概算要求で前年比〇・九%の伸び率に圧縮された防衛費を、社会党はさらに削り込めという。だが、政治的効果だけをねらった単年度の予算カットは、自衛隊という組織の中身を骨粗鬆(しょう)症のようにもろくしていく。
防衛費は、大きく分けて人件・糧食費、歳出化経費、一般物件費の三つの部門から構成されている。このうち人件・糧食費と、装備を購入したいわばツケ払いである歳出化経費は、削りたくても削れない。したがって、すでに概算要求で〇・九%に押さえ込まれた平成七年度の防衛費をさらに少なくしようとすれば、一般物件費を削減する以外に方法はない。
七年度概算要求の場合、二〇・四%に当たる一般物件費(九千六百三十九億円)は、主要装備を除くもろもろの装備品購入費、その修理費、教育訓練費、燃料購入費、宿舎や電算機の賃借料、医療費、施設整備費など、要するに自衛隊という組織を動かしていく経費である。ただし、一般物件費にも絶対削れない賃借料や医療費などがあり、しわ寄せは、燃料費や教育訓練費にいきやすい。
陸上自衛隊を例にとると、今年度予算も前年対比の伸び率が〇・九%だったから、すでに切れるものはばさばさ切っている。例えば運搬費である。六年度予算では十二億円も削減したために、戦車トレーラーの燃料が不足し、戦車が訓練に出られなくなったし、本州から北海道の大演習場へ遠征するような大砲の射撃訓練も運搬費節約のために取りやめた。七年度要求でも、前年比実質約百億円もの物件費を落としている。こうした現状を無視して、さらに切り詰めよ、というなら、自衛隊は存在すれども機能せず、という無用の長物になり果てるだろう。
防衛費をいまより少なくして、なおかつ自衛隊を効率的に機能させるためには、防衛費の予算配分をバランスよくしなければならない。一般物件費ばかりにしわ寄せがいかないように、人件・糧食費を引き締め(つまり定員を引き下げる)、それに見合った装備数にして歳出化経費を減らす。人も物も少なくなれば、それを動かす一般物件費は自然に縮小される、といった図式が望ましいのである。
しかし、そのためには中・長期にわたる整備計画が欠かせない。思いつきやメンツ、政治的思惑のために、防衛費をいじるようになれば、自衛隊の士気は沈滞し、国家・国民の財産であるはずの自衛隊の価値をいたずらに下落させるばかりである。
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