。自衛隊が集団的自衛権禁止によって日米同盟のためでも、日本領土以外に派遣されず、米軍が目の前で攻撃されても援助できない状態に米側の識者の不満は強くなっている。日本側でも、多くの国民は米軍基地の受け入れは自国の安全というよりも米国に奉仕するためだと感じ、日本の防衛努力は米側から感謝されていないと思っている。
【同盟の再構築】
 安保関係は政治権限、軍事責任の片務性を減らし、日本は集団的自衛権の禁止を解除して、地域的な有事にも広範な支援ができるようにする。自衛隊が米軍との共同の訓練や活動を増し、朝鮮半島の危機などでも米軍への支援を拡大する一方、日本の政治的発言権をも増大する。再構築の結果の同盟強化はアジア・太平洋での抑止効果を増す。ただし、これらの作業は国内世論をみて慎重に、少しずつ進められねばならない。
【強化の諸措置】
 (1)自衛隊の地域有事対処への参加拡大(自衛隊の地域紛争への対処については安保条約を含めて現行の規則はあいまいな部分が多く、集団的自衛権の禁止で制約が多いため、米軍はあいまいな支援には依存できないという立場から、朝鮮半島、台湾海峡、ペルシャ湾などすべての有事への対応計画で日本の支援を織りこんでいない。これを変えて、たとえば朝鮮半島の有事の際、米軍の戦闘の後方支援、海上輸送路監視、機雷除去、米軍の輸送、医療活動、戦闘地域からの民間人救出など日本側の責務を明示する)
 (2)在日米軍、在アジア米軍のより有効な運営(アジア・太平洋で十万、日本で四万七千という駐留米軍の数を固定することをやめ、機能や任務を中心に柔軟性を有する配備とする。安保条約第五条の米軍の日本防衛への協力責務もあいまいな点があるため、尖閣諸島など日本の施政権下にある紛争領土の米軍の防衛責務を明示する)
 (3)戦域ミサイル防衛(TMD)の開発、配備を含む両国間の軍事技術の協力推進(日本が米国とのTMDの共同の開発や配備に応じるかどうかは、軍事技術面での同盟強化の試金石となる。TMDは日本にとって北東アジアでのミサイルの脅威に備える有効な手法となるようだ。米国の軍事関連技術が日本によるライセンス生産などにより一方的に流れてきたが、それを均衡する。技術の相互交換の長期計画を決める)
 (4)日本の政治指導者による同盟の利益の説明(政府は左翼や無抵抗主義者から同盟批判が出ても、ほとんど沈黙を保ってきた。この状況を打破して、日本の政治指導者が率先して国民に同盟の利益を説明する姿勢が不可欠となってきた)
 
◆集団的自衛権
 自国は武力攻撃を受けていなくても、同盟国などが攻撃を受け、そのために自国の安全と独立が損なわれる恐れがある場合、共同してその攻撃を排除する権利のこと。
 国連憲章第五一条では、加盟各国に自国が攻撃された場合の自衛権、個別的自衛権とともに集団的自衛権も認められている。
 日本は憲法規定により、集団的自衛権は存在するが、行使は認められないというのが政府解釈だが、その行使をめぐって、憲法改正、拡大解釈などさまざまな論議がある。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION