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1995/02/03 産経新聞朝刊
【主張】自衛隊は独断専行すべきか
 
 「自衛隊は、自治体の派遣要請がなくても動いてほしかった」−災害発生直後から今に至るまで、こんなアピールが折りに触れて出てくる。半月を過ぎたいま、緊急時に自衛隊を独断専行で派遣したほうがいいのか、そのためにはどんな体制をとっておくべきかを考えておきたい。
 自衛隊は確かに力強い存在である。もともと国家防衛にあたる武力集団なのだから、当然といえば当然だが、しかし、戦争に強くても災害にも強いとは限らない。阪神大震災でも法的、能力的に限界があることがはっきりした。そんな集団に大災害だからといって、いわば超法規的判断をして出動を早めろというのは冷静な意見だろうか。
 わずか、四カ月前の北海道東方沖地震。このとき、航空自衛隊は災害派遣要請を待たずにRF4偵察機を発進させたが、不幸にも長万部で墜落し、乗員二人は殉職した。しかし、派遣要請前だったという理由で、一時償恤金(しょうじゅつきん)の対象からはずされたことがあった。また、かつて栗栖弘臣統幕議長が、戦争のときには超法規的措置をとる、といったばかりに更迭されている。
 戦争では、一分の遅れが国を滅ぼすこともある。しかし、そんなときでも自衛隊の超法規的行動は厳に禁じられてきたのである。いまにわかに、大災害だから超法規的に動けといわれても、自衛隊は戸惑うばかりだろう。国家が武力集団を動かすときは、あらかじめ設けた大原則を崩してはならない。指導者は、大災害であればあるほど、冷静になり、エモーショナルな言動を慎まねばならないのである。米英両国をはじめ、強力な軍隊を保有している国々でも、災害派遣の中心は軍隊ではない。地方自治体や民間防衛組織が主導権を持ち、手に余るときは軍隊に補助的活動を依頼するのが普通である。
 とはいっても、自衛隊が災害時のスーパーパワーであることに変わりはない。超法規的行動をせよと迫る前に、現行法制のなかで、自衛隊をいかに効率的に運用するかを工夫すべきではないか。災害の多発する九州各県では、自治体と自衛隊の共同作業がきわめてスムーズに運んでいると聞く。その円滑な作業が、両者の度重なる交流と訓練に支えられていることはいうまでもない。兵庫県知事は「自衛隊は自衛隊でやってくれると思っていた」といったが、自衛隊の共同訓練を兵庫県も神戸市も受け入れたことは一度もなかった。災害救助は訓練なくして実績なしだと知るべきである。
 
 
 
 
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