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2001/09/21 読売新聞朝刊
[社説]テロ包囲網 実効ある自衛隊派遣法制を急げ
 
 世界の平和を脅かす国際テロ組織を包囲する広範な国際社会の共同戦線が、急速に構築されつつある。
 シラク仏大統領、イワノフ露外相ら各国首脳や外相が訪米し、米国支援を相次いで表明した。
 国際社会の結束を背景に、アメリカは中東方面への米軍機の増派を命令するなど、軍事作戦の開始に向けて着々と準備を整えている。
 日本政府も、七項目の方針を決めたが、遅すぎるくらいだ。急いで具体化し、反テロ共同戦線の一員としての国際責任を果たさなければならない。
 七項目の中には、情報収集のための海上自衛隊の艦艇派遣や、パキスタンなどへの緊急経済支援など、現行法で可能な措置も多い。迅速、効果的に実行できるよう、ただちに準備すべきだ。
 テロ組織に対して軍事行動を取る米軍への自衛隊の後方支援に関しては、新法の制定が検討されている。政府・与党は二十七日に召集される臨時国会で成立をめざす考えだ。
 法案には、自衛隊の支援活動として医療、補給、輸送、修理・整備、通信などが盛り込まれ、日本周辺有事の際の米軍への支援を定めた周辺事態法に準じた内容となることが想定されている。
 周辺事態法は、「持っているが、行使できない」とする集団的自衛権に関する政府の憲法解釈により、「武力行使と一体化する支援はできない」との立場が堅持され、現実に合わない部分が多い。
 臨時国会では、そうした不毛な論議を繰り返すことなく、円滑かつ効果的に支援できる法制を整備すべきだ。
 今回は湾岸危機以来の非常事態だ。
 湾岸危機の際には、政府答弁の乱れなどで、自衛隊の後方支援を可能にする法案が廃案となった。目に見える国際貢献ができず、各国から批判を浴びた愚を繰り返してはならない。
 野党も、重い責任を自覚すべきだ。
 民主党の鳩山代表は、小泉首相との会談で、新法制定に基本的に賛成する意向を示したが、同時に、米軍の武力行使を認める国連の新たな決議や、米政府による犯人の特定などが必要と主張した。
 自衛隊の後方支援をできるだけ制約する狙いで条件をつけたのだとしたら、国際テロの重大さに対する認識が足りないと言わざるを得ない。
 米国政府からは「日本の旗を見せてほしい」という要望が伝えられている。
 国際協調はもとより、日米同盟を空洞化させないためにも、政府および与野党は、今度こそ、迅速かつ責任ある行動に踏み出さなければならない。
 
 
 
 
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