日本財団 図書館


1994/07/14 産経新聞朝刊
【主張2】教訓にすべきドイツの選択
 
 ドイツ連邦憲法裁判所は、国防軍の北大西洋条約機構(NATO)域外への派遣を合憲とする判決を下した。ドイツは今後、武力行使を容認された国連平和維持軍にも、議会の承認があれば全地域で参加できる。
 第二次世界大戦の反省から、対外軍事活動にきわめて慎重に対処している点でドイツと日本は同じだ。今回のドイツの判決も、この基本姿勢を転換したものとみるのは間違いだ。
 ただドイツは日本と違い、基本法で集団安全保障機構への加入を認めている。だから、NATOに加盟し湾岸戦争の時にはNATO域内のトルコまで空軍部隊を進出させた。ちなみにカンボジアPKOにも医療部隊を送った。
 こうした点は、国防や国際の平和と安全の維持という国家の理念・基本政策面で、ドイツと日本の考え方がまったく異なることをよく示す。日本では自衛隊の合憲性にさえ国民合意がないから、武力行使を前提とせぬ従来型の平和維持軍への参加まで、いまだに政治的争点になる。
 どちらが国際社会の常識に近いだろうか。ドイツの新たな選択は、地域紛争が多発する冷戦後の不安定な国際情勢のもとで、余力のある国はできるだけ平和維持のために責任を果たす必要があるという、きわめて妥当な考え方ではないだろうか。単に国連安保理の常任理事国入りという思惑だけではないはずだ。
 日本政府は当然、ドイツの政策を参考にすべきである。先に触れたように、国連平和維持軍に対する自衛隊の参加はきわめて制約されている。集団自衛権の行使は違憲とする憲法解釈や、「PKO参加五原則」により、武力行使を容認された平和維持軍への参加は不可能だ。武力行使を前提としない平和維持軍本隊への参加は法的に許容されているが、政治的判断でいまだに凍結されたままである。
 こうしたあまりに及び腰の国際貢献理念や安全保障感覚を、世界の常識レベルに合わせる必要がある。平和を維持・回復させるもっとも有効な手段のひとつは軍事的手段であるという簡明な事実に目をつぶったままで、常任理事国入りを目指すのも無理だろう。
 問題は「ハト派政権」を自称する社自連立政権のもとで、こうした日本の根源的な政策欠陥が是正されるどころか、後退を余儀なくされそうなことである。この政権が自衛隊の平和維持軍本隊参加の凍結解除などPKO法の見直し作業などに着手するとは考えられない。日独間の落差はあまりに大きい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION