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1996/04/16 産経新聞朝刊
【主張】日米の信頼固めるACSA
 
 ACSA(アクサと読む。日米物品役務相互提供協定)が、日米両国間で締結された。自衛隊と米軍が共同訓練するときや、国連の平和維持活動(PKO)で、装備の部品や燃料、送り迎えなどのサービスをお互いに融通しあおう、という協定。一般になじみの薄い協定だが、両国の安全保障分野での信頼関係を強めていく具体的な手掛かりになる。あすから始まる日米首脳会談の一つの“目玉”でもある。
 在日米軍の存在は、わが国安全保障の大きな柱になっている。ところが、有事にあたって日米がどのように協力しあうか、たとえば、共同作戦のときの指揮権をどちらが握るのか、といった重大なテーマは棚上げされたままになっている。有事どころか、そのはるか前の段階である日米の共同訓練でも、不便で不合理な慣習や法的不備がそのまま残されている。
 共同訓練するときは、米軍の設営部隊が先乗りするが、自衛隊駐屯地に入った先乗り隊員たちに日本側はサービスを提供できない。法的根拠がないからである。隊員たちは、マイナス三〇度の寒冷地でもテントに寝て、冷たい缶詰で腹を満たさねばならない。米軍はトラックから救急車まで運び込むが、それらの燃料も遠くから持ってくる。燃料のような世界共通の物品でも貸し借りできないのである。
 日本を守ってもらうための訓練なのに、こちらの対応がこんなに冷たくては、友好関係がぎくしゃくし、米軍と自衛隊との信頼関係を損ねていく心配もあるだろう。せめて、だれが見てもおかしい、と感じるような非常識な関係は正していこう、というのがACSAである。
 それだけではない。ACSAがなかったために、二年前のルワンダへの人道的救援活動にあたって、米空軍のC5輸送機を提供してもらえなかった。ロシアから大型輸送機をチャーターしてトラックなどを運んだが、こんな珍事が度重なれば、日米の緊密に諸外国から疑いの目がむけられ、あらざる波紋をも起こしかねない。
 
 
 
 
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