日本財団 図書館


1994/07/15 産経新聞夕刊
防衛白書 北朝鮮に強い懸念 「重大な不安定要因」
 
 玉沢徳一郎防衛庁長官は十五日午前の閣議で、平成六年版防衛白書「日本の防衛」を報告し、了承された。白書は、現在の国際情勢について「流動的な要素を抱えたまま推移している」と指摘し、とくに核開発疑惑などで不透明感を増す北朝鮮情勢に「核開発とミサイル開発が結びつけばより一層危険な状況となりうる」と懸念を表明した。また、防衛政策の見直し問題については、国連平和維持活動(PKO)への参加問題で「別組織論」などの問題点を指摘している。
 白書は(1)国際軍事情勢(2)わが国の防衛政策(3)自衛隊−変化への対応(4)社会の中の自衛隊−の四章で構成。新設の「自衛隊−変化への対応」では防衛政策の見直し問題を取り扱った。
 国際軍事情勢では、「世界的規模の戦争が発生する可能性は遠のいた」としながらも、「地域紛争の発生、拡大の可能性は高まっており、不安定、不確実な状況が続いている」と指摘。昨年の白書では「好ましい方向への流れが進行しつつある」と楽観的な見通しを示したが、今回は「流動的要素を抱えたまま推移している」と軌道修正した。
 日本周辺の軍事情勢では、北朝鮮情勢の緊迫化に対応して、最初の項目を例年の「極東ロシア軍」から「朝鮮半島」に変更。北朝鮮の核開発疑惑で緊張が高まる半島情勢を「東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因」と位置付けた。北朝鮮のミサイル開発については、中距離弾道ミサイル「ノドン1号」は「開発完了に近づきつつある」とし、さらに「射程の長いミサイルの開発も目指している」との見方を示した。
 極東ロシア軍については、「現在も大規模な戦力が蓄積されている」ことから「依然として地域の安全に対する不安定要因」との見方は崩さなかったが、「厳しい財政状況などから即応態勢は低下している」と、わずかに脅威のレベルを下げた。中国については、約二二%という今年の国防費の伸び率に注目し、「国防力の近代化は漸進的に進む」との見解を示した。
 「自衛隊−変化への対応」では、国際情勢の変化や軍事技術の高度化、若年人口の減少などの国内的条件の変化に言及、「防衛力のあり方について積極的に検討を進める必要がある」と防衛政策見直しの必要性を指摘したが、防衛問題懇談会が検討中であることから、具体的な見直しの方向性については触れなかった。
 国際貢献の項目では、PKO協力法の見直しが来年に迫っていることから、「平和維持隊(PKF)本体参加の凍結解除」「PKO業務の自衛隊の主要任務化」「PKO別組織論」の問題点を説明。社会党などが主張する「自衛隊とは別のPKO組織の創設」については「必要ないとする主張もある」と否定的な見解をにじませた。また、カンボジアでのPKO活動についても「司令部要員の派遣が望ましかった」「個々の隊員の判断とされた武器使用は隊員の心理的負担が大きかった」などの反省点を指摘している。
 特に武器使用問題では、集団攻撃を受けた場合でも部隊単位での反撃ができないとして、陸上自衛隊から強い不満が出されており、白書は直接的な表現は避けながら見直しを求めたといえそうだ。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION