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1994/07/28 産経新聞朝刊
【主張1】まず防衛費圧縮ありきの愚
 
 国の安全保障に思いをいたすとき、“空気”とかムードに影響されることは、絶対避けなければならない。まして、パフォーマンスで安全保障を論じる、政策として取り上げる愚はいうまでもない。だが、政権を担当している社会党が、来年度の防衛予算を、ことしの伸び率〇・九%以下に抑える(実質的な削減になる)方針だと聞くと、日本の安全保障は大丈夫なのかと気がもめてくる。
 村山首相は、非武装中立の“信念”を覆し「自衛隊合憲」を打ち出した。しかしその合憲には「軍縮途上の自衛隊は」という但し書きがついている。軍縮途上なら合憲で、現状維持なら違憲とはどんな論理か理解に苦しむが、「合憲とした首相の答弁を輝かせるためには軍縮が必要であり、世界に先んじてわが国が軍縮すべきだ」というのでは、まず軍縮 防衛費削減ありき。筋の通った政策とはいえないだろう。
 しゃにむに実質的な防衛費削減を強行するとどうなるか。防衛費はほかの予算とちがって、特異な構成になっている。六年度を例にとると、防衛費四兆六千八百三十五億円のうち、人件糧食費と装備の分割払い分だけでほぼ八割を占める。在日米軍駐留経費の分担や基地周辺対策費、基地の借料、燃料費、装備の維持費、隊舎の光熱水道費、被服費などはじめから予定されている経費もあって、研究開発費、施設整備費、庁費など多少とも圧縮できる一般物件費は三・七%にすぎない。
 しかも、七年度は人件費、駐留経費だけで一千三百億円確実に増える。これだけで二・八%の伸びになるのだから、〇・九%に抑えようとすれば、訓練や研究開発、戦車の修理などをほとんど取りやめなければ間に合わない。つまり、構造的な改革を伴わないで、防衛費の実質的削減は非現実的なのである。首相の諮問機関である防衛問題懇談会でも、若年人口の逓減を理由に定員削減を打ち出すもようだが、実際に減員効果が現れるのは何年も先になる。それに、定員削減による戦力低下は、近代化によって補うことになっているから、防衛費が増額に向かうのはやむを得ない必然ではないのか。
 自衛隊は精強でなければ養っている意味がない。そして、その精強さを保っていく栄養素は、国家の一貫した政策(予算)と、自衛隊自身の訓練と、国民のバックアップである。わが国のすぐ近くに新たな脅威があるいま、防衛費圧縮しか念頭にないような政策は、国民の財産である自衛隊の価値を下落させるだけである。
 
 
 
 
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