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1996/04/18 産経新聞朝刊
日米安保共同宣言 米国側 「片務性」修正へ 集団的自衛権行使に期待
 
 米国は「世界で最も活力ある地域であるアジア・太平洋」(日米安保共同宣言)の二十一世紀の繁栄に深く関与し、その利益の享受を願う。これを反映して、同宣言には「繁栄」という言葉が七回も登場する。しかし、同時にこの地域は「世界で最も紛争の危険性をはらみ、しかも、その危険は多角化かつ広域化してもいる」(米外交筋)。
 経済的活力と、これを一挙に破壊しかねない潜在的暴力の充満。東アジアに併存する冷戦後の深刻な矛盾の溝をどう縮め、平和を永続させるか。「これが、米国にとっての日米安保再定義の意味であり、米国の二十一世紀に向けた対アジア戦略に沿って、日本に最大限の危機管理態勢整備への道を要求したのが同盟強化の実態だといえる」。日米首脳会談後、クリントン大統領同行筋はこうした分析を示した。
 「最大限の危機管理態勢整備への道」とは、安保体制における日本の従来の「片務性」を修正し、有事の際の自衛隊基地使用など対米支援措置の強化という一歩踏みこんだ防衛舞台への「引っ張り込み」を意味する。当然、将来の日本の集団的自衛権行使への決断の期待も込められている。
 訪日直前、沖縄・普天間飛行場の五−七年以内の返還を発表した背景には、日本を新たな防衛舞台に浮揚させるには、日本国民の対米不信をぬぐい去り、日米相互信頼回復の地ならしが不可欠だとの判断があったからにほかならない。
 日米同盟強化で米国が狙うもう一つの「引っ張り込み」の対象は中国だ。米国にとって二十一世紀の対アジア戦略の最大の経済的標的は広大な市場を持つ中国であり、軍事的冒険を抑止しつつ、中国を国際舞台に軟着陸させることがぜひとも必要となる。
 こうした戦略的配慮から安保宣言は「アジア・太平洋地域の安定と繁栄にとり、中国が肯定的、建設的な役割を果たすことが極めて重要」として日米両国が中国との「協力」をさらに深めることを強調している。
 中国が台湾海峡の緊張を演出した直後にしては、中国にソフトな印象だが、実はこの部分は、より早い草案の段階では「アジア、世界の平和と安全は中国を国際社会に平和的に迎え入れることができるかどうか次第であることを再確認、中国と台湾をめぐる情勢が緊張する中、中国の建設的役割を求める」と、より直接的に国際社会への引っ張り込みの意図をうたっていた。それほどに状況が難しい段階に達していると認識していたわけだ。
 「国家崩壊のふちに直面し“自暴自棄”の軍事暴発が懸念される」北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)。逆に、「経済的おごりから軍事増強に走る」中国。中朝両国の北には拡張主義への野心を秘めたロシア民族主義が控え、中東や南アジアでは中朝から核・ミサイル技術を入手する諸国家が存在する。民主主義国家と権威主義国家の併存による摩擦もアジアの特質だ。
 アジア安保の節目となる日米同盟強化だが、同盟が直面する軍事的脅威の拡散と質の多様化は、米戦略の足をすくいかねない予想外の落とし穴をいくつも生み出す危険がある。
 米国の日本に対する防衛負担強化の風圧は今後、年を追って強まることになろう。
 
 
 
 
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