平成八年版の防衛白書「日本の防衛」が、十九日に公表され、その中で「国民の自衛隊への期待の高まりに応えて、より幅広い役割を果たすよう求められている」と、新防衛計画の大綱(昨年十一月)で示された新しい任務への取り組みが表明されている。
大綱によって、自衛隊は、一方で防衛力の規模縮小(コンパクト化)が求められながら、他方では、これまでの国家防衛という主任務に加えて、大規模災害への取り組みや、国際貢献といったさらなる役割も与えられた。過重ともいえるこうした任務を果たしてもらうために、わたしたちがいま自衛隊に望んでいるのは何なのか、白書を機にそのいくつかを挙げておきたい。
第一は、モラル(道徳)とモラール(士気)の高揚である。国際貢献で海外に派遣された隊員たちが、その士気の高さ、作業の的確さで自衛隊の国際評価を高めていることは喜ばしい。しかし、極東ロシア軍という大きな直接脅威が衰退傾向にあり、国内的には自衛隊規模縮小、防衛予算の実質的切り下げなど、士気が低下していく要因をはらんでいることも事実である。昨年十一月、石川県・小松沖でのF15撃墜事件や先月リムパック演習での米海軍A6攻撃機撃墜事件に、これらが遠因している可能性もなしとしない。
そして、そのうえでプロフェッショナリズムの確立である。戦闘集団がアマチュア集団と明確に区別されるところは、任務におけるリスクの高さである。リスクを恐れては、戦闘集団の任務が達成できない。国際貢献の名の下に、自衛隊が紛争地域へ派遣されるのは、アマチュアの手に余るリスクがそこにあるからである。訓練もまた同じである。
ところが、自衛隊の訓練では、往々にして訓練目的以上に「安全」のプライオリティー(優先順位)が高い。安全は重視しなければならないが、訓練目的の達成レベルを落としてまで安全を尊重していては、緊張感に欠け、かえって事故を誘発する場合もある。
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