自衛隊機の機種選定では、とかく疑惑が取りざたされやすい。航空自衛隊の次期多用途支援機(UX)選定でも、事前に機種が決まっていたのではないか、といったクレームがいま国会の場に持ち出されている。しかし残念ながら論議はややもすれば焦点をはずれ、政治的思惑が先行しているかの印象を受ける。国防の装備調達にダーティなイメージを与えないためにも、いま問題点は何なのかを見直してみる必要があるだろう。
自衛隊の装備(兵器)を開発したり、調達するとき、その選定過程ではさまざまな要素が評価される。だが、コスト、性能、整備性など、数多い要素のなかで、何がいちばん重視されるかといえば、使い勝手のよさ、つまりは運用者の意見だろう。UXでいえば航空自衛隊、なかんずくそれを実際に飛ばすパイロットたちの考え方ではなかろうか。
昭和三十三年から三十四年にかけて、社会問題にまでなったロッキード・グラマン事件は、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)選定にからむごたごただった。いったんはグラマン社の戦闘機に決定しながら、白紙還元になり、結局ロッキード社のF104戦闘機に逆転した一連の騒ぎは、政治の機種決定への介入が原因だとされた。そして、その教訓として、機種選定にあたっては、運用者の意見を最大限尊重する慣例になったはずである。
今回のUXについては、運用者の航空自衛隊がもっとも要求に近い機種として米ガルフストリーム社の候補機を選定したのだから、大筋ではまっとうな経過をたどって機種が決まったといえるだろう。にもかかわらず、いまの国会論議が政治的なもくろみを持った揺さぶりだったとしたら残念である。
しかし、防衛庁・自衛隊にも誤解を招く余地がないではない。新規開発の複数機種がフライオフ(飛行テストによる競争)をするならともかく、既存機から選定する場合は、運用者の頭に最初からもっとも望ましい特定機種が描かれているのが普通である。現在のような建前による複数機種からの選定を廃し、運用者が明確な理由を付して、最初から一機種を指定したほうがむしろ明朗ではないか。
表面に出たことはないが、機種選定の過程では組織の人間関係が影響を及ぼすこともありうる。その人間関係が、例えばメーカーや政界へ転出した組織の先輩と現役とのものである場合には産軍、政軍癒着との誤解、疑惑を招くのである。心してもらいたい。
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