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2000/05/26 読売新聞朝刊
[改定40年・安保の課題](4)思いやり予算 同盟の“必要経費”(連載)
◆将来像見据えた論議を
 日本側「基地内にある米兵の住宅の一家族あたりの光熱費は年間いくらかかっているのか」
 米側「そんなことは過去に質問されたことがない。調べてみるが、回答できるかどうか分からない」
 在日米軍の駐留経費の一部を日本が負担する、いわゆる「思いやり予算」をめぐって、日米間で厳しい協議が続いている。負担を定めた現行の特別協定が来年三月末に期限切れとなることから、財政事情が厳しい日本側が負担軽減を検討しているのに対し、米側は現状維持を求めているためだ。
 日米の協議は今年になってすでに二十回以上、外務省や都内の米軍施設で行われ、日本側が負担する経費の費目の一つ一つを確認する細かなやり取りが繰り返されている。
 今年度の思いやり予算は二千七百五十六億円に上る。内訳は、基地内住宅整備などが九百六十一億円、光熱水費二百九十八億円、日本人従業員二万四千五百人の給与千四百九十三億円、騒音対策の転地訓練費四億円。
 河野外相は、二十四日に外務省で、米国のフォーリー駐日大使と会談した際にも改めて「日米安保体制に占める(思いやり予算の)重要性は理解しているが、合理化や節約で米国が姿勢を示すことができれば、日本の国民の理解が得やすくなる」と強調した。しかし、米側は「(在日米軍の駐留は)慈善事業をやっているのではない。減額はおかしい」(タルボット国務副長官)などと強く反発している。
 そもそも米側は「思いやり予算」という言葉を問題視している。この言葉は、一九七八年当時、金丸信防衛庁長官が「在日米軍に思いやりの気持ちを持とう」と述べたことから生まれた。しかし、英語で思いやりに相当する「シンパシー」という言葉が、哀れむという意味を持つことから、米側は「日本の平和と安全に大きな役割を果たすのに『思いやり』とは理解できない」(米政府筋)というわけだ。
 七八年当時、瀬島竜三・伊藤忠商事特別顧問が金丸氏に会った際、「思いやりというのはあまりいい表現ではない」と言うと、金丸氏は「うまい言葉だと思っているんですがね」と答えたという。
 栗山尚一・元駐米大使も「国内の理解を得るために政治的に巧妙な表現だが、実態と違う。有事の際に日本ができることは非常に制約されているだけに、アメリカには、日本がコスト負担しないとアンバランスだという思いが強い」と語る。
 ただ、この問題は、言葉づかいや財政的な事情だけでは片付けられない面も内包している。
 「アメリカに削減論を強く言うことで、いままでの対米追随外交から脱却する必要がある」(自民党幹部)という考えは、与野党を問わず、案外、根強い。「税金が米軍のゴルフ場整備のために使われていることが国民にどう映っているか、納税者の視点も考えなければいけない」という声もあり、衆院選を控え、思いやり予算をめぐる論議が今後、勢いを増す可能性もある。
 しかし、日米同盟を維持・強化していくためには、同盟国として一定の負担は避けられない。
 田中明彦・東大東洋文化研究所教授は「日米安保条約の下で、在日米軍は米国のためだけではなく、極東の平和、日本の安全を守るために駐留している。この日米安保の本質を十分に理解する必要がある」と指摘する。「日本の安全に必要な軍の規模が同じで、日本の負担だけを削減しようとすると、同盟の枠組みそのものを壊しかねない」(田中教授)というわけだ。
 日米安保の意義や将来像を見据えたうえで、どこまでを「必要な負担」として引き受けるのか、日米間で冷静に論議し、国民に分かりやすく説明することが求められている。
 
 
 
 
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