2000/05/23 読売新聞朝刊
[改定40年・安保の課題](1)日米同盟強化 拡大する日本の役割(連載)
◆問われる具体的な「行動」
瓦防衛庁長官とコーエン米国防長官は、今年一月五日にワシントンの国防総省で会談した。その際、最も注目された米軍普天間飛行場代替施設の使用期限問題については、双方とも「日米安保共同宣言に基づき協議を継続する」という、味もそっけもない文書の棒読みにとどまった。
実は、これには裏があった。会談の前日に、柳井俊二駐米大使がコーエン長官に会い、「沖縄に配慮する必要があるので、使用期限設定に反対を表明するのは避けて欲しい」と要請、コーエン長官も了承していたのだ。
米政府筋は後日、「せっかく同盟国の防衛首脳が会談したのに、実質的な議論が何もできないとは・・・」と強い不満を述べた。
日本側にも不満がある。
沖縄の米海兵隊は今年一月に、中規模の紛争・危機に即時対応するための旅団を編成したが、防衛庁・自衛隊には一切連絡はなく、今月十二日の海兵隊の基地内の情報紙の報道でようやく知った。
一九九六年の日米安保共同宣言には「在日米軍の兵力構成を含む軍事態勢について緊密に協議する」と明記されている。防衛庁幹部は「米軍の旅団編成は事前に把握しておきたかった。共同宣言が活用されていない」と漏らした。
最近では在日米軍駐留経費の日本負担分(思いやり予算)の改定問題や米軍厚木基地のダイオキシン問題でも摩擦が生じている。さらに、有事の際の日米間の連絡・調整機関となる「調整メカニズム」設置といった日米防衛協力の指針(ガイドライン)の具体化作業も停滞気味だ。
日米両国は共同宣言とガイドライン見直しで、冷戦後の国際情勢に合わせて同盟関係を再構築した。が、成熟した同盟関係というにはなお課題が多いのが実情だ。
米側では「同盟関係は単に維持するだけでは徐々に摩耗する。強固にする意識的な努力が必要だ」(国防総省関係者)との声が改めて強まっている。日本政府の認識も共通だ。
具体的な方策として、日米両政府が重視しているのが「戦略的対話」(カート・キャンベル前米国防次官補代理)だ。両政府当局者や有識者が様々なレベルでアジア・太平洋の安全保障の現状や将来について協議を深め、必要に応じて具体的な政策に反映させる作業である。中台関係、朝鮮半島情勢や、朝鮮半島統一後の在日・在韓米軍のあり方などがテーマに想定されている。
「アジアの安全保障という舞台で、米国が主役だとすれば、日本はこれまで演劇評論家だった。戦略的対話は、日本自身も役者になることを意味する」
防衛庁幹部はこう解説する。対北朝鮮政策に関する日米韓三国の政府高官による「調整グループ」は、そのモデルの一つだ。
コーエン長官の諮問委員会が先月発表した「二十一世紀の米国の国家安全保障」報告は、日米同盟について「より対等な戦略的パートナー関係を追求すべきだ」と提言した。背景には、国連平和維持活動(PKO)や戦域ミサイル防衛(TMD)などの分野で日本が自らの役割を拡大してほしいという期待がある。日本が集団的自衛権を行使できないという憲法上の制約についても変更を求める声が出ている。
ただ、日本が主体的に同盟強化に乗り出し、「より対等な日米関係」を築いていくことについては、細心の注意が必要という指摘も少なくない。
田中明彦東大教授は「軍事超大国の米国と対等な同盟国など存在しない。日本はまず、共通の価値観を前提とした米国との結束を明確にしたうえで、言うべきことは言う関係を築くことが大切だ」と強調する。
森首相は、五月五日の日米首脳会談で、「日米安保体制は、アジア太平洋地域の平和と安定に必要不可欠であり、その信頼性を向上させる努力をしていきたい」と語った。
言葉だけでなく、どう具体的に行動していくか、努力の中身が問われている。
日米安保条約の改定から来月二十三日で四十年、同盟関係強化の一歩となるガイドライン関連法の成立からあすで一年になる。日米安保体制は十分に機能しているか。安保の現状と課題を探る。
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