緊急時の在外邦人救出に、政府専用機を使用することなどを盛り込んだ自衛隊法改正案が、二十八日の衆院本会議で可決された。参院でも可決、成立の見通しだが、各党の思惑やメンツが法案を歪め、本来の趣旨とは懸け離れた法律になろうとしている。
今回の改正案は、自衛隊法第一〇八条に自衛隊の任務を追加し、自然災害や紛争に遭遇した海外邦人の救出にあたって自衛隊機を使用できるようにしている。しかし、平成四年三月に宮沢内閣が改正案を提出していらい、昨年六月の衆院解散で廃案となり、細川内閣が「原則として政府専用機に限る」とした修正案を提出するなど、曲折を経た結果、二つの重いタガが法案にはめられてしまった。
ひとつは、自衛隊機の派遣が「安全が確保されている場合」に限られた点である。安全が確保されているときは、なにも自衛隊機を派遣しなくても民間機をチャーターすればことたりる。そもそも非常事態というのは、安全が確保されていない状態であって、だからこそ危険にさらされている邦人を救出する必要があるのではないか。「安全が確保されている場合」といった制約を設けたために、安全でないケースでは、かえって民間機も自衛隊機も派遣できず、邦人を見殺しにする恐れさえある。また、安全なのだからという論理で、戦闘機の護衛はつけず、機内の治安もピストルだけに頼ることになっている。
もうひとつは、派遣する自衛隊機は原則として(航空自衛隊が運航する)政府専用機とする、というくだりである。政府専用機は確かに乗客数が多く、一度に多数を救出できる利点はある。しかし、ジャンボの新型機である政府専用機は、長い滑走路を必要とするなど、設備の整った飛行場でなければ使えない不便さも併せ持っている。紛争が起きると、そうした飛行場は最初に目標とされるのが普通である。邦人が条件のよい飛行場に集まれることを前提にするのでは運用の手を縛ってしまうだろう。なぜこんな条件を設けたのか不可解である。
こんな不完全な法案になったのは、主として社会党が二条件を強硬に主張したからである。わたしたちは、邦人救出に自衛隊機を派遣できるようにする自衛隊法改正案を支持してきた。曲がりなりにも邦人救出に自衛隊機を派遣できるようになったのは歓迎だが、本来の目的からはずれ、党利党略が優先して無用な枠がはまってしまったのは残念至極である。
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