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2000/05/25 読売新聞朝刊
[改定40年・安保の課題](3)沖縄米軍基地 手探り続ける政府(連載)
[改定40年安保の課題]
◆冷戦後も重要性高まる
 沖縄の米空軍は、二十四日を「メディア・デー」として、嘉手納基地に隣接する嘉手納弾薬庫を報道陣に公開した。在日米軍基地で最大のこの弾薬庫地区は、五百八十の施設からなる。直径約五十センチ、長さ二メートルの二千ポンド爆弾などアジア太平洋地域で米軍が使用する弾薬が四ランクの爆発力に分けて貯蔵されている。
 この弾薬庫に日本の報道陣が入ったのはこれまで数回しかない。この日は、米軍担当者が報道陣に対し、電磁波による誘爆を防ぐため、携帯電話の電源を切るよう指示した後、施設の説明を行った。
 沖縄の米軍は最近、こうした基地の公開を頻繁に行うようになった。嘉手納基地のジェームズ・スミス司令官は「『基地問題』を解決していくには、基地からミステリー(秘密)を取り除く必要があるからだ」と説明している。
 その裏には、米政府や軍幹部が今、「最も重要な同盟関係」と口をそろえる日米安保体制を円滑に運営したい、との強い思いがある。
 総兵力四万七千人を数える在日米軍は米国の世界戦略上、極めて重要な役割を担っている。
 在日米軍が属する米太平洋軍は、太平洋とインド洋が作戦範囲で、中東やアフリカ南部も含む。域内の国々と米国との貿易取引総額は年間で五千四百八十億ドル、米国全体の貿易量の35%を占め、この地域の安定は米国の国益に直結している。在日米軍は、日本とその周辺を大きく超えて即応態勢をとっているのだ。
 スミス司令官は「日本の基地は、冷戦時よりも現在の方がさらに重要になった」と強調する。
 米軍基地の機能に支障が生じないようにするには、基地と地域社会が良好な関係にあることが不可欠だ。
 それを大きく揺るがしたのが、九五年九月に沖縄の海兵隊員三人が起こした小学生女児暴行事件をきっかけとした反米軍基地運動だった。この収拾のため、日米両政府は翌年、普天間飛行場の返還を目玉とする基地の整理・縮小案を打ち出した。しかし、四年たった今でも進ちょく状況ははかばかしくない。
 普天間移設については、沖縄県の稲嶺恵一知事が、名護市の代替施設の米軍使用に十五年間の使用期限を設けるよう求めているが、米側は一貫して否定的だ。
 ただ、使用期限の問題に関連して、最近沖縄県側に新たな動きが見られる。
 稲嶺知事のブレーンである比嘉良彦沖縄県政策参与が今月初め、ワシントンで米政府の対日政策担当者に「基地の提供義務は日本政府にあるので、十五年後に今回の代替施設の代わりがさらに必要になるなら、それはまた日本政府が探せばいい」という見解を伝えたのだ。
 比嘉氏は「まず米軍基地問題に、日本政府としてどうかかわるのか、という根本的な問題を投げかけた。基地問題は日本の国内問題なのだ」と、この見解の真意を説明する。背景には沖縄と米とのはざまで基地問題でいまだ、明確な姿勢を示しきれていない日本政府に対するいらだちもある。
 琉球大の我部政明教授(国際関係論)は「アメリカは世界戦略上の必要性から沖縄の基地問題に対応しているが、日本は、対症療法的な基地の整理・縮小を打ち出しただけだ。国際情勢の変化に合わせて、今後どう主体性をもってアメリカとつきあうのか、基本的な安全保障観が見えてこない」と指摘する。
 沖縄では、今でも米兵が関連した事件・事故が後を絶たない。二十三日には海兵隊が沖縄県北部の訓練区域を外れ、サトウキビ畑で射撃訓練を行い、翌日沖縄県が抗議した。
 改定から四十年を経て、日米安保が一段と重みを増す中で、政府は沖縄の基地問題をどう打開していくのか、依然、手探りが続いている。
 
 
 
 
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