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1995/02/14 産経新聞朝刊
【主張】「自衛隊」を知らない自治体
 
 五千三百人以上の犠牲者を出した阪神大震災では、自衛隊の災害派遣が、ひとつの焦点になった。産経新聞は、自治体と自衛隊との災害時の連携について、五十九自治体にアンケート調査した(十二日付朝刊)が、日ごろから両者が密接に作業しているところがある一方、自衛隊への理解が余りにも低い自治体も結構多い実態が浮かび上がっていた。
 自衛隊との災害共同作業についていえば、自衛隊との災害合同訓練を毎年しているのは五十一自治体(神戸市と京都市は一回もやったことがない)。そして、災害時の自衛隊出動について、「要請を待たずに出動できる体制を整備すべき」、またはそれに近い回答をしたところが、全体の半数に近い二十八自治体にも及んでいた。
 合同訓練をしているところが、一見多いようだが、問題はその中身。沿岸都市部が壊滅的打撃を受けた兵庫県では、四年前から総合防災訓練に自衛隊が参加しているが、年々自衛隊への参加要請が減り続け、マグニチュード(M)7・5の直下型地震などを想定した昨年八月の訓練はわずか四十三人。それも、大規模地震ではもっとも望まれる倒壊家屋、ビルからの救出訓練などは皆無、自衛隊が担当した訓練は、架橋やヘリでの医薬品空輸、炊き出し、避難誘導などだった。
 兵庫県幹部は、震災後も「どこでもこの程度(の訓練)ですよ」といっていたが、県民の防災意識向上を意図したデモンストレーションだけでなく、災害派遣要請の手順や、人命救助のノウハウを身につけられるような実質的な訓練、自治体と自衛隊との人間関係の疎通が、本当は必要なのだと思われる。
 「自衛隊は独自の判断で出動してもらいたい」という自治体の意見が多かったのには驚いた。自衛隊は武力集団である。災害時といえども、武力集団にほとんど無制限の裁量権を与えよというのは、無責任に過ぎる。それに、自衛隊は、もともと災害直後よりも一呼吸置いたあとに地力を発揮できる集団なのである。
 一般的にいって、自衛隊以上に現地の情勢をいち早く把握できるのは、自治体ではないのか。自治体の首長やその代行者に危機管理能力があり、また自衛隊との防災訓練でトレーニングしておけば、現行法下でも自衛隊は立派に働ける。今回は、法制や機構に問題があったのではなく、自治体がその運用法を知らなかったか、まずかったのである。
 
 
 
 
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