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1999/06/17 読売新聞朝刊
[社説]「有事法制」へ機は熟してきた
 
 外国からの侵略など非常事態に、自衛隊などが円滑に対処する根拠となるのが「日本有事に関する法制」である。その「有事法制」の整備促進をめざす動きが、ここへきて目立っている。ほとんど“手つかず”の現状から、大きく前進する可能性が出てきたと言える。
 今国会に入って小渕首相らは、答弁などで繰り返し法整備に積極的な姿勢を見せている。自民党は、党のプロジェクトチームで有事法制・体制の問題点洗い出しと対策の検討を開始した。
 民主党は、党安全保障基本問題調査会で「緊急事態法制」の整備が必要との見解を盛り込んだ安保基本政策をまとめた。
 背景には、北朝鮮の新型弾道ミサイル発射や工作船の領海侵犯がもたらした危機感がある。日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法の成立に伴い、「次の課題は日本有事の法制だ」との見方が与野党の共通認識になってきたことも大きい。
 この機運の高まりを実際の法整備につなげるために、政府や与野党は、さらなる努力が求められる。
 特に注目したいのは民主党の動きだ。基本政策では、「現状のままでは、緊急事態において自衛隊の活動が円滑に行われないことで国民の生命・財産に対する侵害が拡大するか、または、自衛隊が超法規的措置を取らざるを得ない可能性がある」と、法整備の重要性を明記している。
 そのうえで〈1〉自衛隊などが効果的に対処できるよう、その活動に根拠を与える〈2〉自衛隊などの活動が国民の権利を必要以上に制限しないようにする――ことを、法整備の目的に挙げている。基本的に賛成できる。早急に党として最終決定してほしい。
 日本が有事法制の整備を怠ってきた最大の原因は、政治にあると言っていい。特に、五五年体制下の“平和ぼけ”がもたらしたツケは大きい。
 旧社会党に代表される「護憲・平和」勢力が、「有事法制イコール戦争準備」などとする誤った認識をふりまき、この問題を論議することすら忌避してきた。自民党も国会対策を優先して、防衛庁での「問題点の研究」は認めつつも、立法のための論議は先送りし続けた。
 その意味で、旧社会党系議員が多い野党第一党の民主党が整備の必要性を認め、与野党に「共通の土俵」が生まれるのは画期的なことだ。これを弾みにして、国会でも法制化に向けた論議を活発化させる必要がある。各党間の議論が深まれば、国民のコンセンサスはさらに広がるはずだ。
 首をかしげたくなるのは、小渕内閣の一部から「ただちに法制化を進める時期とは考えていない」など、消極的な声が聞こえることだ。「自自公」体制を固めるために、有事法制に慎重な空気が残る公明党に配慮しているからと言われる。
 しかし責任ある政治家には、国の安全を左右する重要政策を、国会対策や政権維持の思惑で判断することは許されない。危機がいつ襲ってきても対応できるよう、政府は一日も早く法整備に着手すべきだ。
 
 
 
 
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